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二章
皇帝は少女?
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「ようこそいらっしゃいました。まぁ随分可愛らしい精霊使いですこと!」
日が落ちてからフェリペの屋敷につくと、黒と薄ピンクのドレスに身を包んだフアナが玄関ホールに飛び出して来て、マリポーザに抱きついた。マリポーザはフアナを見て、驚いて息をのむ。高く結い上げた髪は漆黒。目は深紫。つい先程謁見した皇帝アマデーオに瓜二つだった。
「驚いてるな」
フェリペが意地悪そうにニヤニヤとする。フェリペは軍服を脱ぎ、白いシャツにダークグレーのパンツという、リラックスした服装に着替えていた。
「ああ、皇帝陛下にお会いになったのね。私たち従兄弟なの。私と陛下は小さい頃からお顔がとても似ているのよ」
フアナはにこにこと屈託なく笑った。
「あらいけない、私ったらご挨拶がまだでしたわね。フアナ・デ・アラゴニア・エスティリア、フェリペの妹ですわ」
フアナはスカートの裾を持ち優雅に礼をする。
「マリポーザ・プエンテです。初めまして」
マリポーザも頭を下げた。
「マリポーザはおいくつなの?」
「十五になります」
「まあ、では私より一つ下ね。妹ができたみたいで嬉しいわ」
おしゃべりをしながらフアナはマリポーザたちを食堂へと案内する。広い食堂には大きなテーブルがあり、フェリペとフアナの両親が待っていた。二人ともおっとりとした優しそうな人たちだ、とマリポーザは挨拶をしながら思う。
「それにしても、皇帝陛下って大変なんですね」
前菜のビーツのサラダを食べながらマリポーザは考え込むように言った。
「あら、どうして? お会いした時に何かありましたの?」
フアナはナプキンで口を拭いながら問う。
「だって、あんなにお小さくて可愛らしいのに、男のふりをして皇帝にならなければいけないなんて」
一瞬食堂が静まり返ったあと、部屋が笑いに包まれた。フェリペだけは青い顔をしている。
「ああ、おかしい。マリポーザ、皇帝陛下は男性よ」
フアナは口を隠しながらも大笑いをして言った。
「え、そうなんですか? 綺麗な方だったから、つい……」
マリポーザは顔を赤くする。
「あとね、皇帝陛下に決してそのことを言ってはだめよ。あの方は勇ましいとか、強いというお言葉が好きなの。昔、女の子みたいと言ったら、とても怒ってらしたわ」
「よくお会いになるんですか?」
「皇帝に即位されてからは、全然。小さい頃はよく遊んだのよ。従兄弟ですし、私より二つ下で年が近かったから。二人で宮殿を探検したりしてね」
フアナがいたずらっぽく笑うと、フェリペも懐かしそうに微笑む。
「よく二人が遊んでいる途中に消えるものだから、使用人たちはもちろん、僕も一緒に探してね。でも消えた場所からずいぶん離れた変なところにいることが多くて、見つけるのに苦労したよ。
大体は子どもの泣き声が聞こえて、それを頼りに見つけたんだ。見つけた時はいつも皇帝陛下が泣いていてね。フアナはその手を握ったまま、困った様子でぽかんとしていることが多かった」
「陛下は探検がお好きでね、いつもずんずん一人で進んで行ってしまうのだけれど、最後にはご自分がどこにいるのかわからなくなって、泣いてしまうのよ。おかしいでしょう?
あの頃が懐かしいわ……」
フアナは寂しげに笑った。
「もう随分と陛下にはお会いしていないので、変わってしまわれたかもしれないわね」
日が落ちてからフェリペの屋敷につくと、黒と薄ピンクのドレスに身を包んだフアナが玄関ホールに飛び出して来て、マリポーザに抱きついた。マリポーザはフアナを見て、驚いて息をのむ。高く結い上げた髪は漆黒。目は深紫。つい先程謁見した皇帝アマデーオに瓜二つだった。
「驚いてるな」
フェリペが意地悪そうにニヤニヤとする。フェリペは軍服を脱ぎ、白いシャツにダークグレーのパンツという、リラックスした服装に着替えていた。
「ああ、皇帝陛下にお会いになったのね。私たち従兄弟なの。私と陛下は小さい頃からお顔がとても似ているのよ」
フアナはにこにこと屈託なく笑った。
「あらいけない、私ったらご挨拶がまだでしたわね。フアナ・デ・アラゴニア・エスティリア、フェリペの妹ですわ」
フアナはスカートの裾を持ち優雅に礼をする。
「マリポーザ・プエンテです。初めまして」
マリポーザも頭を下げた。
「マリポーザはおいくつなの?」
「十五になります」
「まあ、では私より一つ下ね。妹ができたみたいで嬉しいわ」
おしゃべりをしながらフアナはマリポーザたちを食堂へと案内する。広い食堂には大きなテーブルがあり、フェリペとフアナの両親が待っていた。二人ともおっとりとした優しそうな人たちだ、とマリポーザは挨拶をしながら思う。
「それにしても、皇帝陛下って大変なんですね」
前菜のビーツのサラダを食べながらマリポーザは考え込むように言った。
「あら、どうして? お会いした時に何かありましたの?」
フアナはナプキンで口を拭いながら問う。
「だって、あんなにお小さくて可愛らしいのに、男のふりをして皇帝にならなければいけないなんて」
一瞬食堂が静まり返ったあと、部屋が笑いに包まれた。フェリペだけは青い顔をしている。
「ああ、おかしい。マリポーザ、皇帝陛下は男性よ」
フアナは口を隠しながらも大笑いをして言った。
「え、そうなんですか? 綺麗な方だったから、つい……」
マリポーザは顔を赤くする。
「あとね、皇帝陛下に決してそのことを言ってはだめよ。あの方は勇ましいとか、強いというお言葉が好きなの。昔、女の子みたいと言ったら、とても怒ってらしたわ」
「よくお会いになるんですか?」
「皇帝に即位されてからは、全然。小さい頃はよく遊んだのよ。従兄弟ですし、私より二つ下で年が近かったから。二人で宮殿を探検したりしてね」
フアナがいたずらっぽく笑うと、フェリペも懐かしそうに微笑む。
「よく二人が遊んでいる途中に消えるものだから、使用人たちはもちろん、僕も一緒に探してね。でも消えた場所からずいぶん離れた変なところにいることが多くて、見つけるのに苦労したよ。
大体は子どもの泣き声が聞こえて、それを頼りに見つけたんだ。見つけた時はいつも皇帝陛下が泣いていてね。フアナはその手を握ったまま、困った様子でぽかんとしていることが多かった」
「陛下は探検がお好きでね、いつもずんずん一人で進んで行ってしまうのだけれど、最後にはご自分がどこにいるのかわからなくなって、泣いてしまうのよ。おかしいでしょう?
あの頃が懐かしいわ……」
フアナは寂しげに笑った。
「もう随分と陛下にはお会いしていないので、変わってしまわれたかもしれないわね」
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