女王さまのオンナになった、僕。

臼井 さくら

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第18話 脱獄の夜

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 検査は翌日も、その次の日も続けられた。

 検査室の天井は、どこまでも白い。
 無機質な照明が僕の視界も心も塗りつぶす。
 僕は診察台の上で、開脚したまま固定されていた。前の検査で少し動いたことが、暴れた、と評価されたらしい。両足が足首と腿の位置で器具にベルトで結びつけられている。検査着がめくりあげられ、下半身は完全に無防備な状態で医師の前に晒されている。

 「今日は、感度のチェックをするからね。少し痛いかもしれないけど、自然に反応して」

 東京から来たという初老の医師の声は、常に事務的で、モノを扱うような響きを含んでいた。
 彼の手には、なにかの器具。大きめのドライバーのような形。
 
 「え……あ、あの……」
 「この先のところから微弱な電流が流れるから。じゃあ、当てていくよ」

 冷たい金属が、僕の縮こまったペニス――いや、クリトリスに押し当てられた。
 ジジ、と不快な刺激が走る。
 反射的に腰が跳ねた。

 「ん、っ……!」

 それでも医師は器具を離さない。下半身の一点から猛烈な刺激が全身に広がり、僕は背を椅子に打ちつけるようにして悶えた。頭を左右に振り、きつく噛んだ唇の端から泡をふく。内臓と背骨を掴んで揺さぶられているように感じた。痛みとも、快感とも言えるその刺激は、僕の脳を焼き切るように与え続けられたのだ。
 それでも、時間にすれば一分ほどだったろうか。
 やがて僕の小さな裂け目の部分から、透明で暖かな液体が大量に噴き出るのを感じた。
 同時に全身のちからが抜け、器具も離された。
 
 「ふむ。陰茎海綿体の反射は消失。代わりに陰核としての神経回路が構築されているな。子宮様の器官もすでに形成、スキーン腺液も大量に生成されている」

 医師は独り言のように呟きながら、今度はプローブを膣口へと滑り込ませた。
 ぬるり、と異物が侵入する感触。
 蓮菜さんの指とは違う。愛のない、ただの冷たい検査器具。
 それが粘膜を擦り、奥を突くたび、快感ではなく、ただ生理的な防御反応としての愛液が溢れ出てくる。

 「分泌機能も正常。じゃあ、刺激を開始するからね。恥ずかしがらずに反応して。大事なデータだから」
 「や、やめ……!」

 懇願も虚しく、機械的な振動が僕の内部を責め立てた。
 背をのけぞらせ、足を突っ張って耐え続ける。
 だめ。だめだ。反応したら……だめ、だ。
 そんな抵抗も虚しく、そのうち機械的な渦が僕の全身を飲み込み始めた。がくがくと背をのけ反らせ、僕は絶頂を強要された。それでも機械の動きはとまらない。

 「やめて。お願い、やめ、て……!」

 声が届かないかのように、医師は僕の顔を冷ややかに覗き込んでいる。看護師はなにかをメモしている。たぶん、僕の反応を記録しているんだろう。どれだけ、どんなふうにイくのか、を。
 機械がより強くうねり、振動し始めた。波が再び襲ってくる。椅子の上、腰の周りは僕が噴出した液体でぐちゃぐちゃになっている。そのまま僕は立て続けに絶頂に達して、機械が止まると同時に失神した。

 そして、看護師さんの声で目をさまさせられる。
 あらわになった胸に吸盤のような装置を取り付けて、その先端に針のようなもので電気が流された。同時に下腹部にはさっきの機器。そして気を失っている間に、身体のあちこちに電流を流す小さな装置が取り付けられていたらしい。
 あらゆる方向からやってくる強烈な刺激に、僕はすでに正気を失っていた。

 「い、く、だめ、あっ、ん、いく、いくいく、だめ、いく……あ、ああああああ――っ!」
 
 文字通り、僕は泣き叫んでいた。そう言わなければ許してもらえないように思ったのだ。治療だし、検査だ。そんなことはないのだろうけれど、僕はもう、羞恥の気持ちを喪失しはじめていたのだ。

 ◇

 一時間にも及ぶ検査が終わり、僕はよろめく足取りで病室へ戻された。
 看護師さんが付き添ってくれていたし、その表情は優しかったけれど、彼女もまた、どこか僕を見る視線に好奇心が混ざってきているように感じたのだ。

 そうして、夕方。
 トイレに行こうと部屋を出て、ナースステーションに差し掛かったとき、カーテンの向こうから看護師さんたちの話し声が聞こえてきた。

 「……あの子、どうなんですか?」
 「ああ、日高くん? すごいよね、あんなにはっきり両性具有化してるの初めて見た。普通は小さな頃になる病気だからあんまり目立たないもんね。それにね、どっちでも……感じられるみたいだよ。ちゃんとイってた」
 「えええ、すごい。でも、なんか……怖くないですか? 男でも女でもあるって」
 「わかる。綺麗だけどさ、なんか生き物として不気味っていうか……」

 心臓を、氷の杭で打ち抜かれたような気がした。
 不気味。
 それが世間から見た僕の姿なんだ。
 病気じゃない、体質なんだ、特性なんだって言いながら、その裏で、気持ち悪い、と線を引いている。
 両親も、先生も、きっと同じだ。だから僕をここに閉じ込めて、正常ななにものかに矯正しようとしているんだ。

 「う、うぅ……っ」

 僕は部屋に走り戻って、ベッドの上で膝を抱え、声を殺して泣いた。
 孤独だった。
 この広い世界に、僕の居場所なんてどこにもない。
 もう、僕のことを、ただの日高ひよりとしてみてくれるひとなんていないんだ。
 
 ちがう。いる。ひとりだけいる。
 僕の歪な身体を、綺麗、と言ってくれたひと。
 男でも女でもない僕を、そのままで受け入れて、そのままで愛してくれたひと。

 (蓮菜さん……)

 震える手でスマートフォンを握りしめた。
 距離を置こうなんて、ひとりで自分を見つめるなんて言ったのは僕だ。いまさら助けを求めるなんて、虫が良すぎる。でも、もう限界だった。

 『助けて』

 たった三文字。
 送信ボタンを押した瞬間、後悔と安堵がない交ぜになって、僕はそのまま意識を失うように眠りに落ちた。

 ◇

 深夜。
 ふと目が覚めると、枕元のスマホが淡い光を放っていた。
 通知ランプが点滅している。
 心臓が早鐘を打った。
 恐る恐る画面を見る。
 蓮菜さんからのメッセージだった。

 『丘の横の病院、でいいんだよね』

 問いかけの意味がわからないまま、僕は慌てて返信をした。

 『うん』
 『少し、出てこられる?』

 来て、くれたんだ。
 蓮菜さん、ここにいるんだ。
 ぽろ、っと僕の目尻から涙が溢れた。
 
 『裏口の駐車場。警備員が巡回に行った直後がチャンスだよ』

 時刻は午前二時。
 僕は飛び起きた。
 検査着のままカーディガンだけを掴んで、音を立てないように病室を出た。
 深夜の廊下は静まり返っている。ナースステーションにはちょうど誰もいない。
 エレベーターではなく非常階段を使う。裸足の裏に冷たいコンクリートの感触が伝わる。

 裏口の通用門。
 重い扉を少しだけ開けると、冷たい夜風が吹き込んできた。
 駐車場の端、街灯の光が届かない暗がりに、人影があった。

 「……蓮菜さん!」

 僕は駆け寄った。芝生と小石を足の裏に感じながら。
 彼女は振り返り、夜目にもわかる大きな笑顔を浮かべた。手を小さく振っている。いつもの制服姿ではない。厚手のコート、目深のニット帽。そしてその足元には、大きなスーツケースとボストンバッグが置いてある。

 「……来て、くれたんだ」
 「当たり前でしょ。SOSが来たんだから」

 彼女は少し怒ったような表情をつくって、それから微笑んでみせた。その笑顔を見た瞬間、張り詰めていた緊張の糸が切れ、僕はその場に崩れ落ちそうになった。彼女が慌てて支えてくれる。涙があとからあとから溢れてくる。

 「検査着一枚なんて……寒かったでしょ」
 「ううん……平気」
 「待っててね」

 彼女は足元のボストンバッグをごそごそと探り、中から服を取り出した。
 パーカーと、ゆったりしたスウェットパンツ。そしてスニーカー。

 「急いで買ってきたけど、サイズ、たぶん大丈夫。ほら、わたし、君のサイズを身体で覚えてるから」
 「え……」
 「着替えて。急がないと見つかるよ」

 僕は言われるままに服を受け取り、その場で着替えた。
 サイズはぴったりだった。彼女が選んでくれた服。温かい。

 「あの……着替えて、どうするの。それと、その荷物……」
 「なにって」

 彼女は僕の方に手を伸ばし、指を絡ませてきた。
 間近に顔を寄せ、にかっと笑う。
 その瞳は、冒険に出る少年のように、あるいは覚悟を決めた戦士のように輝いていた。

 「家出に決まってるじゃない」
 「……え」
 「あ、病院出、か。まあ、どっちでもいいや」
 「家出って……どこへ?」
 「遠く。誰もわたしたちを知らない場所……っていいたいけど、ふふ、少し土地勘があるところじゃないと心配だね」

 彼女は僕の手を取った。

 「逃げよう。わたしと」

 その言葉は、どんな甘い愛の言葉よりも、僕の心を揺さぶった。
 逃げる。この息苦しい現実から。不気味な生き物として扱われるこの場所から。
 僕は彼女の手を強く握り返した。

 「……うん。連れてって」

 ふたつの影は、こうして夜の闇に溶けていったのだ。
 背後で病院の白い建物が、墓標のように静まり返っていた。

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