異世界旅は夢で出会った君と

空秋

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13話:異世界古書店⑤

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【ふん、無能な豚が調子に乗って我が領土に踏み込んできたから踏み潰してやったまでだ。そ奴の言うようなこの国の救済など、元より眼中にないわ】


ブラフマは黒く長い爪の生えた指でロイスを指した。


「またそのようなことを…」


【事実だ。しかし今は後悔している、お陰で私は月に縛られるはめになってしまったのだからな】


「月に縛られる?満月さんですか?」


柳の問にブラフマが頷く。


【そうだ、ルーラーはどの世界にも干渉出来る。なぜなら世界は無数に存在するが、ルーラーはたった一つ、唯一無二の存在だからだ】


「でも…そんなに暇なら、私達みたいに満月さんにお願いして他の世界に旅行にでも行けば良いんじゃないですか?」


「それが出来ないのよ」


柳の思い付きの提案に返事をしたのはカウンターに山積みにされた本を整えている女性だった。


「どうしてです?」


「ブラフマがいることによって、この国だけじゃなく、この世界自体が守られてるの」


「……誰から守ってるんです?世界を守るって…またスケールが広がり過ぎだと思いますが…あ、でも魔王ならおかしくはないのかな…?」


「これから貴方達も遭遇するかもしれないけど、私達の生きている軸とは別軸の存在がどの世界にも存在するの」


【邪神だ】


翡翠が順を追って柳に説明しようとしたが、すぐにブラフマが割って入った。


【ルーラーと同等…或いはそれ以上の力を持った存在だ。邪神という名の怪物と思った方が分かりやすいかもしれんな】


ブラフマの言葉は、柳の胸に重くぶつかり、柳はもう少しのところで背中から後ろにたおれてしまいそうだった。


「邪神……」


柳の表情が変わったのを見たブラフマは【お前はなにか身に覚えがありそうだな?】と赤い目を細めた。


「い、いえ…別に」


【気を付けろ、一度魅入られてしまえば何度でもお前を攫おうとするだろう】


ブラフマの言葉に柳は背中に汗が伝うのを感じた。


「その…邪神からこの世界を守る為にブラフマさんはいるってことなんですね?」


【ああ、そうだ】


「そもそも邪神はなぜこの世界を奪おうとしてるんですか?」


深刻な顔をする柳に、ブラフマは鼻で笑った。


【奪う?そんな大したことではない、奴等は陣地取りゲームをしているだけだ。それ自体に意味もなにもない。ただそういった生き物なんだ】


「生き物…」


【そうだ、奴等の何が厄介かと言うとゲームの駒として積極的に人間を使おうとする所だ。ルーラーは世界の軸として人間をマイノリティに選んだ、その人間がどんどん邪神のゲームの駒として減らされていくのをルーラーは防ぎたいのだ。だからといってこの私を防波堤替わりにするなど許せん】


「とか言って、大人しくいうこと聞いてる癖に。もう認めちゃえば良いのに、人間が好きだからって」


横から翡翠が茶化す様に口を挟むと、ブラフマは【人間などどうでもいい。ただ居れば暇つぶしに使えるからだ】とため息をついた。


「もし本当に邪神が攻めてきたら、ブラフマさんは戦うの?」


【それがルーラーから与えられた役割だからな】


「え、勝てる…の?」


ブラフマの答えに質問を投げかけたのは若葉だった。


【勝てる相手であれば勝てるだろうな】


(なんだそれ…答えになってない…)


不服そうな顔をする若葉に、ブラフマは【言っただろう、奴等も生き物だ。ハナから侵略目的の者も居れば、ただこの世界を練り歩くだけの者もいる。そして時にはそもそも陣地取りゲームにすら興味を持たず、別の趣向で生きている者もいる。だから一概に邪神だからと言って戦う必要があるかと言えばそうでないのだ】と補足した。


見た目に反して、あまりにも理性的な説明をするブラフマに若葉は内心驚きながらも、次の質問をする。


「じゃあ、もし戦ったとして、貴方が負けてしまったら…この世界はどうなるの?邪神の支配領域になるの?」


【私が消えた後のことはルーラーがなんとかするだろう。アレはその為にいるからな】


若葉の追求にブラフマは興味無さげに答えると、【そんなことより】と柳を見た。





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