くちどけは ほの甘く、時に苦く

あきすと

文字の大きさ
4 / 7

好事家

しおりを挟む
ごく普通の日常を壊す存在。それが、粕谷だった。
見ないフリをしながら、ずっと気に掛けて
聞こえないと思い込みながら、粕谷の声だけを聴いていた気がする。

毎日が、心とは正反対の事をしなければいけなかった。
グレーのカーディガンをシャツの上に着た粕谷は、学年の中でも
よく目立つ生徒だった。
何しろ、明るい。だいたい笑顔で居る。
他の教師からもウケがいい。
成績もそこそこという、何かしら行動力もあり女子にも男子にも
よく囲まれている、ごくフツウに見える子だった。

だが、一つだけおかしなところと言えば
『舘野ン…♪何か手伝う事ある?』
と、気軽に職員室に顔を出しては俺にこんな事を聞いてくる。
おかしい、と言うよりかは目に感情を隠さずに出してくるところ。

『舘野ン、ぇ、先生って呼んでなかった?おかしいな~』
一日に、一度は、俺にわざわざ会いに来る。
副担任だから、これといった用事も無いだろうに。
「粕谷くん。そろそろ、テスト問題を作る期間に入るから…本当に
用事がある時だけ、ここに来るようにしてもらえるかな?」

極力、嫌われない言い方を探しながら、やんわりと注意をした。
この子は繊細だから、傷つけないように特に気を使う。

『来ちゃ迷惑…?』
今まで、イキイキしていた瞳が瞬時に暗くなる。
「そんな事、ないです。ただ、私も問題作成をそろそろ始める時期なので」
『俺、別に…スパイしに来てるんじゃないのに』
「あ、…当たり前です!私は、粕谷くんの事、信じてますから。ただ、その…作りにくいなーってだけで。」
『分かりました。じゃ、いつからだったら、来ても良いですか?』
「テスト期間が、終わったらです。」

『無理!そんなに待てない…』
「ちょ、粕谷くん、声が大きいですから」

その日以来、俺は放課後に教室でいつまでも帰らない粕谷を見かける様になった。


「意地らしかったなぁ…、本当。」
『頭の中ではどんな風に思ってたの?』
粕谷を家まで送る、車の中で俺はまた過去の思い出にとらわれる。
助手席の粕谷は、俺の脚に何故か右手を置いているのが
気になるが…。
「手出さないように…ってのは冗談で。こんなに想われる事って、あるのかなぁって漠然と…」
『遠回りしたけど、俺は今すごーく嬉しい。長年の誤解?が解けた感じで。』

粕谷は、祖父母の家に顔を出すらしく。
そういえば、ご両親の親はまだご健在なのか…と少し安堵した。
『俺さ、もう少しであの家に行かなきゃいけなくなるトコだったんだ。』
初耳だった、当たり前だけど。
「賢明な判断だと思う。」
『でも、もう成人したからね。たまには顔を見せに行くけど。』
「そうして上げた方がいい。心配されてるだろうから。」
『でも、もう子供じゃないし…何でも自分で決めれる。責任だって…』
粕谷の指先はうっすらと冷たかった。

家から20分程離れた静かな住宅街の中に、粕谷の借りている物件がある。
「どちらにせよ、考えてみてくれ。」
駐車場に車を停車させて、粕谷の右手をそっとはがした。
『うん。』
「大丈夫か?さっきから何に緊張してるんだ。」
『あれ?分かっちゃうんだね…耀司っ、俺こわいよ…』
シートベルトを外した粕谷が俺に抱き着いてきた。
訳も分からず、抱き留めて背中を撫でる。
「何でだよ、お前の祖父母だろ?」
『耀司は、知らないから…そんな事言うんだよ。はぁ~ん、ヤダ!行きたくない!』

「行って来なさい。」
『無理!』
「行け…」
『…ちゅーしてくれたら頑張れるかも♡』
「はぁ…?」
『出来ない?やっぱり恥ずかしい?』
顔を覗き込む粕谷の瞳は、やっぱり楽しそうに見える。
「こんな所では絶対にしない。」
言い切ると、粕谷は俺から離れて助手席を降りた。
『さっさと終わらせてくる。待っててね、耀司~♡』
窓越しに、身をかがめて手を振る粕谷は
やっぱりアホみたいに可愛かった。

にしても、何と言うか大げさな気がした。
育ちが良いのでは?という噂も実は聞いた事があり
粕谷の祖父母が、好事家かもしれないと聞いた時には
何となく、見えない隔たりを感じたものだった。

もしかしたら、しばらく会えないかもしれない。
そんな予感さえ感じていた。
が、その日の夜俺は真夜中に掛かって来た粕谷からの
おかしな電話で目を覚ました。

『耀司~、起きてる?』
「お前…こんな夜中に何だよ。」
『やっぱり、信用できなかった!!俺に、急にお見合いしろとか言い出すし、髪なんて切られそうに
なって…』
「……マジで?」
『マジでしかないよ~、明日の朝逃げるつもりだから。その後…耀司の家に行っても良い?』
俺は、別に構わないけど。根本の解決には、ならないんじゃ?
「落ち着け、夜は寝ろ。大丈夫だから。」
『俺一人なのに、落ち着くわけないよ~』
「じゃ、お前が寝れるまで電話は繋いでおくから。」
『ん…、ありがとう。やっぱり耀司は優しいんだよね~♡』

「はいはい…。」
横になりながら、粕谷の声を聞いて。昨日は、もっと意識のある内に
話をしておけばよかったと思う。
『ねぇ、耀司…俺、耀司に名前呼ばれたいなぁ、』
少し鼻にかかる、甘ったれた声が妙に鼓動を早くさせる。

「千都…、もう寝なさい。」
『ぁ、ちょっと先生に戻るのは…ダメ…っ、びっくりしちゃうでしょ?』
「俺は、そんな気なしで言ってるのに。」
『千都、ほら…目つむって…』
「……!!ぇっちすぎない?」
段々と笑えなくなってきた。
『耀司の家に、居たかったなぁ』
「また、いつでも来たらいい。」

今、隣に粕谷が居たら…と思うだけでも心は急に狭くなった気がした。
『眠れないもん…こんなのじゃ、』
「こんなの?何が」
『だってぇ…、耀司が優しくするから…ぅぅっ、』
泣き始めたらしく、哀しい声が聞こえる。

哀しい…?本当に、だろうか。
「千都、もしかして…」
『ぅん。なぁに?』
まさかとは思うけど…
「…慰めてる?」

何を、とか何処をは言わずとも分かるだろう。
『ぇ~…何で分かるの?』
「声が上擦ってるからな…。シーツ汚すなよ?」
『汚さないよ~…だって、まだ触ってないし。』
まだ、とは…?
「じゃ、どうしてそんな声になってるんだよ。」
『~胸の方が、好きだから…っ、見てみたい?』

心の準備が出来てないにも程がある。
「映像じゃな…、」
『耀司のそういうトコすき…♡でも、こうしてると、嫌な事とか考えないもん。』
まぁ、それはそうだろうな。
「今度、来た時隣で見てるから」
『変態、ヤメテ~』
どっちが変態かいい勝負だろうに。
「…千都、それ気持ちいい?」
『ぅん♡名前、もっと呼んで…耀司』


しばらく、沈黙が続いた。予測するに多分満足して
寝落ちたのか。
粕谷は良いだろうけど。
「俺が、今度は眠れなくなったんだけど…。」
スマホを終話して、サイドテーブルに置き布団を被って寝る。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

熱のせい

yoyo
BL
体調不良で漏らしてしまう、サラリーマンカップルの話です。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。 漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。 陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。 漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。 漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。 養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。 陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。 漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。 仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。 沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。 日本の漁師の多くがこの形態なのだ。 沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。 遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。 内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。 漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。 出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。 休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。 個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。 漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。 専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。 資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。 漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。 食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。 地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。 この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。 もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。 翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。 この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

ある少年の体調不良について

雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。 BLもしくはブロマンス小説。 体調不良描写があります。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

処理中です...