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救国の乙女は「男の娘」でした。――大臣、禁呪の定義に挑む。
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アルカディア王宮の一角、重厚な装飾が施された大臣執務室。そこには、静寂とは無縁の怒号が渦巻いていた。
「何を考えておられるのだ、王は……! いや、考えていることは明白だが。魔族に降伏するだと!? それで身分を保証してもらう? 王のおじいちゃんとして院政を敷く? ふざけるな!!」
大臣は、超が付くほどの保守的国粋主義者である。彼にとって、この神聖なるアルカディア王国が魔族の軍靴に蹂躙されるなど、万死に値する屈辱であった。王が孫との隠居生活を夢見て国を売ろうとするならば、部下である自分がそれを阻止せねばならない。
彼は、血管が浮き出た拳で何度も執務机を叩きつけた。
「降伏など断じてさせん……。あのボケ老人を止めるには、禁忌の呪法を発動させ、魔族を大陸ごと消し飛ばすしかないのだ。……おい! どうだ、見つからんのか? 王家の清らかな女性は!」
大臣は、控えの間で待機していた部下に向かって叫んだ。部下は冷や汗を流し、手元の書類を震わせながら報告する。
「はっ、現在、系図をさかのぼり報告を待っているところですが……何分、シャルロット姫以外で『清らか』かつ『王族』となると、条件が極めて厳しく……。多くの傍系はすでに他国へ嫁ぐか、あるいは……その、街の男たちと浮名を流しておりまして」
「クソッ! 禁忌の呪法さえ発動できれば……。この国を、われらが誇りを守るためには、尊い犠牲が必要なのだ! 誰か一人、一人でいいのだ! 王家の血を引く清らかな生贄さえいれば、魔族を塵にできるものを!」
大臣は天を仰いだ。その願いが通じたのか、一人の部下が廊下を全速力で駆け抜け、執務室の扉を文字通り跳ね飛ばして飛び込んできた。
「大臣! 見つけました! 王家の血に連なる、清らかな少女を!」
その言葉に、大臣は椅子を蹴って立ち上がった。
「何だと!? 本当か!」
「はっ! 歴史編纂局が総力を挙げて系図を遡りました。執念の調査が実を結んだのです!」
差し出された報告書を、大臣は奪い取るようにして食い入るように見た。
【調査報告:救国の生贄候補】
家系: 先代の王の「はとこのはとこのはとこ」の孫。
居住地: 王都から遥か北方に位置する、ど田舎の農村。
生活状況: ひっそりと農業に従事。異性との交遊は、近隣の住人の証言によれば「一切なし」。
年齢: 十四歳。
「……先代の王のはとこのはとこの……何? もう、ほとんど他人じゃないか、それ。よく見つけたな」
大臣は一瞬、その血の薄さに疑問を抱いたが、背に腹は代えられない。たとえ一滴でも、王家の正統なる魔力を引き出すトリガーさえあれば良いのだ。
「と、とにかく連れてこい! 時間がない! 王が魔王に降伏の使者を送る前に、儀式を終わらせるのだ!」
数刻後、大臣の前に一人の「少女」が連れてこられた。
そこにいたのは、華美なドレスではなく、慎ましい町娘の格好をした可憐な少女であった。スレンダーな体躯に、首筋をすっきりと出したショートカット。その立ち居振る舞いには、田舎育ちとは思えない隠しきれない気品が漂っており、伏せられた長い睫毛がその高潔さを強調していた。
大臣は彼女を一目見るなり、直感した。
(これだ。これこそが、魔族を滅ぼし、我が国を救うための器だ)
「……王家の血に連なる者として……ボクは、いつか国のために尽くすようにと言い聞かせられてきました。ようやく、その時が来たのですね」
少女は静かに頭を下げた。その声は鈴を転がすように澄んでおり、しかしどこか意志の強さを感じさせる。
「そうですか……。では、単刀直入に言いましょう。ですが、事が事ですので、無理強いはできません」
大臣は前置きしてから、彼女に真実を告げた。大陸の平和と王国の誇りを守るためには、彼女の「清らかな血」を生贄として禁忌の呪法を発動させる必要があること。そして、それは彼女の命を散らす結果になることを。
普通であれば、泣き喚くか、あるいは逃げ出すような残酷な要求である。しかし、少女は迷うことなく、一点の曇りもない瞳で大臣を見つめ、微笑んだ。
「お引き受けいたします。ボク一人の命で、この大陸のすべての人たちが助かるのであれば。……お役に立てて、光栄です」
「おおお……! なんという愛国心! なんという犠牲的精神! シャルロット姫に見せてやりたいほどの気高さだ!」
大臣は、男泣きに震えた。これこそが真の王族、真の乙女である。王や王女を含め、堕落した王宮の貴族たちが見失った「高貴なる義務」が、この辺境の少女には宿っていたのだ。
「よし……。では、王にお引き合わせ――いや、王に会わせればまた『降伏して孫を愛でる』などと戯言を吐きかねん。このまま秘密裏に儀式の準備を整えるのだ!」
大臣は、勝利を確信した。これで大陸は救われ、誇り高きアルカディアは存続する。しかし、そこで大臣は、先ほどから耳に残っていた妙な違和感を口にした。
「……あの、ところで。ちょっと気になっていたのですが。なぜあなたの一人称は『ボク』なのですか? いわゆる『ボクっ娘』というやつですか? あるいは、辺境の村の流行りなのですか?」
少女は小首を傾げ、至極当然のことのように、聖母のような慈愛に満ちた笑みを浮かべて答えた。
「ボク、男です」
「………………んっ?」
大臣の思考が、一瞬で凍りついた。
「……は? 今、何と?」
「男なんです。いわゆる『男の娘』です」
「……えっ!? じゃあ、その……付いてるの?」
大臣は、自身の地位も威厳も忘れ、震える指で少女――いや、少年の下半身を指差した。少年は、はにかみながら、頬を少し赤らめて答えた。
「付いてます。でも、経験は一度もありません。だから、儀式の条件である『清らか』な状態に変わりはないですよね? それに心は乙女的だと思います」
「…………」
大臣は、固まった。石像のように、あるいは先ほど凍結した空間のように。 彼の脳内では、禁忌の呪法の発動条件が、恐ろしい速度で再確認され始めていた。
【禁忌の呪法・発動要件の再精査】
王家の血を引くこと: クリア(薄いが、確かに流れている)。
清らか(未経験)であること: クリア(本人談。近隣住人の証言とも一致)。
乙女(女性)であること: 物理的にアウト? 精神的にはセーフ?
「……ちょ、ちょっと待ってくれ」
大臣は震える手で眼鏡を外し、目頭を押さえた。 呪法の記述には、確かに『王家の乙女』とある。しかし、古代魔法の記述は多義的だ。果たして魔法の法則は、「肉体」を判別するのか、それとも「魂」を判別するのか。あるいは、未経験の男性を『乙女』とみなす広義の解釈が、古代の魔法体系に存在するのか。
「……魔法研究所に、至急確認を取らせる。……『王家の乙女』という定義に、現代魔法学的な観点から解釈の余地があるかどうかをな……。精神が乙女であれば、魔力回路が誤認する可能性があるかどうかを……」
大臣は、崩れ落ちるように椅子に座り込んだ。 目の前の「少年」は、依然として聖なる光を纏ったような気高い表情で、自分の命を捧げる準備ができていると訴えている。
「ボク、いつでも準備はできています。脱げと言われれば、今すぐ脱ぎますし……」
「いや、脱がなくていい! まだ脱ぐな! て言うか、脱ぐ必要すらあるか分からん……と、とにかく研究所からの回答を待て!」
アルカディア王国の命運は、今、一人の「男の娘」の、あまりにも清らかな股間に委ねられようとしていた。
「何を考えておられるのだ、王は……! いや、考えていることは明白だが。魔族に降伏するだと!? それで身分を保証してもらう? 王のおじいちゃんとして院政を敷く? ふざけるな!!」
大臣は、超が付くほどの保守的国粋主義者である。彼にとって、この神聖なるアルカディア王国が魔族の軍靴に蹂躙されるなど、万死に値する屈辱であった。王が孫との隠居生活を夢見て国を売ろうとするならば、部下である自分がそれを阻止せねばならない。
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大臣は、控えの間で待機していた部下に向かって叫んだ。部下は冷や汗を流し、手元の書類を震わせながら報告する。
「はっ、現在、系図をさかのぼり報告を待っているところですが……何分、シャルロット姫以外で『清らか』かつ『王族』となると、条件が極めて厳しく……。多くの傍系はすでに他国へ嫁ぐか、あるいは……その、街の男たちと浮名を流しておりまして」
「クソッ! 禁忌の呪法さえ発動できれば……。この国を、われらが誇りを守るためには、尊い犠牲が必要なのだ! 誰か一人、一人でいいのだ! 王家の血を引く清らかな生贄さえいれば、魔族を塵にできるものを!」
大臣は天を仰いだ。その願いが通じたのか、一人の部下が廊下を全速力で駆け抜け、執務室の扉を文字通り跳ね飛ばして飛び込んできた。
「大臣! 見つけました! 王家の血に連なる、清らかな少女を!」
その言葉に、大臣は椅子を蹴って立ち上がった。
「何だと!? 本当か!」
「はっ! 歴史編纂局が総力を挙げて系図を遡りました。執念の調査が実を結んだのです!」
差し出された報告書を、大臣は奪い取るようにして食い入るように見た。
【調査報告:救国の生贄候補】
家系: 先代の王の「はとこのはとこのはとこ」の孫。
居住地: 王都から遥か北方に位置する、ど田舎の農村。
生活状況: ひっそりと農業に従事。異性との交遊は、近隣の住人の証言によれば「一切なし」。
年齢: 十四歳。
「……先代の王のはとこのはとこの……何? もう、ほとんど他人じゃないか、それ。よく見つけたな」
大臣は一瞬、その血の薄さに疑問を抱いたが、背に腹は代えられない。たとえ一滴でも、王家の正統なる魔力を引き出すトリガーさえあれば良いのだ。
「と、とにかく連れてこい! 時間がない! 王が魔王に降伏の使者を送る前に、儀式を終わらせるのだ!」
数刻後、大臣の前に一人の「少女」が連れてこられた。
そこにいたのは、華美なドレスではなく、慎ましい町娘の格好をした可憐な少女であった。スレンダーな体躯に、首筋をすっきりと出したショートカット。その立ち居振る舞いには、田舎育ちとは思えない隠しきれない気品が漂っており、伏せられた長い睫毛がその高潔さを強調していた。
大臣は彼女を一目見るなり、直感した。
(これだ。これこそが、魔族を滅ぼし、我が国を救うための器だ)
「……王家の血に連なる者として……ボクは、いつか国のために尽くすようにと言い聞かせられてきました。ようやく、その時が来たのですね」
少女は静かに頭を下げた。その声は鈴を転がすように澄んでおり、しかしどこか意志の強さを感じさせる。
「そうですか……。では、単刀直入に言いましょう。ですが、事が事ですので、無理強いはできません」
大臣は前置きしてから、彼女に真実を告げた。大陸の平和と王国の誇りを守るためには、彼女の「清らかな血」を生贄として禁忌の呪法を発動させる必要があること。そして、それは彼女の命を散らす結果になることを。
普通であれば、泣き喚くか、あるいは逃げ出すような残酷な要求である。しかし、少女は迷うことなく、一点の曇りもない瞳で大臣を見つめ、微笑んだ。
「お引き受けいたします。ボク一人の命で、この大陸のすべての人たちが助かるのであれば。……お役に立てて、光栄です」
「おおお……! なんという愛国心! なんという犠牲的精神! シャルロット姫に見せてやりたいほどの気高さだ!」
大臣は、男泣きに震えた。これこそが真の王族、真の乙女である。王や王女を含め、堕落した王宮の貴族たちが見失った「高貴なる義務」が、この辺境の少女には宿っていたのだ。
「よし……。では、王にお引き合わせ――いや、王に会わせればまた『降伏して孫を愛でる』などと戯言を吐きかねん。このまま秘密裏に儀式の準備を整えるのだ!」
大臣は、勝利を確信した。これで大陸は救われ、誇り高きアルカディアは存続する。しかし、そこで大臣は、先ほどから耳に残っていた妙な違和感を口にした。
「……あの、ところで。ちょっと気になっていたのですが。なぜあなたの一人称は『ボク』なのですか? いわゆる『ボクっ娘』というやつですか? あるいは、辺境の村の流行りなのですか?」
少女は小首を傾げ、至極当然のことのように、聖母のような慈愛に満ちた笑みを浮かべて答えた。
「ボク、男です」
「………………んっ?」
大臣の思考が、一瞬で凍りついた。
「……は? 今、何と?」
「男なんです。いわゆる『男の娘』です」
「……えっ!? じゃあ、その……付いてるの?」
大臣は、自身の地位も威厳も忘れ、震える指で少女――いや、少年の下半身を指差した。少年は、はにかみながら、頬を少し赤らめて答えた。
「付いてます。でも、経験は一度もありません。だから、儀式の条件である『清らか』な状態に変わりはないですよね? それに心は乙女的だと思います」
「…………」
大臣は、固まった。石像のように、あるいは先ほど凍結した空間のように。 彼の脳内では、禁忌の呪法の発動条件が、恐ろしい速度で再確認され始めていた。
【禁忌の呪法・発動要件の再精査】
王家の血を引くこと: クリア(薄いが、確かに流れている)。
清らか(未経験)であること: クリア(本人談。近隣住人の証言とも一致)。
乙女(女性)であること: 物理的にアウト? 精神的にはセーフ?
「……ちょ、ちょっと待ってくれ」
大臣は震える手で眼鏡を外し、目頭を押さえた。 呪法の記述には、確かに『王家の乙女』とある。しかし、古代魔法の記述は多義的だ。果たして魔法の法則は、「肉体」を判別するのか、それとも「魂」を判別するのか。あるいは、未経験の男性を『乙女』とみなす広義の解釈が、古代の魔法体系に存在するのか。
「……魔法研究所に、至急確認を取らせる。……『王家の乙女』という定義に、現代魔法学的な観点から解釈の余地があるかどうかをな……。精神が乙女であれば、魔力回路が誤認する可能性があるかどうかを……」
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「ボク、いつでも準備はできています。脱げと言われれば、今すぐ脱ぎますし……」
「いや、脱がなくていい! まだ脱ぐな! て言うか、脱ぐ必要すらあるか分からん……と、とにかく研究所からの回答を待て!」
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