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第31話【文の助言】
しおりを挟む顔合わせは無事に終わり、匠は帰って行った。
幸も自室へ戻り、普段着に着替え、ITに関する情報を収集しようと、パソコンを立ち上げる。
椅子に腰を下ろしたところで、
「幸ちゃん、入ってもいい?」
と、文がドアをノックしながら声をかけてきた。
幸は椅子から立ち上がり、少し早足でドアへ向かう。
ドアを開けると、笑顔を浮かべた文が立っていた。
「入るわね」
そう言って文はそのまま部屋の中へ入ってくる。
そして幸に視線を向けると、開口一番に尋ねた。
「匠さんの印象は、どうだった?」
「まぁ、悪くはないかと……」
見た目は悪くない。
あとは性格がどうか——そこが問題だと幸は思っていた。
「それは良かったわ。少なくとも、生理的に受け付けないタイプではないということよね」
文はほっとしたように、表情を明るくする。
「実は、お祖母様。匠さんとは、一応、お付き合いしてみることになりました」
幸がそう報告すると、
「そうなの! それは良かったわ! お祖父様もとても喜ばれると思うわ」
と、文は満面の笑みで喜んだ。
その流れで、幸が匠の会社で秘書として働くことになったことも告げると、文は目を丸くし、
「働くなんて、どうして? お金の心配をしているなら、気にせず使っていいのよ」
と、少し眉間にシワを寄せながら口を開いた。
「お祖母様、違うんです。秘書として働くのは、圭吾を懲らしめるためです」
文が誤解していると思った幸は、慌てて否定する。
「あら、そうなの。──あの男を懲らしめるために、匠さんの会社で働くつもりなの?」
「はい。権力を笠に着て人を支配しようとするなんて、絶対に許しちゃいけないことだと思うんです。だから、
彼を社長の座から引きずり下ろして、権力を奪おうかと思っています。
……ただ、本当に引きずり下ろせるかどうかは、やってみないと分かりませんけど」
それが実現するかどうかは、彼の祖父と父親の出方次第だと幸は思っていた。
文は、幸の瞳をじっと見つめたあと、口を開く。
「そうなのね。でも、そのことについて──匠さんは知っているの?」
「いえ、まだ話していません」
「まだなら、きちんと話をしておいた方がいいわ。黒田ホールディングスと対立するかもしれないし、
幸ちゃん一人で立ち向かえる相手ではないでしょう だから、匠さんにちゃんと話をして、
協力してもらいなさい。それに、そのことを後で知ったら、匠さんは嫌な思いをすると思うの。
だからこそ、最初にきちんと話をしておいた方がいいわよ」
文は穏やかな声で、そう助言した。
――確かにそうだ。
自分に置き換えて考えれば、後で知ったときに利用されたような気持ちになるかもしれない。
それに、黒田ホールディングスと対立する可能性もあり、圭吾から嫌がらせを受けることだって考えられる。
やはり最初にきちんと事情を説明し、雇ってもらえるかどうか確かめておいた方がいい。
もし断られたとしても、お付き合い自体を一度白紙に戻して、改めて仕切り直せばいいだけのこと。
そんなことを幸が考えていると、
「お祖父様には、匠さんの人となりを見極めるために、しばらく匠さんの秘書として働くとでも
言っておきましょうかね。幸ちゃんが働くなんて言ったら、あの人のことだから何かしら気づきそうだから」
と、文が口を開いた。
「そのことですが……お祖父様にお話しするのは、少し待っていただけますか? 匠さんにすべてを話して、
それでも私を秘書として雇用してもらえるかどうか、もう一度確認してみます。
それで、OKのお返事がもらえたら、お祖父様には、お付き合いの件も雇用の件もお伝えするということで」
幸がそう言うと、文は静かに頷き、
「幸ちゃんがそう言うなら、お祖父様に話すのはもう少し待ってみるわ。まぁ、匠さんのことだから、
話を聞いても変わらず雇用してくれると思いますけどね」
と、穏やかな笑みを浮かべた。
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