最弱属性魔剣士の雷鳴轟く

愛鶴ソウ

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第三章 絆愛編

92話 満天の星空

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 その夜。


 ブルーバードは確か、ヘレリル公爵領の中心に栄えるセントレイシュタンのすぐ近くにあったはず。最短で行けば明日の昼には着くだろう。
 あそこに帰るのは三年……とちょっとぐらい前か。ヴァランやレッグ、元気かな。エリックやビリーも。忘れてたけどテリア山で偶然再会したマルスも、ブルーバードに帰るって言ってたな。アジェンダとも久しぶりに会えるかもしれない。
 アジェンダは確か超決闘イベントに出るんだったよな。会ったら一度勝負してほしいところだ。


「クロト。見張り、代わるでありんすよ」

「ああ、頼む」


 俺は毛布に包まり、木の幹にもたれ掛かる。レオは毛布もかけずに銀月を抱えながら目を閉じている。熟睡してるわけじゃないだろうけど、よく眠ってるように見える。
 四魔王との戦いからまだ一日も経ってない。全員かなり疲労してる。
 少し寝て、またシエラと見張りを変わってやろう。


「……ん?」


 寝ようと落ち着いたところで、違和感を感じ思わず目を開けた。


「どうしたでありんすか?」

「いや、今まで寝る時はエヴァがくっついて来てたから……」

「寂しいんでありんすか?」


 普段あまりそういう顔はしないシエラだが、今はにやぁっと口角を上げ、こっちを見ている。シエラもこんな表情するんだな。
 でも、そうだな……


「……寂しい、かな」


 エヴァとリンリはあまり動かすのも良くないというシエラの意見で、馬車の中にいる。
 そういえば俺、必死だったとはいえエヴァに愛してるなんて言ったんだよな。その気持ちは嘘ではないし、エヴァの事は好きだが、我ながらくさいセリフを吐いた。
 エヴァ以外に聞かれてないのが唯一の救いだ。そーいえば返事は聞きそびれたな。
 まぁいいか、次目覚めた時で……


 色々な思想を巡らせるうちに俺は気づかぬ内に眠りについた。


 その後、日の登る三時間程前に目を覚まし、シエラと見張りを交代していたレオと交代した。


「…………」


 じっとしているのもなんだか気持ちが悪かった俺は馬車の中を覗く。
 イザベラさんとエンリには全身、エヴァとリンリには顔が出るように毛布をかけている。外が寒い今の時期じゃなかったら二人の体は腐敗が進んでいたかもしれない。
 エヴァとリンリも、寒くないだろうか。


 ……少し、歩こうかな。


 俺はじっとしているのも嫌で、野営地を少し離れ森を歩いていた。と言っても見張りを放棄するわけにはいかないので常に耳を集中させ、野営地周辺を常に警戒する。
 空を見上げると数百、いや数千を越える星が夜空に散っていた。
 昔よく聞いた話、死んだ人は星になって空から見守ってくれる、と。だが、俺はその話を聞くたびに、見守ってくれなくていいから生きていてほしい、と思う。


「綺麗だな」





 ヘレリル公爵領のほぼ中心に位置する『セントレイシュタン』。エルトリア帝国城下町に次いで繁栄してるとされる都市。その北側には昔クロト達が壊滅させた盗賊団が根城にしていた山があり、その山を挟んだ高台にブルーバードはあった。
 距離にすれば十分十五分の距離ではあるが、山に隠れてしまっているのと、山から魔物が下りてくる危険性を考え、あまりそちら側に近づく者は居ない。故に知る人ぞ知る、秘密の酒場……というコンセプトで経営しているのがブルーバードだ。


「レッグ、そこの雑巾取ってくれ」 


 ブルーバードの店主にしてオーナーのヴァランだ。スキンヘッドの強面で、怖がられやすいがそこまで怖くない。水術、波術を自在に使い、実力も確か。


「ほらよ」


 ヴァランの呼びかけに答え、雑巾を投げたのはブルーバードのバーテンダー、レッグ。紫の髪をつんつんに尖らせ、サングラスを掛けた男。
 信用した相手にしか酒を出さないというポリシーを持っており、商売に向かないその性分を直せと何度もヴァランに注意されている。
 また、情報屋としても有名でずっとバーカウンターでグラスを磨いているにも関わらず、大陸の端から端まで、あらゆる場所の出来事を把握しており、またその根幹の部分すらも熟知している。
 尚、情報源は不明である。


 二人は現在ブルーバードの掃除中である。
 昼間は二人しか居ないブルーバードも、夜になれば満席になるほど賑わう為、仕入れや掃除は昼間のうちからやるのだ。
 従業員は二人しかおらず、臨時で働いていたクロト達も今はいない。だが、従業員としてではなく客人として、今はマルスが奥で寝ている。


「さて、次は……と」


 ヴァランがテーブルを拭き終え、窓の掃除に入ろうとしたところでドアが開き、扉の上部に括り付けてある鈴が音を立てる。


「いらっしゃい、悪いがまだ開いてねーぞ」


 ヴァランは来客に背を向けたまま窓を拭き続けている。レッグは既に来客を確認し、特に何も言わずにグラスを磨いている。


「そりゃ、悪いな」


 来客の声に僅かながら聞き覚えのあったヴァランはもしやと一瞬期待を抱くが、すぐに違うと思い直し、振り返りもせずに窓を拭き続けている。


「悪いと言えば俺達は客じゃないぞ。相変わらず汚いな、この酒場は」


 思わず振り返ったヴァランは懐かしい姿を見た。
 真っ黒な髪にボロボロの服、腰には剣が二本。一本はヴァランのよく知る鞘の赤い剣で、もう一本は見たことのない黒い剣だ。その後ろには刀を持った紫髪の青年と弓を担いだ青髪の女性が金髪の女と白髪の女性を背負っている。


「クロトか!」

「久しぶりだな。ヴァラン、レッグ」





「なるほど、ここを出てからそんな事があったのか」


 無事にブルーバードに着いた俺達はエヴァ、リンリを奥の部屋で寝かせ、レオとシエラも加えて紹介し、イザベラさん達の死体は一旦馬車においたままヴァラン達に事情を説明した。
 この場にいるのは俺、シエラ、レオ、ヴァラン、レッグ、それに先に着いていたマルスも居る。


「ああ、なんとか魔王の攻撃は凌いだが、少し休みたい」

「それは構わんが……話を聞いた限りじゃ、その白髪嬢ちゃん……それにクロトも。大丈夫なのか?」


 この大丈夫なのか、は身体的な疲労ではなく、精神面を案じてくれたのだろう。


「俺は元々失っていた、だから多少の心構えは出来ている。でも、リンリは……」

「一先ずお前の恩師と白髪嬢ちゃんの姉貴を埋葬してやろう。死体のまま置いておくのは心が痛む」

「ああ、だが場所が……」

「うちの裏庭でいいなら使ってくれ」

「本当か、助かる」





 出来るだけ早く二人を眠らせてやりたかったので、すぐに裏庭に大人二人が入れる程度の穴を掘り、馬車からイザベラさんとエンリを運んで来た。


「よい、しょっと……」


 本当なら、鎮魂にはもっと正式なやり方や形式があるのかもしれないが俺は知らなかったし、形式もそこそこにイザベラさんとエンリを穴の中へ入れた。


「本当はせめてリンリが起きてからやりたかったんだが、仕方ない……」


 もし起きたとしても、逆に辛いかもしれないからな。


「本当にありがとうございました。ゆっくり休んでください」


 俺は追悼の言葉を述べ、目を閉じ、祈る。
 余談ではあるがイザベラさんの剣、ローズレインは馬車の中に置いてある。本当は一緒に埋めたかったんだが、マナが使っていたのを見ていた俺は返してやる方がいいと思った。どういう経緯でマナに渡ったのかわからないので、勝手な事はしない方が良い。


「クロト、そろそろ」

「ああ」


 俺達は二人を埋め、イザベラさんがリブ村でそうしてくれた様に、ささやかではあるが墓をたてた。
 シュデュンヤーでトドメを刺したから再びリヴァの傀儡になる事はないだろう。だが、エンリは……いや、考えるのはやめよう。その前にリヴァを倒せばいい話だ。


 あまりにも心身共に疲れすぎた。暫くは休憩しようと思う。





 フランケンポールの研究室兼拠点の城にとある訪問者が訪れていた。


「アリゲインの情報では例のガキはブロンズからミスリルへ昇格したようだね……」

「何を一人で言っているのだ?」


 そこへ背後の廊下より来訪者が部屋へ入ってくる。


「正確には“二人だ”」


 言葉の如く、気づけば来訪者の首元にはナイフが突きつけられており、そのまま進んでいれば首を切られていただろう。
 部屋の壁際にいつの間にか立っていた男は背中に黒い翼を持ち、烏の仮面を被っている。


「ほぅ……誰だ? これは」

「僕の被験体九号、レイヴンさ。そんな事よりも久しぶりだね、ジガルゼルド」


 ジガルゼルドと呼ばれた来訪者は黒の髪が蛇のようにくねり、本物の蛇そっくりな目を持っている。放つオーラは常人のそれとは比べ物にならないレベルだ。
 この男はフランケンポールと肩を並べる実力者で現在は四魔王の頂点に君臨している。通称、大魔人。


「レイヴン、客人だ」

「御意」


 レイヴンはどんな術を使ったのか、闇に紛れるように完全に気配……いや、姿そのものを消した。


「その名前は久しく使っていないがな。元気そうで何よりだ、フランケンポール」


 二人は友であり、敵である。
 数十年前、人間がこの大陸に攻め込んできた際、魔族側が全滅を避けられたのはこの二人のおかげだとも言われている。
 魔物を無から生み出すジガルゼルドと、人間や魔族を媒体とし新たな魔物を創り出すフランケンポール。
 五千を超える魔物の軍団を用いて二人は人間からこの大陸を守った。だがそれ以来、元々いがみ合っていた事もあり、全く会う事は無かった。
 そんな二人でも、現在は特に争うこともなく、かと言って干渉することもなく、お互いにお互いを無視して生きていた。


「君から来るとは珍しいね。何か用かい?」


 今回はその沈黙を破り、大魔人ジガルゼルドからフランケンポールにコンタクトを取ってきたのだ。


「数十年ぶりに、手を組まないか?」

「否、僕にメリットが無いね」

「そうでも無い、と俺は思うがね」

「……なんだと?」


 再び机に向かおうとしたフランケンポールはジガルゼルドの言葉に動きを止める。


「お前が今探している皇帝鬼エンペラーオーガを倒した少年……正確にはもう青年だが」

「それが……?」

「ついこの間、うちのフロリエルがそいつに殺された。俺達も前から注意はしていたが、まさかそこまでやるとは思わなかった」

「不死不滅はどうしたんだか。それで? まさかそれだけを言いに来たわけじゃあるまい」

「狙っている獲物が同じなら協力する価値があるだろう」

「その価値ってのは、僕にもあるのかな?」

「勿論、お前がするのはその青年……クロト、及びその仲間三名の抹殺、俺が差し出すのは奴らの情報」


 フランケンポールの目が真剣になる。


「どこまでの情報を持っている?」

「奴らが使う技から苦手とするもの、性格、特性……お前が必要だと思う情報は全て持っていると言ってもいい」

「そうか。僕にとっては願ったり叶ったりだね。でも、君がそこまで固執する理由は何だい? 確かに力を持っている冒険者であるのは間違いないが、君の目的はたかが一冒険者を殺す事では無いだろう」

「最初はフロリエルの執念だった。だが、奴らは我々の作戦にことごとく噛み付き、今や立派な障害だ。話によれば魔族への強い敵対意識も持っているそうだ。いずれ我々の最も脅威する存在へと成り上がってくる可能性がある」

「……わかった。君が警戒するのだからそれだけの相手なんだろう。そいつらを潰すことに関してだけは手を貸してやる」

「交渉成立というわけだな。よろしく頼むぞ、フランケンポール」

「ああ、ジガルゼルド」


 ここに、数十年前より厄災と言われたフランケンポール。そして今、人類を恐怖に陥れている大魔人ジガルゼルドの結託が成された。
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