68 / 87
第68話【サプライズ対決】
黒田太郎会長への挨拶を終え、匠と幸がその場から離れていく。
その後ろ姿を見送りながら、黒田会長がゆっくりと口を開いた。
「水沢社長の婚約者は、所作も実に美しいな……。彼女は、どこの令嬢だ?」
その問いに、圭吾がすぐさま口を挟む。
「あいつは、令嬢なんかじゃないです。一般庶民の、ただの女ですよ」
黒田会長は、わずかに目を細めて圭吾へ視線を向けた。
「そうか……。だが、庶民にしては随分と躾が行き届いているように見えるな」
黒田太郎はゆっくりと視線を幸に戻し、低く続けた。
「あれは、いい女だ。――ああいう女性を選ぶとは、水沢社長も女を見る目がある。あれほど人を惹きつける美しさを持つ女なら、連れて歩くだけで男の格も上がるというものだ」
その言葉を聞いた瞬間、圭吾の胸に、得体の知れない痛みが走った。
――どういうことだ?
圭吾は動揺を押し隠しながら、祖父へ問いかける。
「あの女は一般家庭の女ですよ。令嬢でもなく、普通の家の……。そんな女と結婚してもいいと、会長は思われるんですか?」
ここは公の場のため、あえて「会長」と呼ぶ。
黒田太郎は、圭吾の言葉に眉ひとつ動かさず、淡々と答えた。
「躾も行き届き、所作も上品で美しい。見た目も申し分ない。そして誰をも魅了する女は、男の格を引き上げる。よほど素性に問題でもない限り――結婚しない理由などないだろう」
その言葉が、圭吾の胸を深く抉った。
つまり——幸を“結婚相手”として紹介しても、祖父は反対しなかったということになる。
圭吾は、その事実に打ちのめされた。
幸が一般庶民だというだけで、結婚を反対されると、勝手に思い込んでいた。
だから、幸との結婚は考えずに、家同士の利益を一番に考え由紀と婚約した。
確かに、由紀も可愛い。
だが――家柄を除けば、由紀が幸に勝てるものは何ひとつない。
その揺るぎない事実が、圭吾の胸を鋭く抉った。
胸の奥に鈍い痛みが広がり、じわりと後悔がせり上がってくる。
――俺は、早まってしまったのか?
圭吾は、自分でも抑えきれない感情に呑まれていった。
沈むように落ち込む圭吾の横顔を見て、
――今日の西村幸を見て、逃した魚が大きかったと思ってるの?
由紀の胸の奥で嫉妬が渦巻き、苛立ちがこみ上げる。
それと同時に、圭吾の祖父・黒田太郎に対しても怒りが芽生えた。
――見た目だけで、財閥に嫁ぐなんてありえない。
――令嬢と一般庶民の“格の違い”を見せつけてやる。
由紀はそう心に決めると、にっこり微笑み、
「黒田会長、今日のサプライズイベントとして――フィアンセ同士のピアノ対決、なんていかがでしょうか? 私と西村さんでサプライズ対決。きっと盛り上がると思います」
由紀はそう提案し、黒田会長へ直談判した。
「確かに……面白そうだな。彼女が了解するなら、いいんじゃないか」
黒田会長が応じると、由紀は口元を吊り上げる。
幸には、直前に知らせればいい。
断れない状況を作り、みっともなく恥をかかせる――それが由紀の狙いだった。
由紀は、幸の了承を得ることなく、サプライズイベントとして進行係に段取りを指示する。
もちろん、「黒田会長の許可は取ってある」と伝えたうえで。
由紀は想像した。
幸が大勢の前で戸惑い、恥をかき、取り乱す姿を。
その瞬間――
由紀の顔には、意地悪な笑みが浮かんだ。
その頃、匠と幸は洋子カップルと合流していた。
合流すると同時に、匠と信が、
「久しぶりだな」
と声をかけ合い、自然に会話を弾ませ始めた。
幸と洋子がぽかんと見つめていると、二人が同級生で、高校時代からの友人であることがわかった。
こんな偶然があるのだろうか――。
幸も洋子も、四人のめぐり合わせに“運命”を感じてしまった。
四人で談笑していると、
「西村幸様ですか?」
黒服のスタッフが声をかけてきた。
声をかけられた四人は、一斉にスタッフへと視線を向ける。
「そろそろ、イベントが始まりますので、舞台までお越しいただけますでしょうか?」
「イベント?」
幸がきょとんとした顔で問い返した。
その瞬間、匠の目が鋭く細められる。
「イベントとは、どういうことだ?」
低く、冷静だが圧を感じさせる声で匠が尋ねると、
「た、高瀬由紀様から申し出がありまして……西村幸様と“フィアンセ同士のサプライズ対決”と称したピアノ対決を、急遽イベントに組み込むことになりまして……その、えっと……」
四人の視線を受け、スタッフの声はどんどん小さくなっていく。
その説明を聞き終えた瞬間――
信を除く、匠・幸・洋子の三人は、すぐにその“サプライズ”の裏にある意図を悟った。
その後ろ姿を見送りながら、黒田会長がゆっくりと口を開いた。
「水沢社長の婚約者は、所作も実に美しいな……。彼女は、どこの令嬢だ?」
その問いに、圭吾がすぐさま口を挟む。
「あいつは、令嬢なんかじゃないです。一般庶民の、ただの女ですよ」
黒田会長は、わずかに目を細めて圭吾へ視線を向けた。
「そうか……。だが、庶民にしては随分と躾が行き届いているように見えるな」
黒田太郎はゆっくりと視線を幸に戻し、低く続けた。
「あれは、いい女だ。――ああいう女性を選ぶとは、水沢社長も女を見る目がある。あれほど人を惹きつける美しさを持つ女なら、連れて歩くだけで男の格も上がるというものだ」
その言葉を聞いた瞬間、圭吾の胸に、得体の知れない痛みが走った。
――どういうことだ?
圭吾は動揺を押し隠しながら、祖父へ問いかける。
「あの女は一般家庭の女ですよ。令嬢でもなく、普通の家の……。そんな女と結婚してもいいと、会長は思われるんですか?」
ここは公の場のため、あえて「会長」と呼ぶ。
黒田太郎は、圭吾の言葉に眉ひとつ動かさず、淡々と答えた。
「躾も行き届き、所作も上品で美しい。見た目も申し分ない。そして誰をも魅了する女は、男の格を引き上げる。よほど素性に問題でもない限り――結婚しない理由などないだろう」
その言葉が、圭吾の胸を深く抉った。
つまり——幸を“結婚相手”として紹介しても、祖父は反対しなかったということになる。
圭吾は、その事実に打ちのめされた。
幸が一般庶民だというだけで、結婚を反対されると、勝手に思い込んでいた。
だから、幸との結婚は考えずに、家同士の利益を一番に考え由紀と婚約した。
確かに、由紀も可愛い。
だが――家柄を除けば、由紀が幸に勝てるものは何ひとつない。
その揺るぎない事実が、圭吾の胸を鋭く抉った。
胸の奥に鈍い痛みが広がり、じわりと後悔がせり上がってくる。
――俺は、早まってしまったのか?
圭吾は、自分でも抑えきれない感情に呑まれていった。
沈むように落ち込む圭吾の横顔を見て、
――今日の西村幸を見て、逃した魚が大きかったと思ってるの?
由紀の胸の奥で嫉妬が渦巻き、苛立ちがこみ上げる。
それと同時に、圭吾の祖父・黒田太郎に対しても怒りが芽生えた。
――見た目だけで、財閥に嫁ぐなんてありえない。
――令嬢と一般庶民の“格の違い”を見せつけてやる。
由紀はそう心に決めると、にっこり微笑み、
「黒田会長、今日のサプライズイベントとして――フィアンセ同士のピアノ対決、なんていかがでしょうか? 私と西村さんでサプライズ対決。きっと盛り上がると思います」
由紀はそう提案し、黒田会長へ直談判した。
「確かに……面白そうだな。彼女が了解するなら、いいんじゃないか」
黒田会長が応じると、由紀は口元を吊り上げる。
幸には、直前に知らせればいい。
断れない状況を作り、みっともなく恥をかかせる――それが由紀の狙いだった。
由紀は、幸の了承を得ることなく、サプライズイベントとして進行係に段取りを指示する。
もちろん、「黒田会長の許可は取ってある」と伝えたうえで。
由紀は想像した。
幸が大勢の前で戸惑い、恥をかき、取り乱す姿を。
その瞬間――
由紀の顔には、意地悪な笑みが浮かんだ。
その頃、匠と幸は洋子カップルと合流していた。
合流すると同時に、匠と信が、
「久しぶりだな」
と声をかけ合い、自然に会話を弾ませ始めた。
幸と洋子がぽかんと見つめていると、二人が同級生で、高校時代からの友人であることがわかった。
こんな偶然があるのだろうか――。
幸も洋子も、四人のめぐり合わせに“運命”を感じてしまった。
四人で談笑していると、
「西村幸様ですか?」
黒服のスタッフが声をかけてきた。
声をかけられた四人は、一斉にスタッフへと視線を向ける。
「そろそろ、イベントが始まりますので、舞台までお越しいただけますでしょうか?」
「イベント?」
幸がきょとんとした顔で問い返した。
その瞬間、匠の目が鋭く細められる。
「イベントとは、どういうことだ?」
低く、冷静だが圧を感じさせる声で匠が尋ねると、
「た、高瀬由紀様から申し出がありまして……西村幸様と“フィアンセ同士のサプライズ対決”と称したピアノ対決を、急遽イベントに組み込むことになりまして……その、えっと……」
四人の視線を受け、スタッフの声はどんどん小さくなっていく。
その説明を聞き終えた瞬間――
信を除く、匠・幸・洋子の三人は、すぐにその“サプライズ”の裏にある意図を悟った。
あなたにおすすめの小説
フッてくれてありがとう
nanahi
恋愛
【25th Anniversary CUP】にて、最終ランキング3位に入りました。投票してくださった皆様、読んでくださった皆様、ありがとうございました!
「子どもができたんだ」
ある冬の25日、突然、彼が私に告げた。
「誰の」
私の短い問いにあなたは、しばらく無言だった。
でも私は知っている。
大学生時代の元カノだ。
「じゃあ。元気で」
彼からは謝罪の一言さえなかった。
下を向き、私はひたすら涙を流した。
それから二年後、私は偶然、元彼と再会する。
過去とは全く変わった私と出会って、元彼はふたたび──
今さらやり直しは出来ません
mock
恋愛
3年付き合った斉藤翔平からプロポーズを受けれるかもと心弾ませた小泉彩だったが、当日仕事でどうしても行けないと断りのメールが入り意気消沈してしまう。
落胆しつつ帰る道中、送り主である彼が見知らぬ女性と歩く姿を目撃し、いてもたってもいられず後を追うと二人はさっきまで自身が待っていたホテルへと入っていく。
そんなある日、夢に出てきた高木健人との再会を果たした彩の運命は少しずつ変わっていき……
仕事で疲れて会えないと、恋人に距離を置かれましたが、彼の上司に溺愛されているので幸せです!
ぽんちゃん
恋愛
――仕事で疲れて会えない。
十年付き合ってきた恋人を支えてきたけど、いつも後回しにされる日々。
記念日すら仕事を優先する彼に、十分だけでいいから会いたいとお願いすると、『距離を置こう』と言われてしまう。
そして、思い出の高級レストランで、予約した席に座る恋人が、他の女性と食事をしているところを目撃してしまい――!?
幼馴染に10年片想いしてたら、冷酷御曹司にプロポーズされました
ほーみ
恋愛
春の匂いが、駅前の並木道をくすぐる。満開の桜の下、私はひとり歩いていた。駅までの道は、高校時代、彼とよく歩いた道だ。
制服姿の学生が笑いながらすれ違っていくのを横目に、私はスマホを見下ろした。
「今日、伝えるって決めたんじゃなかったの?」
送信したきり返信のないメッセージ。画面には「既読」の文字があるだけだった。
――渡瀬 湊。私が10年間片想いをしている、幼馴染。
【完結】「元カノが忘れられないんでしょう?」と身を引いた瞬間、爽やか彼氏の執着スイッチが入りました
恋せよ恋
恋愛
「元カノが忘れられないなら、私が身を引くわくべきよね」
交際一周年、愛するザックに告げた決別の言葉。
でも、彼は悲しむどころか、見たこともない
暗い瞳で私を追い詰めた。
「僕を捨てる? 逃げられると思っているの、アン」
私の知る爽やかな王子の仮面が剥がれ落ち、
隠されていた狂おしいほどの独占欲が牙を剥く。
🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。
🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。
🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。
🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。
🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!
身分差婚~あなたの妻になれないはずだった~
椿蛍
恋愛
「息子と別れていただけないかしら?」
私を脅して、別れを決断させた彼の両親。
彼は高級住宅地『都久山』で王子様と呼ばれる存在。
私とは住む世界が違った……
別れを命じられ、私の恋が終わった。
叶わない身分差の恋だったはずが――
※R-15くらいなので※マークはありません。
※視点切り替えあり。
※2日間は1日3回更新、3日目から1日2回更新となります。