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第67話【嫉妬の炎】
しおりを挟む一方の由紀は、匠の姿にすっかり魅了されていた。
圭吾も十分に整った顔立ちで、見た目も“上の上”と言っていいほど悪くない。
だが——匠は、そのさらに上をいっている。
圭吾よりも背が高く、鍛えられた体格。
整いすぎた顔立ちは完璧で、近寄りがたいほどのクールさと大人の色気を纏っている。
匠を目にした瞬間、由紀は圭吾と比べてしまい、圭吾の見た目に不満を抱いた。
そして――
匠に釘付けになっていた視線は、自然とその隣の女性へと移る。
透明感のあるオーラを放ち、完璧と言っても過言ではない美しさ。
一瞬で周囲の視線をさらっていく、まばゆい存在感。
その姿を見た瞬間、由紀の胸の奥で、黒い感情が静かに、しかし確実に湧き上がった。
——誰、この女……。
嫉妬の炎が、ゆっくりと音もなく灯りはじめる。
だが由紀は、まだ気づいていなかった。
その女性こそが、自分が散々見下してきた “あの西村幸” であることに――。
匠と幸は、目を見開いたまま固まっている圭吾と、嫉妬で幸を射抜くように睨みつける由紀の前を、まるで二人の存在など視界に入っていないかのように、優雅に通り過ぎていった。
そして、堂々とした足取りでまっすぐ進み、匠と幸は黒田ホールディングス会長・
黒田太郎夫妻のもとへと歩み寄った。
「黒田会長、本日はお招きいただきありがとうございます。私、水沢匠と申します」
匠が丁寧に一礼し、挨拶をする。
「水沢……。もしかして君は、水沢ホールディングスの?」
圭吾の祖父・黒田太郎は、相手の価値を見極めるかのように、匠を鋭く値踏みする。
しかし匠は、その圧を受け流し、
「はい。水沢ホールディングスは、私の父・水沢真一が会長を務めております」
落ち着き払った声で答えた。
その様子を見た黒田会長は、匠の礼儀と落ち着きに”仕事のできる男”と瞬時に判断した。
そして会長の視線は、ゆっくりと匠の隣に立つ幸へと移った。
「そちらのお嬢さんは?」
問いかける声には、匠が選んだ女性への興味が混じっている。
匠は微笑みを浮かべ、
「彼女は、西村幸。私の専属秘書であり――そして、私の婚約者です」
迷いなく答えた。
周囲で聞いていた人達は、それぞれさまざまな反応を見せる。
「そんな……馬鹿な!」
まず最初に、驚きの声をあげたのは、圭吾だった。
匠が公のパーティーに幸を伴ってきたことじたい信じられない行動なのに、一般庶民の幸と婚約したことは、もう驚きでしかなかった。
由紀は、由紀で驚いた。
――この女が、あのダサい秘書の西村幸だと!?
――ありえない!
それも、水沢ホールディングスの御曹司と、それもこんな素敵な男性と――婚約ですって!?
由紀は、プライドが傷ついた。
見下してた幸に、負けた気がしたからだ。
高瀬テクノロジーの社長であり、由紀の父親の高瀬社長も、近くで黒瀬会長と匠の会話を聞いていた。
匠の「私の専属秘書です」という一言で、圭吾と水沢社長の間で問題になっていた“あの秘書”がこの女性であると理解した。
――圭吾君に未練があると聞いたが……そんな気配、まるでない。
匠を見つめる幸の眼差しは、愛と信頼で満ちている。
――それに、この美しさ……男が手放したくないと思うほどの美しさだ。
――それに、水沢社長も男から見ても魅力的な男性だ。
――その彼の婚約者である彼女が、圭吾君に未練などあるだろうか?
西村幸に”未練”があるというよりも、圭吾君が彼女に”執着”しているのではないのか――その構図のほうが正しいように思えてきた。
圭吾の父・明も、幸の姿を見るなり悟った。
息子が口にしていたような“未練”など、幸の表情にも仕草にも、一切見当たらない。
「圭吾、これはどういうことだ?」
眉間に深いシワを刻み、低い声で問う。
だが動揺している圭吾には、父の声すら届いていなかった。
圭吾はただ、匠と幸を睨みつけている。
その目には、はっきりと“執着”が読み取れた。
それを見た明は、あの騒動の本質をいま理解したのだった。
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