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一章
襲撃、再び
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「マエストロ、精霊術ってなんなのでしょうか。そもそも精霊ってなんですか?」
「精霊は火や風、水、土などの自然の元素を司る霊体だと俺は考えている。ここでの『霊体』は、我々の世界の住人ではないもの、という意味だ」
「私たちの世界? ということは、別の世界があるということですか?」
「そうだ。厳密には同じ世界なのだが、層がずれている」
マリポーザは難しい顔をして首をかしげる。全く理解できていない様子を見て、アルトゥーロは、鞄から紙を二枚取り出して重ねる。
「この二枚重なった紙そのものが世界だとする。この世界は一見ひとつに見えるのだが、実は一つずつ違う世界が重なってひとつの世界を作っている。そのそれぞれの世界が、精霊界と人間界だ。
精霊界と人間界は交わっている。だが精霊そのものに人間は触れないし、逆もまたしかりだ。たとえば、風には触ることができるし、風を壁などで防ぐこともできる。だが風の精霊シルフィデを触ることはできない。見ることもできない。お互い関係はしあっていても、違う世界にいるということだ」
「でも、マエストロや私は見ることができる……」
「何事にも例外はある。どういう理由かはわからないが、俺には精霊が見えるし、触れることもできる」
「ええ!? 触れるんですか?」
「ああ。俺は生まれたときから、精霊界と人間界両方のものに触れることができる。ある地域に精霊信仰があるように、昔から精霊を見ることができた人間は、少ないながらもいたんだろう。お前のようにな。
だが、様々な文献や伝承を調べているが、精霊に触ることができる人間がいたという記述は、これまでに見つかっていない」
そのとき突然ガクンと馬車が揺れた。マリポーザは慌てて馬車の壁に手をついて身体を支える。
「なんだ!?」
アルトゥーロが叫ぶ。
「また襲撃です! 床に伏せて身をかがめていてください!」
馬車の外からフェリペの声が聞こえた。馬のいななきと、慌ただしい蹄の音が馬車の周りからする。
私たち襲われてるの? なんで? 誰に? 混乱しながらもフェリペの言う通りに床に伏せつつ、マリポーザは恐怖で青ざめる。
矢の飛ぶ音と剣戟、そして兵士たちの怒声が響く。
「矢の来た方角は四時の方向だ! ジョルディとダニエルが追え!」
フェリペの命令で二騎が駆け出す音がする。
マリポーザは震えながら、外の音に耳を澄ませていた。永遠に続くかのように思われたが、実際は数分ほどだったか。辺りが静かになり、馬がたまに鼻をならしながら周りを歩く音だけが響いた。
しばらく経って馬が走る音が近づいてきた。
「どこにも見当たらないっすね。方角からして樹の上から矢を放ったんだと思いますが」
「雪の上の靴跡がきれいに消されています。痕跡がわずかに残っていたので大体の位置は掴めましたが、かなりの遠い距離から射って来ています」
「わざと外しているのか、距離が遠くて当たらなかったのかはわかんねえすけど。どちらにせよかなりの手練っすね、これは」
そこでふと会話が止み、声を潜めた会話に変わる。
「この話は後で詳しくしよう」
フェリペが言うのがかろうじて聞き取れた。
馬がこちらに近づいてくる音がする。
「ご心配おかけしましたが、こちらに被害もなく、無事に撃退しました。また帝都へと進行いたします。今夜中には宿泊予定の村に着きますので、ご安心を」
フェリペが窓を覆っている布をめくらずに、馬車の中に向かって話かけてきた。
「ああ、早く着くように出発しよう」
アルトゥーロはもうすでに身を起こして襲撃前と変わらない格好で座っていた。床に伏せていたマリポーザも、慌てて椅子に腰をかける。馬車は次の村を目指し、また雪路を走り始めた。
「精霊は火や風、水、土などの自然の元素を司る霊体だと俺は考えている。ここでの『霊体』は、我々の世界の住人ではないもの、という意味だ」
「私たちの世界? ということは、別の世界があるということですか?」
「そうだ。厳密には同じ世界なのだが、層がずれている」
マリポーザは難しい顔をして首をかしげる。全く理解できていない様子を見て、アルトゥーロは、鞄から紙を二枚取り出して重ねる。
「この二枚重なった紙そのものが世界だとする。この世界は一見ひとつに見えるのだが、実は一つずつ違う世界が重なってひとつの世界を作っている。そのそれぞれの世界が、精霊界と人間界だ。
精霊界と人間界は交わっている。だが精霊そのものに人間は触れないし、逆もまたしかりだ。たとえば、風には触ることができるし、風を壁などで防ぐこともできる。だが風の精霊シルフィデを触ることはできない。見ることもできない。お互い関係はしあっていても、違う世界にいるということだ」
「でも、マエストロや私は見ることができる……」
「何事にも例外はある。どういう理由かはわからないが、俺には精霊が見えるし、触れることもできる」
「ええ!? 触れるんですか?」
「ああ。俺は生まれたときから、精霊界と人間界両方のものに触れることができる。ある地域に精霊信仰があるように、昔から精霊を見ることができた人間は、少ないながらもいたんだろう。お前のようにな。
だが、様々な文献や伝承を調べているが、精霊に触ることができる人間がいたという記述は、これまでに見つかっていない」
そのとき突然ガクンと馬車が揺れた。マリポーザは慌てて馬車の壁に手をついて身体を支える。
「なんだ!?」
アルトゥーロが叫ぶ。
「また襲撃です! 床に伏せて身をかがめていてください!」
馬車の外からフェリペの声が聞こえた。馬のいななきと、慌ただしい蹄の音が馬車の周りからする。
私たち襲われてるの? なんで? 誰に? 混乱しながらもフェリペの言う通りに床に伏せつつ、マリポーザは恐怖で青ざめる。
矢の飛ぶ音と剣戟、そして兵士たちの怒声が響く。
「矢の来た方角は四時の方向だ! ジョルディとダニエルが追え!」
フェリペの命令で二騎が駆け出す音がする。
マリポーザは震えながら、外の音に耳を澄ませていた。永遠に続くかのように思われたが、実際は数分ほどだったか。辺りが静かになり、馬がたまに鼻をならしながら周りを歩く音だけが響いた。
しばらく経って馬が走る音が近づいてきた。
「どこにも見当たらないっすね。方角からして樹の上から矢を放ったんだと思いますが」
「雪の上の靴跡がきれいに消されています。痕跡がわずかに残っていたので大体の位置は掴めましたが、かなりの遠い距離から射って来ています」
「わざと外しているのか、距離が遠くて当たらなかったのかはわかんねえすけど。どちらにせよかなりの手練っすね、これは」
そこでふと会話が止み、声を潜めた会話に変わる。
「この話は後で詳しくしよう」
フェリペが言うのがかろうじて聞き取れた。
馬がこちらに近づいてくる音がする。
「ご心配おかけしましたが、こちらに被害もなく、無事に撃退しました。また帝都へと進行いたします。今夜中には宿泊予定の村に着きますので、ご安心を」
フェリペが窓を覆っている布をめくらずに、馬車の中に向かって話かけてきた。
「ああ、早く着くように出発しよう」
アルトゥーロはもうすでに身を起こして襲撃前と変わらない格好で座っていた。床に伏せていたマリポーザも、慌てて椅子に腰をかける。馬車は次の村を目指し、また雪路を走り始めた。
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