【完結】クズ男と決別した私の未来は輝いている。

カシスサワー

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第16話【本来の姿に戻る】

 あれから、五日が経過した。 

 圭吾からは、全く連絡はない。 
 もちろん幸も、連絡していない。

 もう連絡する気のない幸は、迷うことなく圭吾をブロックした。

 そんな中、会社から連絡が入った。

 社員証の返却や雇用保険関係書類、離職票の受け取りなど、退職に関する手続きを行うために、来社してほしいという内容だった。

 不動産情報を調べていた幸は、画面を閉じ、出かける準備を始める。

「何を着ようかな……」

 ハンガーに掛かった服を眺め、今日の気分に合わせて慎重に選ぶ。

 日曜日に、カリスマ美容師の洋子に髪をカットしてもらい、パーマもゆるくかけてもらっていた。

 地毛は少し栗色がかっており、自然なツヤを帯びている。

 その髪型に合わせて、幸は服装を整えた。

 深みのある色合いのブラウスに、体のラインをほどよく引き立てるタイトスカート。
 足元にはヒールを合わせ、歩くたびに背筋が伸び、落ち着いた女性らしい所作が映える。

 胸元で小さく揺れるネックレスがワンポイントとなり、シンプルなアクセサリーが全体に
 上品な華やかさを添えていた。

 鏡の前で軽く髪を整え、ナチュラルなメイクを施す。

 今日の彼女は、落ち着きのある大人の女性――誰が見ても、洗練された印象を与えるだろう。

 もう、無理に自分を抑えて“地味に見せる”必要はない。

 幸は、本来の自分の姿を取り戻し、【NexSeed黒田】へと向かった。

 正面玄関をくぐった瞬間、視線が一斉に集まった。

 そこにいる人達の手が止まり、話し声が途切れる。
 まるで時間が一瞬だけ静止したかのようだった。

 ――その中心にいるのは、西村幸。

 かつて地味で控えめだった秘書が、今は落ち着いた大人の女性の輝きをまとって立っている。

 柔らかく揺れる栗色の髪、上品な装い、そしてどこか自信を感じさせる表情。
 誰もが目を奪われ、息を呑む。

 その視線を受けながら、幸は静かに総務部へ向かおうとした。

 だが――
「す、すみません。外部の方は、受付を通していただけますか?」

 受付嬢に声をかけられ、幸はハッとして足を止める。

「あっ、すみません」

 そうだった。
 もう、ここは“自分の職場”ではない。

 退職した身では、自由に出入りすることもできないのだ。

「西村ですが、総務部へ来るようにと連絡をいただいています」

「……西村?」

 受付嬢は一瞬、誰だろうかと考えた。

 そして、目を見開いたあと、驚いたように声を上げた。

「えっ?! もしかして、社長第二秘書の、西村さんですか?!」

 その声に、近くにいた社員たちが次々と振り返る。

 ロビーにざわめきが広がり、みんなが信じられないという表情で幸を見つめた。

「そうですけど……総務部に行ってもよろしいですか?」

 幸は少し困ったように微笑みながら問い返した。

 その瞬間、受付カウンターの向こうで、誰かが小さく息を呑んだ。

 ――まるで別人のようだ、と。

 ロビーでは、ざわめきが続いている。

 そのとき――

 エレベーターホールから、黒いスーツ姿の男が歩いてくるのが見えた。

 鋭い眼差し、隙のない立ち姿。
 社内の誰もが一目でわかる。
 ――NexSeedの社長、黒田圭吾。

 その後ろを、片桐秘書が二歩下がって歩いていた。

 周囲の社員たちが一斉に姿勢を正す。
 その中で、圭吾の視線がふと受付の方へ向けられた。

 次の瞬間、圭吾は足を止めた。
 数秒間、何が起こったのか理解できないように立ち尽くす。

 その目に映ったのは、
 落ち着いた色味のブラウスに、体のラインを美しく見せるタイトスカート。
 ゆるく揺れる栗色の髪が、柔らかな光を帯びている。

 受付嬢と話すその横顔――
 それは、間違いなく西村幸だった。

「……幸、なのか?」

 思わずこぼれた声は、誰にも届かないほど小さい。

 彼女は、まだ圭吾に気づいていない。
 淡々と総務部への手続きを進めている。

 圭吾の視線は、その姿に釘づけになった。

 もう、ダサい女の面影はどこにもない。
 今の幸は、洗練された大人の女性――凛とした美しさを纏っていた。

 圭吾は、忘れていた。
 彼女がもともと、美しい女だったことを。

 コツコツと響くヒールの音が、圭吾の鼓膜を震わせる。
 エレベーターの扉が開き、幸はその中へと姿を消した。

 圭吾は呆然と立ち尽くす。

 しばらくして、ハッと我に返った彼は携帯を取り出し、幸の番号を押した。
 だが、耳に届いたのは無機質な電子音だけ。

 ……どうやら、ブロックされているらしい。

「チッ」

 短く舌打ちをした圭吾は、片桐に鋭い声を向けた。

「片桐。受付に行って、西村に“社長室に来るように”伝えろ」

 幸の姿に呆然としていた片桐も、その声でハッと我に返る。

「あ、あっ……はい。わかりました」

 そう返事をして、急ぎ受付へと向かっていった。

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