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四章
あなたはどうしたい?
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『あの、でも……アルトゥーロさんは、人間のためだと思ってやったのです。命令をするのがそんなに悪いことだとは知らなかったと思います。人間を救うためにアンジーム様に、命令をしてしまったのです』
マリポーザは怖かったが、アルトゥーロの名誉を守るために必死にアンジームに説明をする。するとアンジームは、文字通り冷笑を浮かべた。顔が凍てつき、冷気が漂う。
『精霊に人間が命令することを、悪いと思わなかったのですか? それこそが思い上がっている証拠です』
『も、申し訳ございません……』
マリポーザは縮こまる。
『それにですね、マリポーザ。奴は人間を救ってなどいませんよ』
『でも、マエストロは、アルトゥーロさんは確かに、私の村の雪を止めてくれました。それで救われた人がいるのは本当なんです!』
『その村では、ということですね』
アンジームは苦笑をした。
『あなた達は根本的に思い違いをしています。雪は止んだのではありません。移動したのですよ』
『と、いうと……?』
マリポーザは血の気が引くのがわかった。まさか、と思う。
『もう気づいているのでしょう? あなたの村の上空で降っていた雪は、アルトゥーロの術により止められました。しかしそれによって腹を立てた私たちは、ほかの場所で雪をもっと降らせたのです。
いいですか。降るはずの雪が降らない、ということはないのです。その場所で降らせることができないのであれば、違う場所で降らせるまでのこと。
本来はそこまで降るはずでなかった場所に、アルトゥーロの術のせいでもっと多くの雪が降りました。その歪みによって、その地域では雪崩や崖崩れが起きたのです』
マリポーザはうつむいた。私たちの村を救うために、ほかの地域を犠牲にしていたなんて……。それじゃあ、精霊術って何の意味があるんだろう?
落ち込んだマリポーザをアンジームはじっと見つめた。姿は水に戻っており、瞳は深い海の色をしている。
『人間は何百年経っても、いつまでも愚かなままですね……。
しかし私達精霊も、過ちを犯さない訳ではありません。現にあの時の山火事で、コロノンザーも最大の禁忌を犯しました』
『コロノンザー?』
『火の精霊です。あなたたちの言葉で言うならサラマンドラでしょうか。コロノンザーは怒りに身を任せて、存在の否定をしてしまいました。つまり、アルトゥーロの存在を消してしまったのです』
『存在を、消した……』
『我々精霊は、ある日その存在が消えることがあります。自然の理で、その消える時期は決まっています。しかし、その時期でないのに存在を消すことは大罪です』
マエストロが死んでいると精霊に告げられたことに、マリポーザは打ちのめされた。どこかで生きているのではないかと淡い期待を抱いていたのだが、それが打ち砕かれる。
『でも、焼け跡からは遺体が見つからなかったのです』
すがるようにマリポーザは言った。アンジームは残念そうに首を振った。
『それは精霊が存在を消したからだと思います。通常の場合、人間は活動を停止すると
霊体となり、肉体から離れます。しかしコロノンザーは、霊体も肉体も全てを消したのではないでしょうか。
ですがこれは想像です。私たちアンジームは直接その場を見ていません。コロノンザーに直接聞けば詳しくわかるかもしれませんが……。
マリポーザ、あなたはこれからどうしたいですか?』
これからどうしたいか、と問われてマリポーザは黙り込んだ。
(どうしたいって聞かれても、どうしようもないわ。何もできないじゃない)
精霊の世界にこのまま居てもいいものなのか。できることなら人間の世界に帰りたいが帰る方法がわからない。しかも戻れたとしても、裁判の前に牢屋から逃げ出してしまったから、帝国には戻れない。戻っても処刑される可能性が大きい。
精霊術をもっと学んで人のためになれれば、と思ったけれど、それも意味がないことがわかった。嫌がる精霊に命令をして無理矢理言うことを聞かせても、自然の理を歪めて災害をもたらすだけだ。
『わかりません……』
マリポーザはうつむいたまま首を振った。
マリポーザは怖かったが、アルトゥーロの名誉を守るために必死にアンジームに説明をする。するとアンジームは、文字通り冷笑を浮かべた。顔が凍てつき、冷気が漂う。
『精霊に人間が命令することを、悪いと思わなかったのですか? それこそが思い上がっている証拠です』
『も、申し訳ございません……』
マリポーザは縮こまる。
『それにですね、マリポーザ。奴は人間を救ってなどいませんよ』
『でも、マエストロは、アルトゥーロさんは確かに、私の村の雪を止めてくれました。それで救われた人がいるのは本当なんです!』
『その村では、ということですね』
アンジームは苦笑をした。
『あなた達は根本的に思い違いをしています。雪は止んだのではありません。移動したのですよ』
『と、いうと……?』
マリポーザは血の気が引くのがわかった。まさか、と思う。
『もう気づいているのでしょう? あなたの村の上空で降っていた雪は、アルトゥーロの術により止められました。しかしそれによって腹を立てた私たちは、ほかの場所で雪をもっと降らせたのです。
いいですか。降るはずの雪が降らない、ということはないのです。その場所で降らせることができないのであれば、違う場所で降らせるまでのこと。
本来はそこまで降るはずでなかった場所に、アルトゥーロの術のせいでもっと多くの雪が降りました。その歪みによって、その地域では雪崩や崖崩れが起きたのです』
マリポーザはうつむいた。私たちの村を救うために、ほかの地域を犠牲にしていたなんて……。それじゃあ、精霊術って何の意味があるんだろう?
落ち込んだマリポーザをアンジームはじっと見つめた。姿は水に戻っており、瞳は深い海の色をしている。
『人間は何百年経っても、いつまでも愚かなままですね……。
しかし私達精霊も、過ちを犯さない訳ではありません。現にあの時の山火事で、コロノンザーも最大の禁忌を犯しました』
『コロノンザー?』
『火の精霊です。あなたたちの言葉で言うならサラマンドラでしょうか。コロノンザーは怒りに身を任せて、存在の否定をしてしまいました。つまり、アルトゥーロの存在を消してしまったのです』
『存在を、消した……』
『我々精霊は、ある日その存在が消えることがあります。自然の理で、その消える時期は決まっています。しかし、その時期でないのに存在を消すことは大罪です』
マエストロが死んでいると精霊に告げられたことに、マリポーザは打ちのめされた。どこかで生きているのではないかと淡い期待を抱いていたのだが、それが打ち砕かれる。
『でも、焼け跡からは遺体が見つからなかったのです』
すがるようにマリポーザは言った。アンジームは残念そうに首を振った。
『それは精霊が存在を消したからだと思います。通常の場合、人間は活動を停止すると
霊体となり、肉体から離れます。しかしコロノンザーは、霊体も肉体も全てを消したのではないでしょうか。
ですがこれは想像です。私たちアンジームは直接その場を見ていません。コロノンザーに直接聞けば詳しくわかるかもしれませんが……。
マリポーザ、あなたはこれからどうしたいですか?』
これからどうしたいか、と問われてマリポーザは黙り込んだ。
(どうしたいって聞かれても、どうしようもないわ。何もできないじゃない)
精霊の世界にこのまま居てもいいものなのか。できることなら人間の世界に帰りたいが帰る方法がわからない。しかも戻れたとしても、裁判の前に牢屋から逃げ出してしまったから、帝国には戻れない。戻っても処刑される可能性が大きい。
精霊術をもっと学んで人のためになれれば、と思ったけれど、それも意味がないことがわかった。嫌がる精霊に命令をして無理矢理言うことを聞かせても、自然の理を歪めて災害をもたらすだけだ。
『わかりません……』
マリポーザはうつむいたまま首を振った。
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