無法魔術師はかえりみない ~殺人容疑をかけられたので逃げまわってたけど、酒の勢いで女刑事を押し倒したら一緒に事件を解決することになった件~

佐間野 隆紀

文字の大きさ
43 / 51
三章

三章⑩ 無法魔術師と報告会 その3

しおりを挟む
「どういうことよ?」

 ぐるっとこちらに顔を向ける鈴音さんに、僕は言葉を選びながら丁寧に説明した。

「つまりさ、この森には《叡智》なるものがあって、それを《元老院》はずっと独占してきたわけでしょ? その《叡智》がどういったものかは分からないけど、すごいものだってことくらいは想像できる。それこそ内容を知ったら取り合いになるくらいにね。だから、誰にも手に触れられないところに隠匿していた。でも、それだといつか綻びが出るかもしれないから、《異界の門》と協力して新しい管理体制を構築しようって話になったわけだよね?」
「まあ、そんな感じじゃない?」
「でも、例えばさっき言ってたみたいに実はこの件が《異界の門》側からの提案で、《元老院》がそれを受け入れる形で話が進んでいたとしたらどうだろう? 今の状態が『管理』できている状態とはとても思えないし、新しい管理体制がどっちからの提案だろうと大した問題じゃないとは思うけど、もし《元老院》の中に、本当は《叡智》を独占していたいと考えている人がいたとしたら?」
「……どういうこと?」
「僕は長老が何度か《叡智》を持ち出すところを見てる。つまり、《元老院》は《叡智》を隠匿してるだけじゃなくて、何らかのルールの下でその力を活用してると思うんだ。だから『上級市民』として絶大な権力を持っていると考えることだってできるかもしれないし、少なくとも《叡智》のもたらす恩恵は絶大なのは間違いないと思う。でなけりゃ、わざわざ隠匿する必要なんてないしね。それを急に何処の馬の骨ともしれない組織と共同管理だなんて話になったら、みんながみんな納得できるものかな?」
「《異界の門》は何処の馬ともしれない組織では……」

 ライラが不服そうな顔で口を挟んでくるが、僕は肩をすくめながら首を振る。

「でもさ、その《元老院》ってのは自分たちを『上級市民』だなんて言ってる人たちの議会なわけでしょ? 自分たち以外のことなんて絶対に下に見てると思うな。ましてや、経済的に困窮してる魔術師の集団なんて……」
「それについてはだいたい想像どおりよ。あいつら、マジでいけすかない連中だから」

 何を思い出しているのか、不愉快そうに眉間に皺を寄せながらフンッと鈴音さんが鼻を鳴らした。

「でも、仮に《元老院》で意見が割れてたからって何だってのよ」
「つまり、《元老院》の中に分校の設立を望まない者がいて、それが個人なのか団体なのかまでは分からないけど、ソイツはたぶん……」

 そこで言葉を区切り、一度深く呼吸をする。

 この先はただの妄想でしかなく、それを何の誤魔化しもなくそのまま口にするのはさすがに僕でも少し躊躇われた。

 しかし、ここまで来たら引き下がれない。ライラと鈴音さんの視線が集まる中、僕は珍しく本気で緊張しながら口を開く。

「《地上の人々》を……あるいは、セオドール・ボルジアを利用して自分たちの望みを叶えようとしている」

 そう……だから、長老は僕にあんな書き置きを残したんだ。

「ちょっと待ってよ。それってその《地上の人々》の裏に《元老院》がいるってこと?」

 ギョッとしたように鈴音さんが僕の顔を見る。

 僕が黙ったまま頷くと、鈴音さんもしばらく無言で顔で僕の顔を見つめていた。

 その様子を見るに、少なくとも僕の考えを頭ごなしに否定してくるつもりはないらしい。

 ただ、すぐに半眼になると、今度は馬鹿にしたような調子で訊いてくる。

「……で、それが何か捜査の役に立つわけ?」
「いや、待て。それだと、ハワード・ジョンソンを殺害した犯人もまた《地上の人々》と関わりを持つ者ということになるのではないか?」

 今度は何かに気づいたように、ライラが僕の顔を見つめてきた。

 僕はウィンクしながらそちらにも頷き返し、改めて今回の事件について話を戻す。

「僕が関わっちゃったせいでいろいろとおかしくなってたけど、考えてみれば最初から今回の事件ってアレスさんに捜査の目が行くように仕向けられていた気がするんだ。ハワードさんとの間に変な噂も流れていたのだって、実は動機づけのために事前に準備されていたものだったのかもしれない。もちろん、動機として弱くはあるんだけど、そもそも別にアレスさんに罪をなすりつける必要まではないんだ。疑いの目を向けさせて、魔術師は危険だ、魔術師の学校を作るのはもっと危険だって世間にアピールできればそれで十分なんだから。そして、そうなったときに得をするのは、間違いなくセオドール・ボルジアだ」
「……確かにそうかも」
「それに、他にもおかしなところはある。事件のあった夜、僕を捕まえに来たライラは最初から対魔術兵装で武装していた」

 事件当夜、初めて出会ったときのライラは最初から僕を魔術師と断定しており、しかも第一発見者ではなく殺害犯という認識のもとで行動していた。

 あの日はとくに気にもとめなかったが、よくよく考えれば違和感しかないではないか。

「うむ。実はわたしもずっと気になっていた。あの日、わたしたちは魔術師が人を殺す現場を目撃したという通報を受けて緊急出動し、現場にいる被害者とおまえの姿を発見したのだが……」

 なるほど、そんな通報があったのか。

「今になって冷静に考えると、おかしなところだらけだったかもしれん。あのときはとにかく無我夢中で拘束したが、あとになって調べてみれば殺害時の魔術の使用は最小限で、逆にどのような状態であれば『魔術師が人を殺す現場』に見えるのか不思議なくらいだった」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !

本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。  主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。 その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。  そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。 主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。  ハーレム要素はしばらくありません。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。

もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
 ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。

処理中です...