王子様、お守りいたします~悪役令嬢は暗部に入ることにした

猫田あや

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11.目覚めと報告会と恥ずかしさと

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ふわふわだ。

目覚めると、いつものちょっと固めのベッドにいないことに気が付いた私は、一瞬実家にいるのかと思った。豪華な天蓋つきでボリュームたっぷりなふかふかのベッドに横たわっていたから。だけど「おじょーーーうざまぁあぁぁ」と、涙と鼻水で顔がぐちゃぐちゃ状態のエリーが、首にかじりついてきたので思い出した。私たち、襲撃されたんだっけ。

「エリー、ケガはない?」いつものようにべりッと彼女を剥がし、確認する。見たところ無傷だけれど、念のためだ。

「私は平気です!お嬢様の職場の上司という侯爵様が、たまたま通りかかって助けてくださったんですよぅ。」とエリーが言う。ということはここはベルナー部長の家。

なるほど、そういうことになっているのか。国史編纂部の部長が、警備隊と一緒なのかをどうごまかしたのか気にはなるが、まあそれはいいとして。

「エリー、あなたのおかげで助かったわ!命の恩人ね。」私はそのまま彼女の両手を握りしめて感謝した。
あの強烈なエリーの一撃が無ければ、私は今頃、暗部の霊暗所で冷たくなっていたことだろう。つくづく自分の未熟さが嫌になる。確かに私の魔力は強いし、体術もそれなりに心得がある。でも結局は現場での判断力と、アドリブ力がないと生き残れないのだ。今回は自分の索敵への過信と、思い切って物理的に強力な魔法を使わなかったことが仇になるところだった。

ただ、「い゙ぃいえ、私がつけられていたばっかりにおじょう゛ざまがこんなめにぃいい。」と彼女の涙は止まらない。なんとかなだめてさすって、エリーが落ち着いたころ合いに「エリー嬢、すまないが私は上司としてカレン嬢に話を聞かないといけないんだ、2人きりにしてくれるかい?」あそこは借り上げ寮だったもんでね、と部長が言った。

「ええ、命の恩人のベルナー侯爵になら安心してお嬢様を預けられますわ!」とエリー。一礼して下がる時に私にウインクしていたけれど、なんか勘違いしていない?確かにベルナー部長はイケメンだけど、ただの上司だよ?

部屋を下がるエリーを見送って、私は改めて彼に向き合った。
「ベルナー部長。ご迷惑おかけして申し訳ありません。」私はベッドの上ではあるが座りなおして謝罪した。
「君が謝る必要はない。疲れているだろうが、すまない。少しでも情報が欲しいんだ。」とベルナー部長が申し訳なさそうに前置きして、今回の襲撃の報告会と相成った。

「君の家、というか元・家と言ったほうが良いかな、にいた襲撃者3名は捕まえた。人数はあっているか?」
「はい。岩撃砲での攻撃の後、2名が侵入し無事倒したのですが、時間差でもう1人入ってきたようで…おそらく、砲撃手だったんだと思います。」
「ここ最近誰かにつけられているような気配はあったか?」
「いえ特には……。それにいつも王宮から帰る時は、転移陣も5か所ランダム利用するようにしていましたし、任務での私と、王宮の国史編纂部の女性という私がイコールだとわかる人はいないはずです。」
「きっちり帰宅ルールを守っているようだな。それに君は…俺の記憶が正しければ暗殺任務についたことはなかったな。」
「はい。国内での護衛任務か、王家に反意を持ちそうな家の監視などの諜報任務がメインです。」あと、時々動物探しも…と付け加えた。

「どれも襲われるほどの恨みは買っていなさそうだ。暗部での任務関係で狙われたのでないとすると、君の本国での話が関わってきそうだが。」
「実家がらみではないと思います。国外追放されて、聖トロジーナ国内では勘当されていると噂になっていますから。ギュスターブ公爵家を追い落とすために私を使おうという気になるものはいないかと。」
「君の本国でのトラブルだが…恨みに思っていそうな令息バカ達はそれぞれ自分自身のことが大変で、君に刺客をよこすような余裕はないはずだ。」正式に部入りする前に調査したからね、とベルナー部長。

これからの尋問に期待、といったところだろうか。
(あ、そういえば)
「ベルナー部長。私、後ろから襲われてどうにもならなくて、闇魔法を使おうとしたんです。」
「ああ、君も闇魔法使いだったな。」と長い足を組みなおして身を乗り出す彼。

この世界には光・闇・火・水・風・土の6種類の属性の魔法がある。使える魔法の種類も数も人によってまちまちだけれど、どの国でも高位貴族であるほどその強さも使える種類も多くなる傾向にある。ちなみに光が最も希少で(この国では使える人間はいないし、聖トロジーナではあの性悪ピンク頭だけが光魔法の素質を持っていることになっている)ついで闇、逆に土が一番身近な魔法になっている。人間と農業は切っても切り離せないから、理にかなっているとも言えるよね。

「はい…私を絞め殺そうとしていたヤツは、どうやら誰かから闇魔法で洗脳を受けていたようでして…」とあの真っ暗な頭の中に響く「女神様」の言葉の件を部長に伝えた。
「なるほど…実は先日ミシェル殿下と君たちを襲ってきた男たちも同じような状態で、解呪しようとしたところ2人とも自害してしまったんだ。」と衝撃の事実を口にした。あの小麦粉まみれ殿下のときのか。
「この国で闇魔法が使えるのはうち、ベルナー家とその分家筋だけだ。しかも洗脳ともなると、歴代のベルナー家当主くらいなものだろう。」
「私の国でも闇魔法の使い手はいますが私を含めて数人程度です。洗脳はやったことがありませんが、おそらくできるのは私くらいだと思います。」記憶や考えをのぞく程度ならまだしも、洗脳と言うとものすごい魔力がいるはずだ。自分の力を誇示したくはないけれど、事実だから仕方がない。
「あとは考えたくはないが、ヴェリウス帝国の皇帝の血筋も闇魔法を使うと言われている。今回の襲撃の件にしろ、ミシェル殿下の件にしろ関わっているとなると相当厄介なことになる。」と青蘭の髪をかきあげ、こめかみをヒクヒクさせながらベルナー部長が言った。

「ただ…人身売買組織の件が帝国がらみであるにしろ、ミシェル殿下はまだしも私が襲われた動機がよくわからないんです。もし暗部として護衛しているのがバレていたとしても、私を狙う必要はないはず。だって私を排除したとしても、結局別の暗部の人間が護衛に着きますし、さらに警備自体も強化されて余計に本丸である殿下を狙いにくくなりますよね。」と私は疑問を口にする。
「その護衛の交代が狙いなら?自分の部内の人間を疑うのは辛いが、内通者がいてそいつが護衛任務を隠れ蓑に、殿下を亡き者にしたいのなら辻褄はあう。」と部長が言う。

暗部は家族だ。暗部の部員というだけで私たちはお互いに全幅の信頼を置いている。決まった相棒は持たないので、その都度組む人間は変わるのだけれど、自分の命を預けるのだ。信用していないとやってられない。国内での活動がメインの私でさえもそうなのだから、それこそユリウスさんみたいに国外での暗殺や諜報など危険度の高い任務に就いている人はもっとだろう。暗部に入る人間はベルナー部長直々に身辺調査をやることになっているから、彼は二重の意味で辛いはず。

「そこらへんも含めてこのまま調査するつもりなんだが…実は君をどうするか迷っているんだ。」「今回のことだけなら、俺は君をはずして別の人間をいれ、君はこの家で保護するだろう。ただ内通者の可能性が出てきた以上、交代は危険だ。君にはこのまま任務を続けてもらうのがベストなんだ。」と痛ましそうにベルナー部長が続ける。
「いえ、このまま続けさせてくださいとお願いしたかったんです。私も途中参加とは言え、あの組織をつぶしたい気持ちはみんなと同じくらいあります。ミシェル殿下をお守りしつつ、どうにか糸口がつかめるよう頑張るので…」と私。もう絶対に油断しない。

「いや、君がやる気を失っていなくて良かったよ。とりあえず今日はもう休みなさい。明日からのことはまた、明朝説明するから。」とベルナー部長が立ち上がり私の頭をポンポンと優しくたたいた。
「はい、お気遣いありがとうございます。」と私。そのまま立ち上がり部屋を出ていく彼を見送る方になるはずだったのだけど。


「そうだ…言いにくいのだが言ってほいたほうが良いだろう…。君が今着ているのはうちの姉が嫁ぐ前に来ていたワンピースなんだが…」とくるっと振り向いた彼が話し始めた。なぜだか顔が真っ赤だ。
「もちろん着替えは君のメイドのエリー嬢がやったんだ。ただ救出に俺が飛び込んだ時君は…その………」と言いづらそう。どうしたのだろう?
「……君は非常に薄着というか丈の短いズボンを身に着けていたから、見てしまったんだ。」君の足を、と彼。

(そうだこの世界では女性の服装はロングのドレスやワンピースが主流で、それこそ足なんてベッドの中でしか見せないようなもんだった!)
別に私自身は足なんてどうでもいいんだけれど、彼が真っ赤になってしどろもどろになっているのを見ると、こちらも恥ずかしさがこみあげてきて、思わず私は顔を両手で覆った。

「いや、大丈夫だ!ベルナー家の秘術で俺の記憶を消してしまえば問題ないっ!」とうつむいてしまった私を見て、慌てて部長が言う。
「私の足ごときでそんなこと部長にさせられませんよ!」ていうか秘術なんて自分に使うな、危ない。
「だったら責任を取って…このまま俺と結婚…」となんだか語尾が消えていくようにもごもご言う彼に「大丈夫ですから!ほんっとに大丈夫ですから!」と私は畳みかけた。そんな足見ちゃったくらいで私と結婚するなんて、ベルナー部長の将来がめちゃくちゃになってしまう。

結局精一杯説得して、退室してもらったころには襲われた時と同じくらいぐったりしてしまった。もう今日は寝てしまおう。
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