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一章
旅立ちとマエストロ
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出発の日の朝、マリポーザがいつものマントをまとおうとすると、マグダレーナが新しい外套を差し出した。夏場に村に飛来するグースの羽毛を詰めた、軽くて暖かな外套だ。フードが付いて膝下まである長いそのマントは、マリポーザの大好きな色の緑の地に、白い糸で細かく花の刺繍が施してあった。
「出発が急だったからね。急いで作ったんだ」
マグダレーナは外套をマリポーザに着せ、抱きすくめた。
「身体に気をつけるんだよ」
「ありがとう、おばあちゃん」
マリポーザと家族が村の広場に着くと、もうそこには馬と馬車が待機して、村人や陸軍の兵士たちが荷を積んでいた。兵士たちは皆一様に、毛皮でできた帽子と分厚い外套に身を包んでいる。
「ああ」
アルトゥーロと地図を見ながら打ち合わせをしていたフェリペがマリポーザ達に気付き、優しく微笑む。
「準備はできたかい?」
「はい」
その笑顔を見てマリポーザはほっとする。
エミリオはマリポーザの荷物を兵士に渡しながら鼻をすすった。目が少し赤くなっている。母のマルガリータは目元をハンカチで抑えていた。
「ご安心下さい。精霊使い様の弟子となられる以上、全力で我々がお嬢さんを帝都まで御守りしますから。休暇の際には村に戻って来られるように尽力します」
フェリペは慰めるようにマルガリータの肩に手を置いた。するとマルガリータは声をあげて泣き始める。
「お父さん、お母さん。すぐ戻ってくるからね」
マリポーザは家族と抱き合うと、馬車に乗り込んだ。もうすでに馬車に乗り込んでいたアルトゥーロは書物を読んでいたが、ちらりとマリポーザに目をやった。
陸軍兵士たちに四方を守られながら、馬車がゆっくりと進み始めた。マリポーザは馬車から身を乗り出し、家族や村の皆に手を振る。家族の後ろにカルロスの姿が見える。カルロスも大きく手を振っていた。
「家族と仲が良いんだな」
村が遥か後方に小さくなっても、いつまでもマリポーザが身を乗り出して外を見ていると、アルトゥーロが呟いた。マリポーザは涙を拭って、馬車の窓の布を下げ、外の風景を断ち切った。
「それはもちろん。家族ですから」
「お前は幸せだな」
マリポーザが鼻をすすっていると、アルトゥーロが大きなブランケットを渡した。全身そのブランケットにくるまれると、マリポーザはほっと息を吐いた。暖かな外套に足元まで包まれていても、寒さが身を刺してくる。馬車の中でも寒いのだから、馬に乗っている兵士達はさぞや寒いだろう、とマリポーザは思った。
「マエストロは家族はいないのですか?」
「マエストロ?」
「あ、あの、精霊術の師匠なので……。だめですか?」
「いや、かまわん。新鮮だな」
アルトゥーロはふっと笑った。
「俺には家族はいない。今は宮殿の一角にある場所を研究所として根城にしている」
「え!? 私、宮殿に住むんですか!?」
「そうなるな」
ふわあっとマリポーザは大きく息を吐いた。顔が自然に笑ってしまう。帝都に行くということにも実感が湧かないのに、精霊使い様の弟子となって、宮殿に住むなんて想像がつかない。
「はっ!?」
もしかしたら、カルロスが言ったように、私は騙されているんじゃ? どこかに売られたり……。
青ざめてアルトゥーロを見ると、アルトゥーロは片肘を付きながらマリポーザを冷静な目で見ていた。
「お前は一人で赤くなったり青くなったり忙しいな。帝都まで退屈しそうにない」
「ひ、ひどい……」
「出発が急だったからね。急いで作ったんだ」
マグダレーナは外套をマリポーザに着せ、抱きすくめた。
「身体に気をつけるんだよ」
「ありがとう、おばあちゃん」
マリポーザと家族が村の広場に着くと、もうそこには馬と馬車が待機して、村人や陸軍の兵士たちが荷を積んでいた。兵士たちは皆一様に、毛皮でできた帽子と分厚い外套に身を包んでいる。
「ああ」
アルトゥーロと地図を見ながら打ち合わせをしていたフェリペがマリポーザ達に気付き、優しく微笑む。
「準備はできたかい?」
「はい」
その笑顔を見てマリポーザはほっとする。
エミリオはマリポーザの荷物を兵士に渡しながら鼻をすすった。目が少し赤くなっている。母のマルガリータは目元をハンカチで抑えていた。
「ご安心下さい。精霊使い様の弟子となられる以上、全力で我々がお嬢さんを帝都まで御守りしますから。休暇の際には村に戻って来られるように尽力します」
フェリペは慰めるようにマルガリータの肩に手を置いた。するとマルガリータは声をあげて泣き始める。
「お父さん、お母さん。すぐ戻ってくるからね」
マリポーザは家族と抱き合うと、馬車に乗り込んだ。もうすでに馬車に乗り込んでいたアルトゥーロは書物を読んでいたが、ちらりとマリポーザに目をやった。
陸軍兵士たちに四方を守られながら、馬車がゆっくりと進み始めた。マリポーザは馬車から身を乗り出し、家族や村の皆に手を振る。家族の後ろにカルロスの姿が見える。カルロスも大きく手を振っていた。
「家族と仲が良いんだな」
村が遥か後方に小さくなっても、いつまでもマリポーザが身を乗り出して外を見ていると、アルトゥーロが呟いた。マリポーザは涙を拭って、馬車の窓の布を下げ、外の風景を断ち切った。
「それはもちろん。家族ですから」
「お前は幸せだな」
マリポーザが鼻をすすっていると、アルトゥーロが大きなブランケットを渡した。全身そのブランケットにくるまれると、マリポーザはほっと息を吐いた。暖かな外套に足元まで包まれていても、寒さが身を刺してくる。馬車の中でも寒いのだから、馬に乗っている兵士達はさぞや寒いだろう、とマリポーザは思った。
「マエストロは家族はいないのですか?」
「マエストロ?」
「あ、あの、精霊術の師匠なので……。だめですか?」
「いや、かまわん。新鮮だな」
アルトゥーロはふっと笑った。
「俺には家族はいない。今は宮殿の一角にある場所を研究所として根城にしている」
「え!? 私、宮殿に住むんですか!?」
「そうなるな」
ふわあっとマリポーザは大きく息を吐いた。顔が自然に笑ってしまう。帝都に行くということにも実感が湧かないのに、精霊使い様の弟子となって、宮殿に住むなんて想像がつかない。
「はっ!?」
もしかしたら、カルロスが言ったように、私は騙されているんじゃ? どこかに売られたり……。
青ざめてアルトゥーロを見ると、アルトゥーロは片肘を付きながらマリポーザを冷静な目で見ていた。
「お前は一人で赤くなったり青くなったり忙しいな。帝都まで退屈しそうにない」
「ひ、ひどい……」
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