上 下
33 / 69
三章

逃亡

しおりを挟む
 囚人は規則正しい寝息を立てている。どうやらよく寝入っているようだ。ほっとしたマリポーザは、足音を立てないようにしつつ、小走りでその場を後にした。

 十分以上歩いただろうか。廊下の突き当たりに着く。目の前には壁が立ちはだかり横には空の牢屋のみで、扉はどこにも見当たらない。マリポーザが辺りをきょろきょろを見回していると、フードの人物は石造りの壁の突起につかまり、壁を登り始めた。

 大人の背丈よりも上の高さまで上ると、通風口の格子を外し、中にするりと入り込む。そして下にいるマリポーザに手を伸ばす。マリポーザも必死に壁を登る。フードの人物の手に捕まり、なんとか通風口の中に潜り込んだ。
に手を伸ばす。マリポーザも必死に壁を登る。フードの人物の手に捕まり、なんとか通風口の中に潜り込んだ。

 二人は無言で通風口の中を這って進んだ。フードの人物もマリポーザもようやっと通れる大きさだ。それでもたまに身体がひっかかり、冷やりとする場面もあった。

(もしこのまま、ここで詰まってしまったらどうしよう……)
 マリポーザが、通風口に詰まって身動きとれない自分を想像し始めたとき、前を進んでいたフードの人物が止まる。

「むぐっ」
 マリポーザは前の人物にぶつかった。

 フードの人物はそんなマリポーザを意に介さず、慎重に辺りをうかがってから、ひらりと下に飛び降りた。マリポーザも続いて下に飛び降りる。

 飛び降りたところは食料庫だった。ところ狭しと小麦やジャガイモなどが入った袋が置いてあり、ワインの樽も寝かせてある。天井からは塩漬けにした燻製肉がいくつもぶら下がっている。

 フードの人物は扉の反対側にある壁に近づき、足元に置いてあるジャガイモの袋をどかす。そして燻製肉をくぐるようにして、壁の突起部分を押した。
 すると静かな振動音とともに、隠し階段が現れた。

 フードの人物はマリポーザを振り向き、手招きをする。マリポーザは慌てて後を追う。階段を上る前にジャガイモや燻製肉を元の位置に戻し、食料を動かしたことを気付かれないようにした。

「おい、何か音がしたか?」
 遠くで人の声がする。
「気のせいだろ」
「いや、この奥で何か……」
 二人の男の会話が近づいてくる。

 マリポーザとフードの人物は隠し階段に上り、物陰に身をひそめる。
「こんなところに何がいるって言うんだよ。どうせネズミか何かだろ」
「そういえば、お前聞いたことがあるか? この城の亡霊の話」
 声はどんどん近づいてくる。
(隠し階段が見つかったらおしまいだわ……)
 マリポーザは口に手をあててわずかな音も漏らさないようにする。心臓が今にも飛び出しそうだ。自分の鼓動の音がいやに大きく聞こえた。
しおりを挟む

処理中です...