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第11話 罰と刻印
しおりを挟む「ん……っ、ぁ……!」
言葉での否定とは裏腹に、僕の身体はあまりにも正直だった。
女子トイレの個室。落としたズボンを潜るように差し入れられた彼女の指先は正確に僕の中心を探り当ててゆく。軽く触れられただけで背筋に電流が走った。
「……ほら。やっぱり」
蓮菜さんが冷ややかに、けれどどこか熱っぽく囁く。
彼女の細い指が、僕の股間に残された名残りをつまみ上げた。
かつて陰茎、おちんちんだったもの。いまはもう小指の先ほどにまで萎縮している。わずか数週間での急激な変化に皮膚がついていっていない。皺が寄った包皮のような皮膚に埋もれている。
ただ、それはいま恥ずかしいほどに充血し、こりこりとした硬度を持って自己主張していた。
「まるでクリトリスね。こんなに固くしちゃって」
「ち、ちがう……これは、その……びっくり、したから……」
「往生際が悪い」
彼女は容赦なく、その敏感な先端を親指の腹でこすり上げた。
「ひゃぅっ……!」
声にならない悲鳴が漏れる。狭い個室に反響する。そこに小さな水音が混じったことに僕は気がつかないふりをした。蓮菜さんは薄く笑っている。
「男として守ってあげる。わたし、そう言ったよね」
彼女の声は低い。怒りを含んでいるようでいて、どこか楽しんでいるようにも聞こえる。
「わたしは君の魂を、男としての誇りを守ろうとしている。なのに……君のこの身体は、この反応は、どういうこと?」
ぐじゅり。
粘着質な音がした。
彼女の中指が、硬くなった突起の後ろ、新しく形成された小さな粘膜のひだをかき分けたのだ。
「男の友達に見られて、男としてではなくメスとして反応してる……ねえ、これって裏切りじゃない? あなたは女の子になりたいの? 女として悦びを感じてるの?」
彼女の瞳が暗い光を宿して僕を射抜く。
そこにあるのが純粋な義憤だけではないことはわかってる。自分の所有物が、他の男の視線によって変質したことへの強烈な嫉妬。僕が男であることも、そうして女になることも、自分の支配のもとでなされなければならない。蓮菜さんがそう考えていることはわかっていた。
そして――そして。
あられもない姿を晒す僕への、嗜虐的な欲情も。
「罰よ、ひより」
「ば、罰……?」
「そう。君のなかの男の子の魂を裏切って、男性に色目を使ったこの淫らな身体にお仕置きをするの。君が二度と、他の男の前でこんな反応をしないように」
彼女の手つきが変わった。
ぐいと指先を襞の間に滑り込ませ、前後に擦るように動かす。指先を少しだけ持ち上げ、こりこりとひっかくように粘膜を刺激する。ときおり、ぐりっと手のひらを突起と襞の全体に当て、力を入れる。
それはいつもの「治療」のような、男性機能を維持するためのマッサージではなかった。
明確に、僕を女として感じさせるための、暴力的な愛撫。
「あっ、あ、あ……っ」
僕はタンクに背中を預け、がくがくと膝を震わせることしかできない。
否定したかった。僕は男だ。大輝に欲情なんてしていない。
けれど、脳髄を焦がす快楽の出処は、言い訳を許さなかった。
刺激されているのは表面の襞、そして突起。なのに、熱く疼いているのはもっと奥だ。下腹部の底、レントゲンなんて撮っていないけれど、もうそれがあることは僕にも感じられている、未完成のちいさな子宮。そこが大輝に向けられた視線を養分にして、きゅんきゅんと切なく収縮し、蜜を溢れさせている。
「……すごい。こんなに濡らして。ふふ、できたばっかりのはずなのに、ひよりの女の器官は優秀なんだね」
彼女は僕の愛液で濡れた指を引き抜き、目の前でゆっくりと擦り合わせた。糸を引く粘液。息遣いが荒い。
「ね、悔しい? 男なのに、こんな風になっちゃって」
「う、うう……っ」
「悔しいなら、身体で覚えなさい。君をこんな風にしていいのは、君の中身も外見もぜんぶぜんぶ知っている、わたしだけだって」
彼女の指が、ずぷり、と深く沈んだ。
そこは、まだ指一本を受け入れるのがやっとの、未成熟な入り口。
異物感。けれど、それが堪らないほどの充足感となって脳を叩く。
「いやっ、ひっ、ああああ……!」
「いきなさい。男としてじゃない……裏切り者の、メスの身体で」
彼女の指が奥の手前、敏感な部分を抉るように動く。
同時に親指が陰茎……いや、おおきく勃起したクリトリスを激しく弾いた。
「だめ、だめっ、壊れちゃう、おかしくなるっ……!」
「壊れればいい。他の男に反応する神経なんて、焼き切れちゃえばいい!」
彼女の叫びにも似た言葉と共に、決定的な波が押し寄せた。
男としての射精の予感ではない。
全身の血液が沸騰し、身体の内側からとろりと溶け出すような、波状の奔流。
「あ、あ、ああああああっ――!」
僕は声を押し殺して絶叫した。
身体が弓なりに反り、足の指が縮こまる。
小さな陰茎からほんのわずかな白濁液が飛び散った。
同時に身体の最奥から透明で熱い液体がどっと溢れ出した。潮を吹くように、止めどなく。
絶頂。男としての、そして、女としての。
はあ、はあ、はあ、はあ……。
激しい痙攣が収まっても、僕は蓮菜さんの腕の中で震え続けていた。
彼女は僕の身体を抱きしめ、首筋に顔を埋めていた。
僕の匂いを嗅いでいる。まるで、マーキングをする獣のように。
彼女の身体もまた、熱く火照っているのが伝わってきた。僕を罰しながら、彼女自身もまた、女になりゆく僕の身体に魅入られているのだ。その矛盾が、僕たちの関係をより深く、暗い泥沼へと引きずり込んでいく。
◇
「……おせーよ、お前ら」
カラオケの個室に戻ると、大輝が不機嫌そうにスマホをいじっていた。
もう三曲ほど歌い終わったのだろう。テーブルには空になったグラスが置かれている。
「ご、ごめん……」
僕の声は、情けないほどにかすれていた。
足に力が入らない。膝が笑っていて、蓮菜さんの肩に寄りかからなければ立っていられない状態だった。
ズボンは整えたけれど、下着の中はぐしゃぐしゃだ。拭ききれなかった愛液の不快感が、罰の重みを肌に刻みつけている。動くたびに、ぬるり、と太ももの内側が滑る感覚。
「なんだよ日高、お前、顔真っ赤だぞ。大丈夫か?」
大輝が怪訝そうに顔を覗き込んでくる。
その視線にまた身体がびくりと反応してしまう。条件反射のように下腹部がきゅんと疼く。視線を逸らす。また、見抜かれるんじゃないか。僕が女の顔をしていることが。大輝も蓮菜さんも、どちらの目も見ることができない。
と。
「おなか、壊したんだって」
僕の代わりに答えたのは、蓮菜さんだった。
彼女は僕をソファに乱暴に座らせると、大輝に向かって呆れたように肩をすくめた。
「そうならそうと言えばいいのに、ずっと我慢して隠してるんだもの。男なんだから堂々としてなさいよね。トイレからぜんぜん出てこないから、わたし心配でずっと待ってたんだよ」
その口調は、さっきまでの妖艶な女王さまとはかけ離れた軽いものだった。
「は? なんだよ日高、お前小学生かよ。彼女の前だからってカッコつけんなよな」
大輝が呆れたように笑う。その目からはさっきの欲情の色は消えていた。
そのことで、蓮菜さんがまた僕を護ってくれたのだということが理解できた。
「う、うるさいな……ちょっと冷えただけだよ」
僕も必死で話を合わせる。
そうだ。僕は男だ。ただ腹を壊して、彼女に介抱された情けない男。
それでいい。そう思われていれば、僕はまだこっち側の世界にいられる。
だけど……。
「まったく、世話が焼けるんだから」
蓮菜さんが、どすん、と僕の隣に腰を下ろした。その拍子に彼女の手が僕の太ももの上に置かれる。わずかに内側。
ぎゅっ。服の上から強い力で爪を立てられた。
「痛っ……」
「なに?」
「な、なんでもない……」
大輝には見えない角度で、彼女は僕に痛みを刻んでいた。
『忘れないで』
声に出さずに、彼女の手がそう告げている。
君の下半身が今どうなっているのか。誰によってそんな風にされたのか。
「ほら、次、日高の番だろ。歌えよ」
大輝がマイクを差し出してくる。
「あ、うん……」
僕は震える手でマイクを受け取った。
股間の粘り気と、太ももに残る蓮菜さんの爪の感触を引きずりながら。
できるだけ低い声を出して歌う僕の横顔を、蓮菜さんはアイスティーのグラス越しに、冷たく、そして熱い瞳で見つめ続けていた。
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