唾棄すべき日々(1993年のリアル)

緑旗工房

文字の大きさ
8 / 53

第8話 久々の派遣

しおりを挟む
社内では私の派遣嫌いは有名だった。
そりゃ入社以来何年間も派遣は嫌だと言い続ければ、有名にもなるってものだが。
もちろん組織の一員である以上、派遣に出ろと言われたら従うか会社を辞めるかしかない。
その覚悟はいつも持ち続けていたつもりだ。

これまでは会社の方針と俺の希望が社内開発という方向性で一致していたことや、社内開発の仕事が潤沢にあったことも相まって、派遣に出される心配はほとんどしないで済んだ。
しかし緊急不況対策の発表以降はそうもいかないだろうと考え始めていた。

開発用コンピュータが2台から1台になるということは、社内開発の仕事が減るということだ。
仕事があれば減らしはしないだろうから、受注量激減でやむなく減らしたのだろう。
そういえば最近は2台とも電源が入っていないことも多く、これまでのようにだれかが出社したら真っ先に立ち上げるような光景は見なくなっていた。
それだけ社内開発の仕事量が減ったということで、ということは俺もそうそうわがままを言えるような状況ではなくなったようだ。
派遣も覚悟しないといけないかな。

派遣に出されるかどうかも気になったが、それ以外にもなんともいえない薄っすらとした、しかし確実にざわざわした不安感があった。
これから会社はどうなって行くのだろう、俺たちはどうなっていくのだろう。
今まで考えもしなかった不安感が、うっすらではあるが湧き起こっていた。


そんなある日、俺の次の仕事が決まった。
上司の業田課長から伝えられたのは大手電気メーカーでのシステム開発、派遣だった。
なんとなくそんな噂は聞いていたこともあって、あれだけ嫌だった派遣だが自分でも不思議なほどあっさりと引き受けた。

あと数日で派遣先に行くことになったある日、それまでの仕事の引き継ぎや資料整理をしている俺のそばにポンちゃんが来た。

「聞きましたよ、次の仕事。
派遣ですって?
派遣嫌いで有名なのに、よく引き受けましたね」

俺は苦笑いしながら答えた。

「冷やかすなよ。
まあ、ほかに仕事もなさそうだし会社の雰囲気も悪い。
久しぶりの派遣を楽しんでくるよ」


派遣を楽しむと言ったのは俺の強がりだ。
しかし緊急不況対策以降、会社全体が妙な不安感とピリピリとした雰囲気に包まれていて居心地が悪かったのも事実だ。

それに、最近は劣悪な派遣先に飛ばされて苦労している人が増えていて、それだけ仕事が減っていることが実感として伝わってきていた。
俺の派遣先にはすでに2人が派遣に出ていたのだが、彼らによると良くもないがそんなに酷くもない派遣先のようだった。
それなら雰囲気の悪い社内にしがみつくよりも、派遣の方が楽かもしれない。

社内開発の仕事にこだわってもいいのだが、すでに年単位の大規模開発の仕事はなくなり、小規模ですぐ終わるような仕事が時々ある程度になっていた。
小規模の仕事にしがみついても、数ヶ月後にはまた派遣の話が再燃するだろう。
そのときにどんな派遣先に飛ばされるかは運次第だ。
たった1人で劣悪な派遣先に飛ばされる可能性も低くはないので、それならすでに2人が行っていて環境もそこそこの派遣先があるのだから、そっちを選んだ方がましだろう。

最近の社内は常時監視されているような緊張感があり、なんとも居心地の悪い空気で満ちていた。
残業が禁止になった水曜日だけでなく、課長は部下の残業を減らすべく毎日部下たちを監視するようになった。
上司の監視の目を感じながら、したくもない残業をするのはうんざりだった。

派遣を引き受けたのも、こんな雰囲気から逃れたかった気持ちが大きかった。
それだけ社内の空気は居心地の悪いものになっていた。
たった数ヶ月でこんなにも変わるものなのか。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

まなの秘密日記

到冠
大衆娯楽
胸の大きな〇学生の一日を描いた物語です。

処理中です...