53 / 69
四章
アルトゥーロの遺志
しおりを挟む
『奴が妾に命令したからじゃ。人間の分際で』
コロノンザーの黒い瞳の中に炎が灯った。また火口からグツグツと溶岩が沸き立つ。
『私の大切な人を、そんなに簡単に消さないで。
あなたたち精霊にとって、命令をされることがどんなに嫌なことか、知らなかったの。それは謝るわ。確かに私たちは傲慢だった。自分の都合を押し付けて、命令して、それは悪いと思ってる。
でも、存在を消してしまうなんて、ひどいじゃない。霊体も肉体も消してしまうなんて、ひどすぎるわ。アルトゥーロさんは、この世界のどこにもいなくなってしまった。声も聞けないし、顔も見られない。もう会えないのよ』
マリポーザは涙をこぼしながら抗議した。コロノンザーは慌てて取りなす。
『それは本当にすまなんだ。腹が立ったとはいえ、消すのはやりすぎじゃった。じゃが、人間はほかにも沢山いるじゃろう。だから許してくりゃれ?』
『違うの、そうじゃないの』
マリポーザは首を振った。
『精霊は、一人が消えてもほかにもいっぱいいるのかもしれないけど。人間はそうじゃないの。一人が消えてしまったら、キルト全部が消えてしまうようなものなの。
アルトゥーロさんが消えてしまったら、ほかの誰も代わりにならない。あなたたちにとっては、大勢の人間の中の一人なのかもしれないけど、私にとっては違うの。
人一人が消えてしまうのは、周りの人間にとっては、とっても大きなことなの』
『人は一人が消えると、キルト全部が消えるのと同じ……か』
コロノンザーはキルトを見る。キルトは首をかしげる。しばらくコロノンザーは考えていたが、腑に落ちないまでも、何か感じるところはあるようだった。
『精霊である妾にはようわからんが。それでも太古に人間と交わっていた頃の記憶が微かに戻って来た。人間は弱きものであったとか。妾達とは違うものであったとか』
コロノンザーは遥か遠くに過ぎ去った過去を見るかのように、遠い目をした。
『そうじゃ、思い出して来た。あの山火事の時、お主もいたの。樹の下敷きになりそうになったお主をアルトゥーロがかばったのじゃった。
その時にのう、思ったのじゃ。精霊はほかの存在をかばって、代わりに自分が消えるということは決してせぬ。そんなことは思いもつかぬ。だから、アルトゥーロの行為に驚いて感銘を受けたのじゃよ。
そして我々は違う存在だということを思い知らされた。だから妾に命令をしたのに腹は立ったが、人間は精霊とは考え方が違うからの。仕方がない部分もあるのかもしれん、とも思ったのじゃ。もうその時にはすでに手遅れじゃったがの……。
精霊に命令することを許す気はないがのう、本当にすまなんだと思っておるのじゃ』
コロノンザーに深々と謝られたが、マリポーザは許せるとは言えなかった。黙って泣き続けるマリポーザに手を伸ばしかけ、そしてコロノンザーは手を引っ込めた。
『妾は人間には触れられぬ。本当は触れて慰めたいのじゃが、この手は炎でできておるからの。お主を傷つけるだけじゃ。
妾は取り返しのつかない過ちを犯してしまった。本来はアルトゥーロに詫びるべきなのじゃが、もはやそれは叶わぬ。じゃから、アルトゥーロが命をかけて守ったお主に代わりに詫びよう。お主は、これからどうしたいのじゃ? 何をしても償いにはならぬかもしれんが、お詫びに妾ができる限りのことをしよう』
『マリポーザはねぇ、人間界に帰りたいんだって』
今まで大人しくしていたキルトが口を出す。
『帰りたいか。望みはそれだけか?』
『アルトゥーロさんを返してほしいです』
『それはできぬ。一度存在が消えたものを戻す方法はないのじゃ。すまぬ』
『じゃあ……。私、できることなら、アルトゥーロさんの遺志を次いで、精霊術を続けたいです』
その言葉を聞いて、コロノンザーもキルトも渋い顔をする。
『お主は懲りないのかえ?』
『マリポーザも僕に命令したいの? 僕、嫌だよ』
コロノンザーの黒い瞳の中に炎が灯った。また火口からグツグツと溶岩が沸き立つ。
『私の大切な人を、そんなに簡単に消さないで。
あなたたち精霊にとって、命令をされることがどんなに嫌なことか、知らなかったの。それは謝るわ。確かに私たちは傲慢だった。自分の都合を押し付けて、命令して、それは悪いと思ってる。
でも、存在を消してしまうなんて、ひどいじゃない。霊体も肉体も消してしまうなんて、ひどすぎるわ。アルトゥーロさんは、この世界のどこにもいなくなってしまった。声も聞けないし、顔も見られない。もう会えないのよ』
マリポーザは涙をこぼしながら抗議した。コロノンザーは慌てて取りなす。
『それは本当にすまなんだ。腹が立ったとはいえ、消すのはやりすぎじゃった。じゃが、人間はほかにも沢山いるじゃろう。だから許してくりゃれ?』
『違うの、そうじゃないの』
マリポーザは首を振った。
『精霊は、一人が消えてもほかにもいっぱいいるのかもしれないけど。人間はそうじゃないの。一人が消えてしまったら、キルト全部が消えてしまうようなものなの。
アルトゥーロさんが消えてしまったら、ほかの誰も代わりにならない。あなたたちにとっては、大勢の人間の中の一人なのかもしれないけど、私にとっては違うの。
人一人が消えてしまうのは、周りの人間にとっては、とっても大きなことなの』
『人は一人が消えると、キルト全部が消えるのと同じ……か』
コロノンザーはキルトを見る。キルトは首をかしげる。しばらくコロノンザーは考えていたが、腑に落ちないまでも、何か感じるところはあるようだった。
『精霊である妾にはようわからんが。それでも太古に人間と交わっていた頃の記憶が微かに戻って来た。人間は弱きものであったとか。妾達とは違うものであったとか』
コロノンザーは遥か遠くに過ぎ去った過去を見るかのように、遠い目をした。
『そうじゃ、思い出して来た。あの山火事の時、お主もいたの。樹の下敷きになりそうになったお主をアルトゥーロがかばったのじゃった。
その時にのう、思ったのじゃ。精霊はほかの存在をかばって、代わりに自分が消えるということは決してせぬ。そんなことは思いもつかぬ。だから、アルトゥーロの行為に驚いて感銘を受けたのじゃよ。
そして我々は違う存在だということを思い知らされた。だから妾に命令をしたのに腹は立ったが、人間は精霊とは考え方が違うからの。仕方がない部分もあるのかもしれん、とも思ったのじゃ。もうその時にはすでに手遅れじゃったがの……。
精霊に命令することを許す気はないがのう、本当にすまなんだと思っておるのじゃ』
コロノンザーに深々と謝られたが、マリポーザは許せるとは言えなかった。黙って泣き続けるマリポーザに手を伸ばしかけ、そしてコロノンザーは手を引っ込めた。
『妾は人間には触れられぬ。本当は触れて慰めたいのじゃが、この手は炎でできておるからの。お主を傷つけるだけじゃ。
妾は取り返しのつかない過ちを犯してしまった。本来はアルトゥーロに詫びるべきなのじゃが、もはやそれは叶わぬ。じゃから、アルトゥーロが命をかけて守ったお主に代わりに詫びよう。お主は、これからどうしたいのじゃ? 何をしても償いにはならぬかもしれんが、お詫びに妾ができる限りのことをしよう』
『マリポーザはねぇ、人間界に帰りたいんだって』
今まで大人しくしていたキルトが口を出す。
『帰りたいか。望みはそれだけか?』
『アルトゥーロさんを返してほしいです』
『それはできぬ。一度存在が消えたものを戻す方法はないのじゃ。すまぬ』
『じゃあ……。私、できることなら、アルトゥーロさんの遺志を次いで、精霊術を続けたいです』
その言葉を聞いて、コロノンザーもキルトも渋い顔をする。
『お主は懲りないのかえ?』
『マリポーザも僕に命令したいの? 僕、嫌だよ』
0
あなたにおすすめの小説
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
【完結】英雄様、婚約破棄なさるなら我々もこれにて失礼いたします。
紺
ファンタジー
「婚約者であるニーナと誓いの破棄を望みます。あの女は何もせずのうのうと暮らしていた役立たずだ」
実力主義者のホリックは魔王討伐戦を終結させた褒美として国王に直談判する。どうやら戦争中も優雅に暮らしていたニーナを嫌っており、しかも戦地で出会った聖女との結婚を望んでいた。英雄となった自分に酔いしれる彼の元に、それまで苦楽を共にした仲間たちが寄ってきて……
「「「ならば我々も失礼させてもらいましょう」」」
信頼していた部下たちは唐突にホリックの元を去っていった。
微ざまぁあり。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
【コミカライズ決定】愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
【コミカライズ決定の情報が解禁されました】
※レーベル名、漫画家様はのちほどお知らせいたします。
※配信後は引き下げとなりますので、ご注意くださいませ。
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる