俺達のヴォーカルが死んだ

空秋

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8話

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文化祭まで残り半月になったある日、暖は放課後、文化祭実行委員とステージ発表の打ち合わせを終え、部室に向かって歩いている途中、校舎の裏庭のベンチで晶が寝ているのを見つけた。


「アイツ…いつから寝てたんだ?」


暖は窓から裏庭へと出ると、晶の肩を揺すった。


「おい晶、練習するぞ」


「ん、」


体を揺する暖の手を晶は乱暴に振り払い、ほんの一瞬だけ、とても攻撃的な視線を暖に向けた。


「晶…?」


初めて見る晶のそんな表情に、暖は戸惑い、晶から一歩離れた所で晶がむくりと体を起こした。


「あ、暖。どーしたよこんな所で」


「いや、こんな所って…お前がこんな所に居たから起こしに来たんだろ」


伸びをしながら暖を見上げる晶の目は、いつものイタズラっぽく微笑む晶の瞳だった。



「マジか。サンキュー」


「家で寝れねーの?」


「まーな、コイツの母親、朝方帰って来て機嫌が悪いとあたってくんだよなー」


「お前そんなの気にしなさそうじゃん」


「そう思うじゃん?確かに俺自身は別にヘーキなんだけどさ、この体が母親を怖がってずっと緊張してんだよ。そのせいでずっとゆっくり出来ねーの。まあ、お陰で新曲は書ける訳だけど」


暖の言葉に晶は明るく笑い、おどけたように返す。


「……コイツ、だから自殺なんてしようとしたのか?」


「かもな」


頷く晶の顔を見つめ、暖がどんどんと深刻な表情になっていくのを見た晶は立ち上がって暖の硬い肩を叩いた。


「なんだよその顔!別に俺が死にてー訳じゃねーっての!」


「だとしても、お前がこのまま町田で居続けられるとは限らないだろ?」


「まあな」


「もし、お前が消えて、町田に戻ったらまた死のうとするんじゃないのか?」


暖の問に、晶はすぐ答えることをせず、ゆっくりと部室に向かって歩き出した。


そして後から暖が自分の横に追いついて来ると、いつになく真剣な声で話し始めた。



「俺、多分もう長くねーんだ」


「は?」


「いやだから、この体に居れるの。分かるんだよ、なんとなくだけど、もうリミット近いかな~って」


「マジかよ、文化祭までは大丈夫なのか?」


「正直分かんねー」


「分かんねーってお前…」


晶の答えに呆然とする暖はとうとう足を止めてしまった。


「だから頼むわ、コイツのこと。Violetの為にも、俺の為にも」


「俺だってそうしたいけど、町田もそう望むかは別問題だろ…」


「いや、違う。Violetの為…俺の為がコイツの為になるんだよ。Violetがコイツの唯一の居場所になって、生きる意味になるんだよ」


こちらを振り返って何故かは自信満々に言う晶に、暖は首を傾げた。


晶と町田の間には、自分達が想像出来ない何かがあるのだろうとは薄々感じてはいたが、だからといってここまで他人のことを断言出来るものだろうか。


「だから頼むよ、俺が消えてもコイツの居場所を取り上げないでくれ」


そう言って暖を見つめる晶の瞳は、温かくも悲哀に満ちたものだった。


(そんな顔されたら断れる訳ないだろ…)


「頼まれなくても分かってる。Violetの為は、俺のためでもあるからな」


そう言って今度は暖の方から晶に近付いて、町田の薄い体をどつくと、晶は「いてぇ」と言いながらもいつものいたずらっぽい笑みを零した。


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