冬の帝国と精霊対話師

アウグスト葉月

文字の大きさ
43 / 69
四章

風の妖精キルト

しおりを挟む
 精霊界に着いた日から、マリポーザは身ぶり手振りを用いて、精霊語を必死に学び始めた。メヌも根気よく付き合ってくれた。マリポーザの怪我が治り、メヌと一緒に荒れ地を散策できるようになってきた頃には、不完全ながらもなんとなく意思の疎通ができるようになっていた。


「だんだん埋まってきたわね」
 精霊語の辞書に覚えた単語を書き込みながら、マリポーザはにんまりと笑う。
 アルトゥーロが書き留めていた言葉に加えて、マリポーザが新しく知った言葉を書き込んでいったので、辞書の中身が充実してきた。とはいえ、まだまだ知らない言葉がたくさんあるわけだが。

 最初にアルトゥーロの名前を聞いた後からずっと、メヌはアルトゥーロに関する話題を避けている。『どうしてアルトゥーロさんを知っているの?』という質問を何度かしたが、黙って首を振るばかりで何も答えなかった。

 ある日、洞窟のメヌの住居でマリポーザがいつものように精霊語の勉強をしていると、メヌは耳をぴくぴくと動かし、ぬうっと立ち上がった。そこで初めてマリポーザは地鳴りのような音に気づいた。

 メヌは洞窟から出て、マリポーザを後ろにかばいながら外に立った。マリポーザはメヌの大きな背中に隠れながら恐る恐る外を見る。

 真っ赤な岩山の間を、大きな竜巻が地響きをたててこちらに向かって来ていた。


 大地の土や草など全てを巻き上げながら、渦巻く突風が近づいてくる。煙のような砂埃にマリポーザは目を開けていられず、メヌに掴まりながらぎゅっと目を閉じた。ごうごうと唸る風に混じって、子どもの笑い声がする。
「え?」
 驚いたマリポーザが目を開けると、竜巻は消え去っていた。

 その代わりに、五歳ぐらいの男の子が空に浮かんでニコニコと笑っている。
『あれ、人間じゃないかぁ? なんでこんなところにいるの?』
 男の子は空で宙返りをしながら、舌っ足らずな口調の精霊語で話した。マリポーザはこの子は風の精霊シルフィデだ、と気づいた。村で感じた気配はこの子に違いない、と。

『あ、チョウチョだ!』
 シルフィデは目の前を飛ぶ蝶に目を奪われ、気が済むまで追いかけたあとに、また戻って来る。そしてマリポーザを指差した。
『僕、君を知ってるよ』
『やっぱり! 村で会いましたよね』
 精霊だから丁寧な口調がいいのか、それとも子どもに話しかける口調がいいのか迷いながら、マリポーザはとりあえず丁寧語で話しかけた。するとシルフィデは首を傾げる。
『僕は君と会ったことはないよ?』
『え、でも……?』
 困惑するマリポーザを見て、さもおかしそうにシルフィデは笑う。
『僕たちは一つで皆、皆で一つ。ほかのキルトが知ってることは、もちろんキルト皆が知ってるよ』
『キルト?』
 今度はマリポーザが首を傾げる番だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

【コミカライズ決定】愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
【コミカライズ決定の情報が解禁されました】 ※レーベル名、漫画家様はのちほどお知らせいたします。 ※配信後は引き下げとなりますので、ご注意くださいませ。 愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

【完結】英雄様、婚約破棄なさるなら我々もこれにて失礼いたします。

ファンタジー
「婚約者であるニーナと誓いの破棄を望みます。あの女は何もせずのうのうと暮らしていた役立たずだ」 実力主義者のホリックは魔王討伐戦を終結させた褒美として国王に直談判する。どうやら戦争中も優雅に暮らしていたニーナを嫌っており、しかも戦地で出会った聖女との結婚を望んでいた。英雄となった自分に酔いしれる彼の元に、それまで苦楽を共にした仲間たちが寄ってきて…… 「「「ならば我々も失礼させてもらいましょう」」」 信頼していた部下たちは唐突にホリックの元を去っていった。 微ざまぁあり。

処理中です...