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はらぺこデパート
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とある都市の場末の一角に、「はらぺこデパート」と呼ばれるデパートがありました。
そこには貧乏でその日の食べ物すら確保の難しい人が集まっていて、地下の食材コーナーはどれも安価なものばかりで、まるで百均のようなところです。
不思議なことにそこの食べ物を買って食べると元気と勇気がひとつずつ増えていき、出来ることがひとつずつ増えていきます。
しかも不思議なことに、一番安い2つ入りのビスケットを一つポケットに入れて、ポンと一度叩くと持っていた支払った額の丁度倍のお金が増えるという現象が起きるという話。
そんなある日の事、その噂話を聞きつけた、暮楽 実<くらく みのる>がそのデパートの地下1Fへとやってきました。
そして、一番安価なビスケットを一袋手に取ると清算をしようとレジへ向かうものの、勝手の知らない実がきょろきょろと辺りを見渡していると、店員と思しき女性が一人。
卵色地に橙色が縁どられ、デパートのロゴが入ったエプロンをしていて、実の目には如何にもやる気に満ちた店員で、まるで「困った人は絶対に助けなければ」と目が燃えてさえ映っていた。
だが、実は困った事にレジを訊く言葉を持っていなかった。「はい」と「いいえ」しか話すことができず途方に暮れていると、二人は不意に目が遇った。実はと言うと、赤字に白い十字とハートの描かれたお守りをぎゅっと握りしめて、まるで念を送るかのようにじっと見つめるしか出来ないもどかしさをぎゅっと噛みしめるほかに出来ることはなかったのだ。
すると、女性店員と思しき人はキラキラとした眩い笑顔を向けて、「何かお困りですか?」と話しかけてきた。
それに対して当の実はというと、口をパクパクとさせて、まるで打ち上げられて最期の息を吸う魚のようで、首を縦に振るしか出来なかった。
「そちらをお買い上げでしょうか?」
ニコニコを通り越してキラキラとした笑顔を浮かべる彼女はまるで本物の天使のようで、女神様と話しているような緊張を覚えたものの、勇気を出して「はい」という言葉を絞りだすと、レジへと案内してもらい、無事に入手することが叶った。
それからというもの、実は足取り軽く、一階二階と順調に登っていき、ついにデパートを出る日が訪れた。
このデパートは基本的に最後は地下1階の食材コーナーで最後の買い物にお弁当を一人ひとつ買うことが叶うと、二度とその敷地を跨いではならないという暗黙の了解が存在し、実もまたそれは例外ではなく。
実はきょろきょろと辺りを見渡して彼女を探した。しかし、どれだけ探してもその姿はなく、勇気を振り絞って他の店員に話しかけると、つい昨日、退職していったのよねと返ってきた。
実はというと、意気消沈したままお弁当をひとつ選び、外へ出ると、向かい側のベンチに例の彼女が座っていたのだ。
「お待ちしておりました」
彼女がそう口火を切ると、実は涙ぐみ、「あの……お名前を伺っても?」と話しかけると、「ええ、佐藤 美咲<さとう みさき>と言います。
美咲曰く、社内のルールとして店員と客の立場のままだと連絡先の交換ややり取りをしてはいけないというものがあるらしく、それでちょうど実が外に出るのを見計らって退職届を出したのだとか。
しかも彼と必ず会いたいが為に開店の一時間も前からベンチに座って待っていたらしい。
「少し寒くありませんか?」
どもったり首を振るのが精一杯だった過去を鑑みると面白いほどするすると言葉が出るようになっていて、我が事ながらに驚いていると、美咲は口を開いて、「私、この公園の穴場スポットを知っているんです。よかったらそこでゆっくりとお話ししながらお花見でもしませんか?」
聞くところによると、日当たりが良く入店した時の凍えるような寒さなど嘘のように晴れているのだとか。
二人は自然と歩調を合わせ、その穴場へと向かっていった。
<終>
そこには貧乏でその日の食べ物すら確保の難しい人が集まっていて、地下の食材コーナーはどれも安価なものばかりで、まるで百均のようなところです。
不思議なことにそこの食べ物を買って食べると元気と勇気がひとつずつ増えていき、出来ることがひとつずつ増えていきます。
しかも不思議なことに、一番安い2つ入りのビスケットを一つポケットに入れて、ポンと一度叩くと持っていた支払った額の丁度倍のお金が増えるという現象が起きるという話。
そんなある日の事、その噂話を聞きつけた、暮楽 実<くらく みのる>がそのデパートの地下1Fへとやってきました。
そして、一番安価なビスケットを一袋手に取ると清算をしようとレジへ向かうものの、勝手の知らない実がきょろきょろと辺りを見渡していると、店員と思しき女性が一人。
卵色地に橙色が縁どられ、デパートのロゴが入ったエプロンをしていて、実の目には如何にもやる気に満ちた店員で、まるで「困った人は絶対に助けなければ」と目が燃えてさえ映っていた。
だが、実は困った事にレジを訊く言葉を持っていなかった。「はい」と「いいえ」しか話すことができず途方に暮れていると、二人は不意に目が遇った。実はと言うと、赤字に白い十字とハートの描かれたお守りをぎゅっと握りしめて、まるで念を送るかのようにじっと見つめるしか出来ないもどかしさをぎゅっと噛みしめるほかに出来ることはなかったのだ。
すると、女性店員と思しき人はキラキラとした眩い笑顔を向けて、「何かお困りですか?」と話しかけてきた。
それに対して当の実はというと、口をパクパクとさせて、まるで打ち上げられて最期の息を吸う魚のようで、首を縦に振るしか出来なかった。
「そちらをお買い上げでしょうか?」
ニコニコを通り越してキラキラとした笑顔を浮かべる彼女はまるで本物の天使のようで、女神様と話しているような緊張を覚えたものの、勇気を出して「はい」という言葉を絞りだすと、レジへと案内してもらい、無事に入手することが叶った。
それからというもの、実は足取り軽く、一階二階と順調に登っていき、ついにデパートを出る日が訪れた。
このデパートは基本的に最後は地下1階の食材コーナーで最後の買い物にお弁当を一人ひとつ買うことが叶うと、二度とその敷地を跨いではならないという暗黙の了解が存在し、実もまたそれは例外ではなく。
実はきょろきょろと辺りを見渡して彼女を探した。しかし、どれだけ探してもその姿はなく、勇気を振り絞って他の店員に話しかけると、つい昨日、退職していったのよねと返ってきた。
実はというと、意気消沈したままお弁当をひとつ選び、外へ出ると、向かい側のベンチに例の彼女が座っていたのだ。
「お待ちしておりました」
彼女がそう口火を切ると、実は涙ぐみ、「あの……お名前を伺っても?」と話しかけると、「ええ、佐藤 美咲<さとう みさき>と言います。
美咲曰く、社内のルールとして店員と客の立場のままだと連絡先の交換ややり取りをしてはいけないというものがあるらしく、それでちょうど実が外に出るのを見計らって退職届を出したのだとか。
しかも彼と必ず会いたいが為に開店の一時間も前からベンチに座って待っていたらしい。
「少し寒くありませんか?」
どもったり首を振るのが精一杯だった過去を鑑みると面白いほどするすると言葉が出るようになっていて、我が事ながらに驚いていると、美咲は口を開いて、「私、この公園の穴場スポットを知っているんです。よかったらそこでゆっくりとお話ししながらお花見でもしませんか?」
聞くところによると、日当たりが良く入店した時の凍えるような寒さなど嘘のように晴れているのだとか。
二人は自然と歩調を合わせ、その穴場へと向かっていった。
<終>
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