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ホワイト騎士団で真面目に働く戦士のもとに、野営地から情報屋が様子を見に来ました
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王都の騎士団本部の薄暗い廊下を、戦士テオは重い足取りで歩いていた。
彼の顔には、先ほど騎士団長から直接告げられた特別任務の重み――というよりは、その内容のあまりの奇妙さに対する戸惑いが色濃く張り付いていた。
「あ、握手会、ですか?」
執務室での自分の間の抜けた声が、まだ耳の奥で反響している。
騎士団長は真顔でうなずいた。
「そうだ。新王女殿下自らのご発案だ。お前をその警備の責任者にする。人員の配置から当日の差配まで、すべてお前に任せる。抜かりなくやれ」
「……分かりました。承ります」
テオは深く一礼して退室してきた。王家の者が、自ら下々の民衆の輪の中に歩み入り、その汚れた手を取って言葉を交わすなど、アルカディア王国の長い歴史においても前代未聞の出来事である。当然、王城にいるより、暴漢や暗殺者の標的になるリスクは跳ね上がる。ともあれ、一度騎士団に残ると決めたからには、それがどのような性質の任務であれ、私情を挟まず粛々と命に従うのがテオの美学だった。たとえそれが「王女と民衆の握手を守る」という、騎士団の教本にすら載っていない任務だったとしても、彼に否やはなかった。
詰め所を出て、陽の光が降り注ぐ中庭のベンチに腰を下ろし、警備の配置図を広げようとしたその時だった。
「よお。真面目に働いてるみたいだな」
背後の建物の影から、ひょいと呑気な声がかかった。
「カイト!」
テオは思わず声を上げ、立ち上がった。そこには、魔王軍の野営地にいるはずの盗賊カイトが、いつの間にか厳重な警備の敷かれた王都の騎士団本部に潜り込み、以前と変わらぬ飄々とした態度で立っていた。
「どうしてここに?」
テオが周囲を警戒しながら小声で問うと、カイトは悪びれもせずに肩をすくめた。
「お前の顔を見に来たのさ。元気でやってるかと思ってな」
「……本当か?」
「ああ、本当だぜ。お前の細々とした『近況報告』はミーナさんに高く売れるからな。いい小遣い稼ぎになるんだよ」
テオは苦笑した。相変わらず金と情報にしか興味がないと言わんばかりの軽口だが、わざわざ危険な王都まで足を運んでくれた彼の不器用な気遣いが、テオには少し嬉しかった。
「変わらないな。……少し、安心したよ」
カイトは中庭の石積みの壁に背を預け、門の向こうから聞こえてくる、活気づく街の喧騒に目を向けた。
「俺は変わってないが、街は変わったな。歩いてる連中の顔が、どいつもこいつも明るいじゃねえか」
「……そうだね、いいことなんだろうな」
「誰にとっての『いいこと』かって話はあるだろうがな。前の王が好きな連中にとっちゃ――そんなのがいればの話だが――地獄だろうし。まあ一般的には、活気があって国が豊かなのは悪いことじゃねえ。……で、お前は今、そのしかめっ面で何をしてるんだ?」
「……守秘義務がある」
「別に、話せない機密を言えなんて野暮なことは言わないさ。話せる分だけでいい」
テオは少し迷ったが、すでに街で噂になっていることなら問題ないだろうと判断した。
「……王女殿下の握手会の、警備の準備だよ。詳細は言えないが」
「あー、やっぱりか。さっき酒場で街の噂になってたが、マジだったのか」
「ああ、マジだよ」
「……そいつは、かなりエキセントリックな王女だな。クーデター直後の、まだ火種が燻ってるかもしれない今の時期に、わざわざノーガードで民衆の中に飛び込もうなんてさ」
「恐れ多いよ、カイト。滅多なことを言うもんじゃない」
テオが眉をひそめてたしなめると、カイトは鼻で笑った。
「オレは騎士じゃないからな。権力者の顔色なんか気にせず、好きなことを言わせてもらうさ」
カイトが肩をすくめたその時、背後の宿舎が蜂の巣をつついたように、にわかに騒がしくなった。
「おい、本当か!?」
「殿下がこちらに向かわれていると!?」
「整列しろ! 早く! 襟の汚れを落とせ!」
騎士たちの怒号と、金属の鎧が擦れ合う慌ただしい足音が響き渡る。一人の騎士が、血相を変えてテオのもとに駆け込んできた。
「テオ! 警備責任者のテオはどこだ! 王女殿下が、日夜働く騎士団への謝意を示すために『お忍び』でこちらに到着された! すぐに玄関先まで来い!」
「……なっ!?」
テオは文字通り、その場でひっくり返りそうになった。
握手会の前に、まさか守るべき当人が自ら、男臭いむさ苦しい騎士団の詰め所などに、アポなしで乗り込んでくるとは。
「わ、分かった! 今行く!」
テオは慌てて鎧の乱れを直し、剣の帯を締め直すと、呆然としているカイトを壁の影に置いて、混乱の渦中へと全力で走り出した。
彼の顔には、先ほど騎士団長から直接告げられた特別任務の重み――というよりは、その内容のあまりの奇妙さに対する戸惑いが色濃く張り付いていた。
「あ、握手会、ですか?」
執務室での自分の間の抜けた声が、まだ耳の奥で反響している。
騎士団長は真顔でうなずいた。
「そうだ。新王女殿下自らのご発案だ。お前をその警備の責任者にする。人員の配置から当日の差配まで、すべてお前に任せる。抜かりなくやれ」
「……分かりました。承ります」
テオは深く一礼して退室してきた。王家の者が、自ら下々の民衆の輪の中に歩み入り、その汚れた手を取って言葉を交わすなど、アルカディア王国の長い歴史においても前代未聞の出来事である。当然、王城にいるより、暴漢や暗殺者の標的になるリスクは跳ね上がる。ともあれ、一度騎士団に残ると決めたからには、それがどのような性質の任務であれ、私情を挟まず粛々と命に従うのがテオの美学だった。たとえそれが「王女と民衆の握手を守る」という、騎士団の教本にすら載っていない任務だったとしても、彼に否やはなかった。
詰め所を出て、陽の光が降り注ぐ中庭のベンチに腰を下ろし、警備の配置図を広げようとしたその時だった。
「よお。真面目に働いてるみたいだな」
背後の建物の影から、ひょいと呑気な声がかかった。
「カイト!」
テオは思わず声を上げ、立ち上がった。そこには、魔王軍の野営地にいるはずの盗賊カイトが、いつの間にか厳重な警備の敷かれた王都の騎士団本部に潜り込み、以前と変わらぬ飄々とした態度で立っていた。
「どうしてここに?」
テオが周囲を警戒しながら小声で問うと、カイトは悪びれもせずに肩をすくめた。
「お前の顔を見に来たのさ。元気でやってるかと思ってな」
「……本当か?」
「ああ、本当だぜ。お前の細々とした『近況報告』はミーナさんに高く売れるからな。いい小遣い稼ぎになるんだよ」
テオは苦笑した。相変わらず金と情報にしか興味がないと言わんばかりの軽口だが、わざわざ危険な王都まで足を運んでくれた彼の不器用な気遣いが、テオには少し嬉しかった。
「変わらないな。……少し、安心したよ」
カイトは中庭の石積みの壁に背を預け、門の向こうから聞こえてくる、活気づく街の喧騒に目を向けた。
「俺は変わってないが、街は変わったな。歩いてる連中の顔が、どいつもこいつも明るいじゃねえか」
「……そうだね、いいことなんだろうな」
「誰にとっての『いいこと』かって話はあるだろうがな。前の王が好きな連中にとっちゃ――そんなのがいればの話だが――地獄だろうし。まあ一般的には、活気があって国が豊かなのは悪いことじゃねえ。……で、お前は今、そのしかめっ面で何をしてるんだ?」
「……守秘義務がある」
「別に、話せない機密を言えなんて野暮なことは言わないさ。話せる分だけでいい」
テオは少し迷ったが、すでに街で噂になっていることなら問題ないだろうと判断した。
「……王女殿下の握手会の、警備の準備だよ。詳細は言えないが」
「あー、やっぱりか。さっき酒場で街の噂になってたが、マジだったのか」
「ああ、マジだよ」
「……そいつは、かなりエキセントリックな王女だな。クーデター直後の、まだ火種が燻ってるかもしれない今の時期に、わざわざノーガードで民衆の中に飛び込もうなんてさ」
「恐れ多いよ、カイト。滅多なことを言うもんじゃない」
テオが眉をひそめてたしなめると、カイトは鼻で笑った。
「オレは騎士じゃないからな。権力者の顔色なんか気にせず、好きなことを言わせてもらうさ」
カイトが肩をすくめたその時、背後の宿舎が蜂の巣をつついたように、にわかに騒がしくなった。
「おい、本当か!?」
「殿下がこちらに向かわれていると!?」
「整列しろ! 早く! 襟の汚れを落とせ!」
騎士たちの怒号と、金属の鎧が擦れ合う慌ただしい足音が響き渡る。一人の騎士が、血相を変えてテオのもとに駆け込んできた。
「テオ! 警備責任者のテオはどこだ! 王女殿下が、日夜働く騎士団への謝意を示すために『お忍び』でこちらに到着された! すぐに玄関先まで来い!」
「……なっ!?」
テオは文字通り、その場でひっくり返りそうになった。
握手会の前に、まさか守るべき当人が自ら、男臭いむさ苦しい騎士団の詰め所などに、アポなしで乗り込んでくるとは。
「わ、分かった! 今行く!」
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