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第1章

13.森をぬけて街へ

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 洞窟を出て10分ほど歩いた。そういえばどのくらいで着くのか聞いていなかったと思いハクに聞くと、
 『そういえば言ってなかったのぅ。もうそろそろ着くぞ?』
 と答えたが、周りは草むらや木々が生い茂るばかりで、一向に森を抜ける気配がしない。

 「本当にこの道で合ってるのか?」
 『むっ!我はまだそんなに忘れっぽくなっておらぬわ!……ほれ、見えてきたじゃろ?』
 「なにが?」
 『じゃ!』

 そう言われて見えてきたのは太い幹の。え?だからなに?街へ行くんじゃないのか?
 俺の顔にそう書かれているのが見えたのか、ハクが説明を続ける。

 『バカ正直に歩くと街まで5日はかかる。我が元の姿で走っても1日はかかるし、何より疲れるのでな。じゃからこの木を街の近くの木と繋げたのじゃ。じゃよ!』
 「そんなことまで出来るのか!?凄いな。」
 俺はまさかハクがここまでの魔法を使えるとは思っていなかったので、本当に驚いた。

 そんな俺を見てハクは、
 『そうじゃろ?我、凄いじゃろ?もっと褒めたたえてくれてもよいのじゃぞ?』と調子に乗り出した。
 
 俺はハクの言葉をスルーして、「いや、今日中に買い物終わらせたいし早く行こう。」と言うと、

 『冷たい!こんなに対する反応かの?』
 そう言ってハクはまるで俺が悪者みたいに訴えてきた。何だこの茶番は?適当に流すか…。

 「わー、ハクさんすごーい。ヨッ、世界一のフェンリル。」(棒読み)
 『お主、師匠をバカにしすぎではないか!?』
 「ソンナコトナイヨー。」
 『なんじゃその話し方は!』
 「ちゃんと尊敬してますよー」(棒読み)
 『その目は絶対しておらぬじゃろ!』…………

 などと繰り返し、俺達が先に進んだのはもう少し後になるのであった。



 『はぁはぁ…。もうよいわ!ほれ、行くぞ!』
 そう言ってハクは大木に手をかざすと幹が光りだした。少し光が収まると、向こうの見えない水溜まりのようなものが浮かび上がっている。ハクは慣れた様子でそこに入っていった。少し怖さもあったが俺も意を決して後を追った。

 不思議な膜を通ったと思ったら、眩しい光に照らされて俺は反射的に目をつぶった。その光になれてきて目を開けると、そこには別世界が広がっていた。

 目の前にはキラキラと太陽が反射する大きな湖と、色とりどりの花が咲く花畑。野生の動物もチラホラと見える。周りは木々に囲まれており、鳥の鳴き声も聞こえている。後ろを振り返ると、入った時と同じくらいおおきな木。もう俺が通ってきた膜は消えている。

 『どうじゃ、初めて瞬間移動した感想は?一瞬じゃったろ?』
 「あぁ、あまりに一瞬で驚いてる。本当に長距離を移動したのかと思うほどに。でも、俺達がいた森とは空気や動物の種類が違うし全く別の場所だとわかるよ。」
 『酔ったりはしておらぬか?たまにそういう奴もおるでな。』
 「俺は大丈夫だ。」
 『そうか、ならば街へ進もうかの♪』

 そう言ってハクは足どり軽く、街がある方へ森を抜けて行くのだった。
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