きみとは友達にさへなれない(統合)

あきすと

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⑫もう一人の自分

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フェリーに揺られて、船上から一面の空と海の碧が視界に
これでもかと言わんばかりに、飛び込んでくる。

懐かしい、潮風の香り。
子供の頃に、数回だけ両親の暮らす離島に言っていた事を想いだした。

たった1人、フェリーに乗って。
祖父は俺を見送る。何の心配もいらなくて、港に着けば
両親が俺を迎えてくれたからだ。

数週間、両親と暮らして学校の登校日がある為
まるまる夏休み中居る事は、叶わなかった。

生活に不自由を感じる事は、ほぼ無くて。
祖父の生家をリフォームして、暮らしやすく改築された
家では、ニワトリが飼われていた。

今でも、心豊かな暮らしがきっと変わらずに営まれているのだろう。

港に着船すると、多くの人が下船していくのを見て
迎えに来ているであろう両親の姿を探しながら
タラップを下りていく。

手荷物は随分とコンパクトになって、身軽なまま島に来た事を
今更になって後悔した。

今回は、かなり急な帰郷となってしまったせいで手土産の一つも
持たずに来てしまった。

後ろから声を掛けられて振り向くと、母親が1人で
『雪緒…?』
と、声を掛けて来た。
「……母さん。」
『お父さんの若い頃と似てるね~』

のん気な声が、自分の心を随分と緩めてくれた気がする。
「久し振り、急でごめん。」
『何言ってんの?雪緒の家はコッチにもあるんだから。いつだって来て良いのよ。』
母親は軽トラックに俺を案内してくれる。
乗車すると、島の山寄りの道をゆっくりと走行する。
「出荷終わったトコ?」
『そうそ、もう今日の仕事はお終い。』

朝早くからの収穫作業と、出荷作業を終えて母親は
まだ農作業の恰好のままだった。

「父さんは?」
『家で留守番だよ。』
「…そっか。」
『もう、何年振りかね…3人でこうして顔合わせるのも。』
「…どうだろ。結構空いてたから…。」
『とうとう雪緒も島の人になるんじゃないかって。お父さん、ドキドキしてるのよ。』

時間がただひたすらに、ゆっくりと流れているのが分る。
さっきから、あくびが連発で出てしまう。
「まさか、今回は…そういうんじゃないよ。でも、俺にとっては重大な話かな。」

『雪緒、アンタ船酔いしてるね?あくびばっかしてる。良いよ、帰ったら少し寝れば。』
重大な話、と言ってもこんな反応なんだから。

母親は俺には、きっと何の心配もしていない事がうかがえる。

「だからかな…?悪いけど、そうさせてもらう。」

家に着くと、車から降りて抱えていたボストンバッグを手に提げて
玄関へと歩く。

母親は、車庫に車を停めてそのまま物置に行ってしまった。

家に入ると、懐かしい匂いがする。
確かに自分の家ではあるけれど、家の匂いを感じる。
玄関に掲げられた古い魚拓が、相変わらず懐かしくて
足が止まる。

確かに、時間は流れているだろうに。
あの頃の夏休みの続きを見せられているのかと思う。

三和土から上がり框に進んで、靴をそろえると
改めて玄関から表の道までの景色がやけに心に響く。

足に、何かが当たる感覚に驚くと
『あら、もう仲良くなったの?』
俺の足になすりつく猫を見て驚いた。

「飼ってんの!?」
『お父さんがね、魚あげたりするもんだから。ウチの子にならないかって。』
「…お揚げみたいな色。」
『トトちゃんです~って、ね。お父さんなら、奥の部屋に居るから。』

俺は、いつの間にか飼われ始めた猫に驚きながら
そっと後じさりをした。

「挨拶、しないと…ダメ?」
かなり久し振りに会うせいで、どんな顔をして会ったらいいのか分からない。
おかしいな、祖父にならなんでも話せてはいるのに。

『アンタの親でしょ~?何、緊張してんの?』
母親は笑いながら、台所へ歩いて行った。
俺は、猫のトトとその場に立ち尽くしていたけど
廊下の突き当りにある、奥の書斎に行ってみる事にした。

父親はいわゆる、婿養子であり。
気の強い母と祖父と明子伯母さんと言う最強メンバーの中では
霞んでしまう様な優しい性格をしている。

とりあえず、書斎の前に来て部屋のドアをノックした。
すぐに返事がして、風圧を感じる程の勢いでドアが開いて
苦笑いする。
『雪緒!!おかえり』
おかえり、と言う言葉が心にほんの少し引っかかったのが
正直なところだけれど。

「父さん。久しぶり…元気そうで良かった。」
今にも飛びついて来そうな父親と、距離をはかりながら
視線の奥の書斎の本棚を見て、ため息が漏れた。

『城、だと思わない?』
「…まぁ、少しは思うけど。」
『キミは、キミをどう定義する人間になったのか。後で見せて…聞かせて貰おうかな。』

相変わらずの白い肌に、ウェリントン眼鏡。髪はかなり白くなっていて
確かに親子だから風貌は似ている。

「また、それ?ちゃんと母さんの農作業一緒にやってる?」
父親も、自分の様にやっぱり本の虫ではある。

書斎にはレコードがあり、プロジェクターなんかも置いてあって
父親の趣味の部屋であると言う事が前面に押し出されている。

『やらないと思ってる?まさか、こう見えても母さんよりか早く起きてるよ。』
「相変わらず、ロクに寝てない不眠症なんだろう?」

両親は互いの部屋があって、それぞれに趣味人でもあるから
気が楽だとは言っている。

『まぁまぁ、3時間は寝てるから大丈夫だよ。じゃ、向こうでお茶でも一緒に飲もうか。』
「ん~…」
『もしかして、今でも船酔いしてる?』
「あぁ、多分。」
『じゃ、そこの和室で適当に横になると良いよ。ココは雪緒の家だから。自由にしなさい。』

トトが書斎にやって来て、柱で爪を研ぎ始めた。
「粉だらけだな…」
『そんなの気にしてたら、猫ちゃんは飼えないからね~』

父親は笑いながらすぐにトトを抱き上げた。
顔を寄せ合って笑っている。
「…やっぱり、少しだけ似てるかもな。」

小さく呟いてから、廊下をはさんで向こうの和室に行き
やっとボストンバッグを下ろして、畳の上にゆっくりと体を横たえた。

自覚は無かったけど、天井を見上げると心なしか
回転している気もした。
すぐに目をつむって、俺は眠る事にした。
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