【完結】クズ男と決別した私の未来は輝いている。

カシスサワー

文字の大きさ
16 / 87

第16話【本来の姿に戻る】

しおりを挟む
 あれから、五日が経過した。 

 圭吾からは、全く連絡はない。 
 もちろん幸も、連絡していない。

 もう連絡する気のない幸は、迷うことなく圭吾をブロックした。

 そんな中、会社から連絡が入った。

 社員証の返却や雇用保険関係書類、離職票の受け取りなど、退職に関する手続きを行うために、来社してほしいという内容だった。

 不動産情報を調べていた幸は、画面を閉じ、出かける準備を始める。

「何を着ようかな……」

 ハンガーに掛かった服を眺め、今日の気分に合わせて慎重に選ぶ。

 日曜日に、カリスマ美容師の洋子に髪をカットしてもらい、パーマもゆるくかけてもらっていた。

 地毛は少し栗色がかっており、自然なツヤを帯びている。

 その髪型に合わせて、幸は服装を整えた。

 深みのある色合いのブラウスに、体のラインをほどよく引き立てるタイトスカート。
 足元にはヒールを合わせ、歩くたびに背筋が伸び、落ち着いた女性らしい所作が映える。

 胸元で小さく揺れるネックレスがワンポイントとなり、シンプルなアクセサリーが全体に
 上品な華やかさを添えていた。

 鏡の前で軽く髪を整え、ナチュラルなメイクを施す。

 今日の彼女は、落ち着きのある大人の女性――誰が見ても、洗練された印象を与えるだろう。

 もう、無理に自分を抑えて“地味に見せる”必要はない。

 幸は、本来の自分の姿を取り戻し、【NexSeed黒田】へと向かった。

 正面玄関をくぐった瞬間、視線が一斉に集まった。

 そこにいる人達の手が止まり、話し声が途切れる。
 まるで時間が一瞬だけ静止したかのようだった。

 ――その中心にいるのは、西村幸。

 かつて地味で控えめだった秘書が、今は落ち着いた大人の女性の輝きをまとって立っている。

 柔らかく揺れる栗色の髪、上品な装い、そしてどこか自信を感じさせる表情。
 誰もが目を奪われ、息を呑む。

 その視線を受けながら、幸は静かに総務部へ向かおうとした。

 だが――
「す、すみません。外部の方は、受付を通していただけますか?」

 受付嬢に声をかけられ、幸はハッとして足を止める。

「あっ、すみません」

 そうだった。
 もう、ここは“自分の職場”ではない。

 退職した身では、自由に出入りすることもできないのだ。

「西村ですが、総務部へ来るようにと連絡をいただいています」

「……西村?」

 受付嬢は一瞬、誰だろうかと考えた。

 そして、目を見開いたあと、驚いたように声を上げた。

「えっ?! もしかして、社長第二秘書の、西村さんですか?!」

 その声に、近くにいた社員たちが次々と振り返る。

 ロビーにざわめきが広がり、みんなが信じられないという表情で幸を見つめた。

「そうですけど……総務部に行ってもよろしいですか?」

 幸は少し困ったように微笑みながら問い返した。

 その瞬間、受付カウンターの向こうで、誰かが小さく息を呑んだ。

 ――まるで別人のようだ、と。

 ロビーでは、ざわめきが続いている。

 そのとき――

 エレベーターホールから、黒いスーツ姿の男が歩いてくるのが見えた。

 鋭い眼差し、隙のない立ち姿。
 社内の誰もが一目でわかる。
 ――NexSeedの社長、黒田圭吾。

 その後ろを、片桐秘書が二歩下がって歩いていた。

 周囲の社員たちが一斉に姿勢を正す。
 その中で、圭吾の視線がふと受付の方へ向けられた。

 次の瞬間、圭吾は足を止めた。
 数秒間、何が起こったのか理解できないように立ち尽くす。

 その目に映ったのは、
 落ち着いた色味のブラウスに、体のラインを美しく見せるタイトスカート。
 ゆるく揺れる栗色の髪が、柔らかな光を帯びている。

 受付嬢と話すその横顔――
 それは、間違いなく西村幸だった。

「……幸、なのか?」

 思わずこぼれた声は、誰にも届かないほど小さい。

 彼女は、まだ圭吾に気づいていない。
 淡々と総務部への手続きを進めている。

 圭吾の視線は、その姿に釘づけになった。

 もう、ダサい女の面影はどこにもない。
 今の幸は、洗練された大人の女性――凛とした美しさを纏っていた。

 圭吾は、忘れていた。
 彼女がもともと、美しい女だったことを。

 コツコツと響くヒールの音が、圭吾の鼓膜を震わせる。
 エレベーターの扉が開き、幸はその中へと姿を消した。

 圭吾は呆然と立ち尽くす。

 しばらくして、ハッと我に返った彼は携帯を取り出し、幸の番号を押した。
 だが、耳に届いたのは無機質な電子音だけ。

 ……どうやら、ブロックされているらしい。

「チッ」

 短く舌打ちをした圭吾は、片桐に鋭い声を向けた。

「片桐。受付に行って、西村に“社長室に来るように”伝えろ」

 幸の姿に呆然としていた片桐も、その声でハッと我に返る。

「あ、あっ……はい。わかりました」

 そう返事をして、急ぎ受付へと向かっていった。

しおりを挟む
感想 57

あなたにおすすめの小説

フッてくれてありがとう

nanahi
恋愛
「子どもができたんだ」 ある冬の25日、突然、彼が私に告げた。 「誰の」 私の短い問いにあなたは、しばらく無言だった。 でも私は知っている。 大学生時代の元カノだ。 「じゃあ。元気で」 彼からは謝罪の一言さえなかった。 下を向き、私はひたすら涙を流した。 それから二年後、私は偶然、元彼と再会する。 過去とは全く変わった私と出会って、元彼はふたたび──

今さらやり直しは出来ません

mock
恋愛
3年付き合った斉藤翔平からプロポーズを受けれるかもと心弾ませた小泉彩だったが、当日仕事でどうしても行けないと断りのメールが入り意気消沈してしまう。 落胆しつつ帰る道中、送り主である彼が見知らぬ女性と歩く姿を目撃し、いてもたってもいられず後を追うと二人はさっきまで自身が待っていたホテルへと入っていく。 そんなある日、夢に出てきた高木健人との再会を果たした彩の運命は少しずつ変わっていき……

身分差婚~あなたの妻になれないはずだった~

椿蛍
恋愛
「息子と別れていただけないかしら?」 私を脅して、別れを決断させた彼の両親。 彼は高級住宅地『都久山』で王子様と呼ばれる存在。 私とは住む世界が違った…… 別れを命じられ、私の恋が終わった。 叶わない身分差の恋だったはずが―― ※R-15くらいなので※マークはありません。 ※視点切り替えあり。 ※2日間は1日3回更新、3日目から1日2回更新となります。

仕事で疲れて会えないと、恋人に距離を置かれましたが、彼の上司に溺愛されているので幸せです!

ぽんちゃん
恋愛
 ――仕事で疲れて会えない。  十年付き合ってきた恋人を支えてきたけど、いつも後回しにされる日々。  記念日すら仕事を優先する彼に、十分だけでいいから会いたいとお願いすると、『距離を置こう』と言われてしまう。  そして、思い出の高級レストランで、予約した席に座る恋人が、他の女性と食事をしているところを目撃してしまい――!?

これって政略結婚じゃないんですか? ー彼が指輪をしている理由ー

小田恒子
恋愛
この度、幼馴染とお見合いを経て政略結婚する事になりました。 でも、その彼の左手薬指には、指輪が輝いてます。 もしかして、これは本当に形だけの結婚でしょうか……? 表紙はぱくたそ様のフリー素材、フォントは簡単表紙メーカー様のものを使用しております。 全年齢作品です。 ベリーズカフェ公開日 2022/09/21 アルファポリス公開日 2025/06/19 作品の無断転載はご遠慮ください。

さようなら、お別れしましょう

椿蛍
恋愛
「紹介しよう。新しい妻だ」――夫が『新しい妻』を連れてきた。  妻に新しいも古いもありますか?  愛人を通り越して、突然、夫が連れてきたのは『妻』!?  私に興味のない夫は、邪魔な私を遠ざけた。  ――つまり、別居。 夫と父に命を握られた【契約】で縛られた政略結婚。  ――あなたにお礼を言いますわ。 【契約】を無効にする方法を探し出し、夫と父から自由になってみせる! ※他サイトにも掲載しております。 ※表紙はお借りしたものです。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

婚約破棄の代償

nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」 ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。 エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。

処理中です...