悪夢から、目覚めさせて。

あきすと

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⑤それ、猫の…

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首元が、ノーネクタイの佐加野さんが気になる。
これからの季節は、特に何も言われないだろうけど。
ウチの職場は、まだ服装に関しては緩い方だ。

社風も、若い年代層が増えてきたため
少しずつではあるが変わって行っている。

歓迎会は、来月の週末に行われる事になった。
何故か幹事が俺をアテにしているみたいで
連絡係をさせられている。

『歓迎会、ですか…。私はあまりそういう場は…』
休憩時間中に、佐加野さんに口頭で歓迎会の事を
伝える。
なぜか、表情を曇らせて困り顔になってしまう。

「もしかして、メンドクサイです?そういう場って。」
自販機を前にして、ベンチに座り脚を投げ出して座っていると
『めんどくさい、と言うよりかは…自分の為に人を集めるって言うのが、どうにもね。』
佐加野さんは隣に座る俺に、少し同意を求める様に
首を傾ぐ。

あー、まぁ。いいたい事は理解できるかな。
俺も、そういう感覚だし?
どちらかと言えば。

「一人が、好きですか?佐加野さんって」
『私は、猫と暮らしてます。今はそれだけで…充分幸せなんです。』
「猫かぁ…、猫は抜け出せない沼らしいですね。」
『実家でも飼ってたんですが、私がコッチに来る事になって…駄目でした、寂しすぎて。』

寂しい、か。俺も少し前までは
四六時中寂しくて…気が狂いそうだったことを
今でも忘れていない。

「じゃ、あんまり家を空けたくないってトコですかね?」
『はい。まだ…家に来て間もないですから。でも、少しくらいは顔を出してから』
「完全に行かないのは、ちょっとアレなんで…一応、事情を話してコンパクトな時間で切り上げるってのも、アリだと思いますよ。」

待っている存在があるって、人にとってかなり大きなコトだと思う。
『有難うございます。その、ものすごく情けない話ですけど…私から幹事さんに伝えておきます。』
「そうですね~…うん。佐加野さんが正直に伝えれば、きっと解ってくれると思います。」

冷たそうな雰囲気を持っている、と俺は心のどこかで
佐加野さんをそう思っていたけれど。

むしろ、優し気な一面を見れた気がしてホッとした。

『猫ちゃん、やっと少し安心して眠れるようになって来たので…側に居てあげたいんです。』
「どんな猫なんですか?写真、よかったら見せてください。」
俺の言葉に、嬉しそうに笑って頷くと佐加野さんはネックストラップを
手に携えてスマホの画面を操作する。

『こんな、猫ちゃんです。』
「…おわぁ、タキシード猫だ。かっわいい…」
『あ、猫通ですね?そうなんですよ。とっても可愛くて可愛くて…毎日が楽しくて』
イイ大人の無邪気な笑顔を目の当たりにして、俺は心が揺れた。

この人、本当に櫂と似てるなぁ。
熱くなって好きな話をする時とか、心底楽しそうで
好きの熱量がこっちにまで伝わって来る。

あんまり、俺の心にまで波紋を広げさせないでほしい。
これからも、毎日に近い頻度で会うってのに。

「佐加野さん、下の名前って…」
『喜八です。』
「…ぇ、なんか渋い名前ですね?」
『雄ですからね~、カッコいいのにしました。』

んん…?なんか会話がかみ合ってないぞ。

「あ、えーっと、猫じゃなくって。貴方の…名前の方です…っ、」
ぶはっ、とコーヒーを吹き出しかける。
だって、佐加野さんってばめっちゃ赤面してるんだもんなぁ。

『っは、…えっと…里久です。スミマセン。』
ちょっと、とっつきにくいのかと思えば全然そんな事無くて。
俺は、この先改めて佐加野さんと仕事をするのかと
思うと少しだけ気持ちが明るくなった気がした。
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