【完結】クズ男と決別した私の未来は輝いている。

カシスサワー

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第68話【サプライズ対決】

 黒田太郎会長への挨拶を終え、匠と幸がその場から離れていく。

 その後ろ姿を見送りながら、黒田会長がゆっくりと口を開いた。

「水沢社長の婚約者は、所作も実に美しいな……。彼女は、どこの令嬢だ?」

 その問いに、圭吾がすぐさま口を挟む。

「あいつは、令嬢なんかじゃないです。一般庶民の、ただの女ですよ」

 黒田会長は、わずかに目を細めて圭吾へ視線を向けた。

「そうか……。だが、庶民にしては随分と躾が行き届いているように見えるな」

 黒田太郎はゆっくりと視線を幸に戻し、低く続けた。

「あれは、いい女だ。――ああいう女性を選ぶとは、水沢社長も女を見る目がある。あれほど人を惹きつける美しさを持つ女なら、連れて歩くだけで男の格も上がるというものだ」

 その言葉を聞いた瞬間、圭吾の胸に、得体の知れない痛みが走った。

 ――どういうことだ?

 圭吾は動揺を押し隠しながら、祖父へ問いかける。

「あの女は一般家庭の女ですよ。令嬢でもなく、普通の家の……。そんな女と結婚してもいいと、会長は思われるんですか?」

 ここは公の場のため、あえて「会長」と呼ぶ。

 黒田太郎は、圭吾の言葉に眉ひとつ動かさず、淡々と答えた。

「躾も行き届き、所作も上品で美しい。見た目も申し分ない。そして誰をも魅了する女は、男の格を引き上げる。よほど素性に問題でもない限り――結婚しない理由などないだろう」

 その言葉が、圭吾の胸を深く抉った。

 つまり——幸を“結婚相手”として紹介しても、祖父は反対しなかったということになる。

 圭吾は、その事実に打ちのめされた。

 幸が一般庶民だというだけで、結婚を反対されると、勝手に思い込んでいた。

 だから、幸との結婚は考えずに、家同士の利益を一番に考え由紀と婚約した。

 確かに、由紀も可愛い。

 だが――家柄を除けば、由紀が幸に勝てるものは何ひとつない。

 その揺るぎない事実が、圭吾の胸を鋭く抉った。

 胸の奥に鈍い痛みが広がり、じわりと後悔がせり上がってくる。

 ――俺は、早まってしまったのか?

 圭吾は、自分でも抑えきれない感情に呑まれていった。

 沈むように落ち込む圭吾の横顔を見て、

 ――今日の西村幸を見て、逃した魚が大きかったと思ってるの?

 由紀の胸の奥で嫉妬が渦巻き、苛立ちがこみ上げる。

 それと同時に、圭吾の祖父・黒田太郎に対しても怒りが芽生えた。

 ――見た目だけで、財閥に嫁ぐなんてありえない。
 ――令嬢と一般庶民の“格の違い”を見せつけてやる。

 由紀はそう心に決めると、にっこり微笑み、

「黒田会長、今日のサプライズイベントとして――フィアンセ同士のピアノ対決、なんていかがでしょうか? 私と西村さんでサプライズ対決。きっと盛り上がると思います」

 由紀はそう提案し、黒田会長へ直談判した。

「確かに……面白そうだな。彼女が了解するなら、いいんじゃないか」

 黒田会長が応じると、由紀は口元を吊り上げる。

 幸には、直前に知らせればいい。

 断れない状況を作り、みっともなく恥をかかせる――それが由紀の狙いだった。

 由紀は、幸の了承を得ることなく、サプライズイベントとして進行係に段取りを指示する。

 もちろん、「黒田会長の許可は取ってある」と伝えたうえで。

 由紀は想像した。

 幸が大勢の前で戸惑い、恥をかき、取り乱す姿を。

 その瞬間――

 由紀の顔には、意地悪な笑みが浮かんだ。

 その頃、匠と幸は洋子カップルと合流していた。

 合流すると同時に、匠と信が、

「久しぶりだな」

 と声をかけ合い、自然に会話を弾ませ始めた。

 幸と洋子がぽかんと見つめていると、二人が同級生で、高校時代からの友人であることがわかった。

 こんな偶然があるのだろうか――。

 幸も洋子も、四人のめぐり合わせに“運命”を感じてしまった。

 四人で談笑していると、

「西村幸様ですか?」

 黒服のスタッフが声をかけてきた。

 声をかけられた四人は、一斉にスタッフへと視線を向ける。

「そろそろ、イベントが始まりますので、舞台までお越しいただけますでしょうか?」

「イベント?」

 幸がきょとんとした顔で問い返した。

 その瞬間、匠の目が鋭く細められる。

「イベントとは、どういうことだ?」

 低く、冷静だが圧を感じさせる声で匠が尋ねると、

「た、高瀬由紀様から申し出がありまして……西村幸様と“フィアンセ同士のサプライズ対決”と称したピアノ対決を、急遽イベントに組み込むことになりまして……その、えっと……」

 四人の視線を受け、スタッフの声はどんどん小さくなっていく。

 その説明を聞き終えた瞬間――

 信を除く、匠・幸・洋子の三人は、すぐにその“サプライズ”の裏にある意図を悟った。
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