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夏に向かって、帰るんだ。

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真っ白い葉書の裏面に、書いてあったのは
「卒業した小学校名…」
たったそれだけ。

幼馴染が伝えたかった事は、何なのか分からない。
分からないから、知りたくなる。
きっと、地元の甘夏を使って悪戯心に
葉書を書いたのだろう。

甘夏のしぼり汁を、皿に。
筆に含ませ、真っ白い紙にしたため
乾かせる。

田舎に帰るまでの決心はついたものの、
土日は休みではない仕事の為に、もし帰るのであれば
平日になってしまう。
一人で行動する分には、気楽だが
休みを合わせなければ、と思うと既に気持ちが
億劫でしかなかった。

我ながら、自分勝手だと思う。
ベットに横になって、携帯をいじっていると
幼馴染の連絡先すら知らない事に、愕然とした。

そもそも、葉書が来るほどなんだから。

もうお互いがいい年なのに
幼馴染は、結婚してないのだろうか?
いや、案外と早くにしてるかな。

そんな話があったなら、ウチの親も何かしら
言って来ただろうに。
一切ない、という事は。

「一人は、お互い様?」

子供の頃は、手を伸ばせばすぐ側に在ったのに
今は、どこまでも遠い存在になってしまった。
少しだけ、悪戯な笑顔。

僕の中での幼馴染は、まだ高校生で止まってる。
ゴツゴツした手のひら、
手を繋いだ時、何の違和感も無くて驚いた。
むしろ、しっくりと来て。
手のひらが指の先から、触れ合う事を
待っていた風にさえ思った。

僕は、いつまででも過去の幼馴染とのやり取りや
思い出に、浸りながら眠りに就いた。




次の出勤時には、自分でも思ってもみない発言をしてしまい
僕は、申し訳ない気持ちを抱きながらも
夏休みを取得することが出来た。

お店への貢献があったからだと、言われ
僕は確かに、ただ毎日を無感情に仕事だけに
暮らしていたからだと、ハッとした。


ただ、田舎に帰るだけなのに。
僕の心はいつになく、軽やかで、晴れている。

楽しみに思っている。
夏のせいだからだろうか?
それとも、あの

幼馴染に会えるから、なのか。
仕事から帰ったら、早々に荷造りをしよう。
自然と、笑顔になっていた。

少しは、お土産を持って行った方がいいだろう。
駅の土産店に寄って、あれこれ見繕うだけで
時間は簡単に流れていく。

切符の手配、そうだ。
鈍行にも久しぶりに乗りたいな。
車窓から見渡す限りの、蜜柑畑。

おじぎをし始めた、稲穂。
気の早い、シオカラトンボが青空を
自由に飛び交う風景。

穏やかな、波音に照り付ける太陽。

僕は、昔からそばかすがあって。
幼馴染が、いつも麦わら帽子を被る姿を
何故か好きでいてくれた事ばかり
強く、覚えている。

『悠里は、ひまわりみたい。』

僕の後ろ姿を見て、幼馴染は笑った。
はぐれても、見つけやすいのだと。
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