きみとは友達にさへなれない(統合)

あきすと

文字の大きさ
21 / 26
境界の無い海で揺蕩う

①同じ空間

しおりを挟む
とうとう一緒に住み始めた2人のお話です。

既出作品『きみとは友達にさへなれない。』の約2年後のお話です。
イチャイチャしたり、する事してます(遠江が留学する前に)
紆余曲折あって、やっと一緒に暮らす事になりました。

諸事情は既出作品『香らない花』に書いてありますので
気になる方は併せてご覧いただけますと、時系列が分かりやすいです。

千代 雪緒(せんだい きよつぐ)20歳
大学3回生。本が大好き、ほぼ本の世界にログインしてる生活から
海月と同棲の暮らしに大幅変更。
実は結構海月の事が大好きだけれど、自覚が薄い。
相変わらず、天文部に在籍中。

遠江 海月(とおえ みづき)26歳
春から起業して社会人に。
大学院在籍中に留学する事になったり。
とにかく目先の事に近頃は追われていて、
雪緒を構う時間を取りにくいのがストレスになっている。


「え、あの秘書さん辞めたんだ?」
『そう、本当につい数日前だった。』
「結局、会う事も叶わずか…。」

彼の家に引っ越す事を決めてからは、本当にあっという間の時間が
流れて行った。
祖父も、生家のある島に戻って今は両親と共に3人で暮らしている。

明子伯母さんは、お店の移転作業が終わってまたお店を営業しだして
順調にお客さんがついている。
常連さんも、離れる事が少なく済んだと言う。

大学は3回生になっていて、早い人であれば夏にはもう就職活動を始める。

自分は、この先どうしていくのか。
そろそろ本気で腰を据えて、考えて結論を出さなければいけない。

ダイニングテーブルに活けられた花を見て、昨日を振り返る。
今朝、祖父としばらくの別れを惜しんでから。

彼の車で、本来であれば自分の家とは言えないはずの
家に帰って来た。

『今生の別れでは無いんだから。ね、雪緒。』
「また、会いに行く。今度は…海月さんも連れて行きたい。」
『良いね、碧い海に浮かぶ離島に僕も。それこそ、夢みたいだ。』

彼は、俺の荷物を見て
「ん…?」
『いや、同じ所に帰るって…楽だなって。』
「はぁ…確かに。しばらくは慣れるまで変な感じ。」

照れ隠しでは無いけれど。漫画みたいな展開で、よくここまで
こぎつけたと自分でも思う程の行動力だった。

1年間の彼との空白が無かったら、どうなっていたのかは分からない。

手紙に想いをしたためるには、自分の想いが予想外に重くて
執着にまみれていて、書き損なってばかりだった。
いつぞやの時代にあった、血の涙で書かれた文には劣るものの
それ程の情念に近いものが、腹の底にあの時は…あった。

顔にかなり掛かる様になった髪が鬱陶しい。
近日中に、やっぱり切る事にしようと思う。

彼は切らないでと言ってはいたけれど。

『今日、は…』
「…あ…ぇ~っと」
『分かるの?言いたい事。』
「だって、海月さんがこういう雰囲気の時って…躊躇うから。」
『~……っ、そうだね。』

もう、外は薄暗くなっている。
ゆっくりとでも確かに日の入りは遅くなっている。

「大丈夫、だと思う…。多分。」
最後に想いを重ねてからは、本当に何もなかった。と言うよりかは
急遽、海月さんの留学の話が決まって。
それどころでは無くなった。

俺も、あの時の流れに乗っかっていた方が確かに
気は楽だったから。

互いを知った直後は、ただただ彼からの心配と謝罪の様な言葉が
繰り返されるだけで辛かった。
自分も、少なからず望んでいたから。
謝るのはやめて欲しい。と、正直に伝えたり。

泣きそうに笑っている彼は、本当に優しさに満ちていて
想いに溺れそうになりながら、自分がいかに
海月さんを愛おしく思っているか、気付いてしまった。

『あの頃よりかは、今は気持ちに余裕が出来たかな。』
「…帰らなくて済むから良いですね。」
『そんな、身も蓋も無い…。』
「でも、望んだ事でしょ?」

彼は、本当に春から働きだしていてなんと自分で起業した。
思ってもみなかった進路に当初は、彼の父親からも反対はあったらしい。
でも、関係なく今は日々準備に追われている。

法律の勉強などは既に大学在学中に学んでいた事もあり
後は、定款の作成など、まだまだ卒業してから日が浅いのに
早急に取り組んでいる。

とにかく、よくスマホが鳴る。
電話でも話してばかりだし。
見ているだけで、忙しそうなのが伝わって来る。

『帰国してから、全然…落ち着いて雪緒と一緒に居れなくて。それが嫌だから
一緒に住もうって切り出したのに。』
「俺の予測通りですよ、おおよそは。」
『もう少し時間取れれば、ね。』

書類の作成に追われて、自室のPCをリビングに持って来て
「これから晩御飯だけど…?」
『食べながらでも進めないと間に合わなくなったら困る。』
「それは絶対にやめた方が良いと思う。」

彼に苦言を呈してから、冷蔵庫の前に立つ。
「本当に勝手に開けて、作っても良いの?」
『モチロン。と言うか、いちいち確認してたらキリが無いから。
自分の家だと思って使って行って。』
「分かった。」
『ゴメン。もう少し落ち着いてから呼べばよかったね。』
「…んん、大丈夫。」

席に戻ってから、頬杖をついて彼に視線を送る。
お互い、生きている人生が違うんだからソレを足並み揃えるだなんて
簡単じゃない事ぐらい俺にも理解はある。

『でも、雪緒寂しそうな顔してる。』
「これから、もしも…俺に協力できる事があったら言って欲しいな。」
『ありがとう。改めて確認させてもらうけど…雪緒の家賃は0円。
ただ、その代わりと言っては何だけれど家事はお互いが可能な限り担う事。』
「俺は、平気だよ。これまでとあんまり変わらないし。」
『後は、僕からきみの家事などに対する報酬を支払います。
多分、しばらくは雪緒に頼る事が多いと思う。休日は別としてね。』

「家の家事が俺のバイトみたいなものだね。」
『きみも学生さんだからね、学業に支障のない範囲で良いんだよ。
手も抜いて、この生活は決して義務では無い事を忘れないで。』

向かいに座っている彼を見ながら、視線が合うと自然と笑顔がこぼれた。
「なんか楽しみ~」
『…目の前で無邪気になんてしないで。僕の集中力が切れそうだから。』
「だってさ~やっぱり…まだ、信じられないよ。」
テーブルの下で投げ出した脚を振るっていると、彼のつま先にぶつかった。
『~…駄目だ。ココじゃ集中できない。やっぱり部屋でやろうかな。』
「ご飯できたら呼ぶよ、しばらくは俺ひとりで台所の事はするね。」

『これじゃ、きみをお手伝いさんに雇ったみたいで…申し訳ないよ。』
「そんな事、思わないで良いのに。じゃ、海月さんの本棚から本、借りても良い?」
『良いよ、ここにも沢山あるから。好きなのを持って行くと良い。』
「俺、結構お世話するのって嫌いじゃ無いから。後で、お風呂も沸かすね。」

彼が俺をまじまじと見つめて
『人って、こんなにも変わるものなんだね。』
と眼鏡の奥の瞳が穏やかに細められた。

改めて言われると、気恥ずかしくて。
すぐには言葉が出なかったけれど
「俺も、待つのはちょっと疲れてたんだと思う。」
本心で答えていた。

『あ、渡しそびれてたけど。ソファの上にエプロン用意してあるから使うと良いよ。』
「…ぇ、俺家ではエプロン使ってなかったんだけど…~折角だから使わせてもらおう。」
一瞬、ものすごい圧を感じた気がして、新品のエプロンを袋から出した。

「…ぇ、いちご…?」
思わず声が小さくなっていた。
しかも赤と白のカラーが目に飛び込んでくる。
裾部分にはいちごの刺繡がご丁寧に施されている。

『…絶対似合うと思う。』
「あはは、そう?かな…なんか、すごい…ギャザーも多めで…高そうだよ。」
『後ろ、縛ってあげたいなぁ。』

彼の趣味趣向は完全には読み切れない。
だから、飛び込む覚悟で慣れていくしかないのかもしれない。
「…海月さん、縛ってくれる?」
一応、頭からエプロンを被ってウエストの部分の紐を持って
彼の隣に回り込んで立つ。

『誘惑される、ココに居ると僕絶対ダメになる…。』
「俺、結ぶと立て結びになるんだよね。そしたらさ、海月さん絶対言って来そうだし。」
『それは、気になって言うと思う。』
キーボードから手を離した彼が、俺の肩と腰に手を添えて
『向きが逆でしょ。雪緒は手が掛かって可愛いね…。』

本当は、煙草を吸いたくてここしばらくずっと我慢しているのを知っている。
ストレスを感じてないか、時々気にはしている。

「俺、海月さんと居るとだんだん気にしなくなっていく気がする。」
『どういう方面の話?』
「…海月さんの言う事に、疑問を抱かなくなりそうって事。流されてる、かも。」
『人間は、良くも悪くも同化してしまう生き物だからね。嫌なら、交らなければ良いよ。』

できた、と軽く腰に手を当てられてドキッとしてしまう。
「もう、こんなの…プレゼント用ですか?って聞かれたに決まってる。」
『いいえ、ご自宅用です。』
「ぁ~…そっちもアリかぁ…。」
『雪緒は、大げさにすればする程恐縮するだろうから。』

なんか絶妙なくやしさが湧き上がる。
「ね、ね、海月さん…ちょっと耳、こっちに…」
『え?何…、』
少し警戒しながらも、彼が俺に頭を傾いで来た。

「へ、ん…た…いっ♡」
『~……!』

彼はすぐに俺から退いて、片耳を押さえながら何か言いたげに眉根を寄せていた。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

  【完結】 男達の性宴

蔵屋
BL
  僕が通う高校の学校医望月先生に  今夜8時に来るよう、青山のホテルに  誘われた。  ホテルに来れば会場に案内すると  言われ、会場案内図を渡された。  高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を  早くも社会人扱いする両親。  僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、  東京へ飛ばして行った。

ニューハーフヘルス体験

中田智也
BL
50代のオジサンがニューハーフヘルスにハマッた実体験と心の内を元にしたおはなし

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。 漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。 陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。 漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。 漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。 養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。 陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。 漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。 仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。 沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。 日本の漁師の多くがこの形態なのだ。 沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。 遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。 内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。 漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。 出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。 休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。 個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。 漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。 専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。 資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。 漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。 食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。 地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。 この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。 もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。 翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。 この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

ある少年の体調不良について

雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。 BLもしくはブロマンス小説。 体調不良描写があります。

【創作BL】溺愛攻め短編集

めめもっち
BL
基本名無し。多くがクール受け。各章独立した世界観です。単発投稿まとめ。

処理中です...