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⑦満たされるために
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この夜が更けていく。
時間は、途切れる事も無く流れ続ける。
瞬きが惜しい、こんな事を思うのは初めてで。
いつか、この瞬間は風化してしまうけれど。
出来る限りは、脳裏に焼き付けたくて。
帰る場所は、同じなのに向かう先が違うと感じている。
この身体が心と必ずしも一体化しているとは限らない。
『夜景は、充分に見た。って感じがしたから。』
マンションの駐車場に車が停められる。
がっかりも、しない。
けど、選んだのは自分。
「海月さん、少し無理してる。気がしたから」
『僕が、無理…?は、してないけどね。』
車から降りると、夜風の冷たさに自然と肩をすぼめる。
『早く、部屋に戻ろう。』
コンパスの差、までは言いたくないけど
海月さんが歩み寄って来て促される。
「部屋、あったかくなってる。」
『そうだね、本当便利すぎるのも考え物だよ。』
祖父と暮らしていた頃は、どこか部屋が薄暗くて
廊下に出ればよく冷えた床板と、居間との温度差が
当たり前の生活だった。
「今日、情報量が多すぎてまだ頭が追い付いてない。」
『お風呂も沸かしてあるから、先に入って来ると良いよ。』
今の生活に不自由が無さ過ぎて、俺は時々
この現実が夢想なんじゃないかとさえ思う。
今、自分の目の前に居る海月さんと言う妄想。
着ていた上着をクローゼットに掛けに行く姿を
横目で見送る。
洗濯は、だいたい俺が担当している。
彼の生活に染まっていく、事が手放しに喜んでいいものなのか。
部屋は幸い、別々にして貰えている。
自室に彼がこもってしまうと、長い。
没頭している間、寝食もおろそかにする様子を放ってはおけなかった。
お言葉に甘える事にして、自室に戻り着替えなどを揃えて
脱衣所に向かう。
明子伯母さんのお店の、少しだけ懐かしいスパイスの匂いを
脱いだ服から微かに感じた。
浴室に入って、精油ベースのバスオイルを湯船に垂らした。
お湯の温度で揮発して広がる、香り。
自分が手を伸ばしそうにも無いものが
海月さんの家には沢山ある。
「ミュ、ゲ…?聞いた事も無い。」
やや甘い香りと、どこかでは嗅いだ事のある匂い。
彼なら、選びそう。と、思わせる深みが程良くある花の匂いに
陶酔感がそれっぽい気がした。
1人で静かに入浴を済ませて、着替えを終える。
伸びてきた髪を丁寧に乾かしていると、ノックの音が
ドアの向こうでする。
一旦手とドライヤーを止めて
「海月さん?」
と声を掛ける。
『ごめん、ちょっと一瞬出て来るね。』
「ぇ、あ…分かった。気を付けてね?」
『すぐ、戻るよ。』
声が、いつもの感じじゃ無かった気がして
心に引っかかる。
でも、彼は嘘をつかない。
待って居よう。
寝る前の部屋着で、リビングに行くと
テーブルの上には彼のスマホが置きっぱなしだった。
「……何か、買いに行ったのかも」
ソファの上に少しだけ体を預けて、クッションを抱えて
天井をぼーっと見ている。
彼は人間離れしてる感覚もある。
だから、「クラゲ」なんだと思う。
水から海の中に引き込んで、知らない間に
プスリと刺胞を刺して毒を注ぎ込む。
恐ろしい程の肉食性。
びりびりと毒に侵されながら息も出来ずに、暗い世界へと
誘われていく。
しばらくすると、玄関先で物音がして
『待っててくれたの?』
と、彼の声が頭上でした。
「なに、買って来たの?」
『色々。ハンドクリームとか。空気の乾燥気になってね。』
部屋にはエアコンが稼働中。
加湿器も置いてはあるけど、事足りてない気はしてた。
「最近、海月さんがさ。俺の膝に…こう頭載せてて、後からスゴイ髪が」
『静電気、すごいんだよ。』
「この前も、キ…、ぁ。いや、何でもない。」
『ごまかさなくても良いよ、そうだった。ただ、僕は起きていなかったんだよ。』
「…(俺が乾燥してるみたいなんですけど)何かしら、塗った方が良いのかな?」
『話の流れで、そう言うだろうと思って買って来た。』
「え、そんな…良いのに。」
体を起こして、テーブルの上に置かれたドラッグストアの袋を
ながめる。
女性が使う様なものだと思って見ていると
『髪を少し上げて、化粧水を浸ませて』
「……ん、まだ間に合うかな?もうお風呂から出て時間経ってるけど。」
『しないより、幾分はよくないかな。』
「今日は、やんない。」
『明日からでも、いつでも。雪緒がしたい時にすればいいよ。』
「海月さん、に…させてあげるよ。」
俺の言葉を意外そうな表情で聞いている。
『なんで、僕がしたいって思うの?』
「ん~…だって、わざわざ買って来たんでしょ。それなりに知ってるって自負を
感じるし。海月さんが、俺に好きにしたいんだと思ったからかな。」
『また、きみは僕の心を勝手に読むんだから…』
「だって、分かりやすすぎるんだよ。海月さん、結構な変態だし。」
『実は、口実なんだけどね。スマホはココに置いて出てしまったし、
いけない事はやっぱりするものじゃない。』
「全部、言わなくても良いよ。」
こんなにどうにかこうにかして、自分に触れようとして来る
彼が微笑ましい。
『あ~、抱き締めたい所だけど…やっぱりお風呂に入ってからにする。』
視えない葛藤があるみたいで、俺は静かに笑っていた。
「大丈夫だから、ゆっくりして来なよ。」
『寝そうじゃない?雪緒』
「起きてるよ、まだ。待ってるね。」
海月さんの心に響く言葉や表現は、正直分かりやすいものが多い。
ただ、これを自分が言うのかと思うと抵抗感が出てしまう。
照れくさいのが8割。まだ自分は100をあげてしまえる自信が無いのだろう。
【続】
時間は、途切れる事も無く流れ続ける。
瞬きが惜しい、こんな事を思うのは初めてで。
いつか、この瞬間は風化してしまうけれど。
出来る限りは、脳裏に焼き付けたくて。
帰る場所は、同じなのに向かう先が違うと感じている。
この身体が心と必ずしも一体化しているとは限らない。
『夜景は、充分に見た。って感じがしたから。』
マンションの駐車場に車が停められる。
がっかりも、しない。
けど、選んだのは自分。
「海月さん、少し無理してる。気がしたから」
『僕が、無理…?は、してないけどね。』
車から降りると、夜風の冷たさに自然と肩をすぼめる。
『早く、部屋に戻ろう。』
コンパスの差、までは言いたくないけど
海月さんが歩み寄って来て促される。
「部屋、あったかくなってる。」
『そうだね、本当便利すぎるのも考え物だよ。』
祖父と暮らしていた頃は、どこか部屋が薄暗くて
廊下に出ればよく冷えた床板と、居間との温度差が
当たり前の生活だった。
「今日、情報量が多すぎてまだ頭が追い付いてない。」
『お風呂も沸かしてあるから、先に入って来ると良いよ。』
今の生活に不自由が無さ過ぎて、俺は時々
この現実が夢想なんじゃないかとさえ思う。
今、自分の目の前に居る海月さんと言う妄想。
着ていた上着をクローゼットに掛けに行く姿を
横目で見送る。
洗濯は、だいたい俺が担当している。
彼の生活に染まっていく、事が手放しに喜んでいいものなのか。
部屋は幸い、別々にして貰えている。
自室に彼がこもってしまうと、長い。
没頭している間、寝食もおろそかにする様子を放ってはおけなかった。
お言葉に甘える事にして、自室に戻り着替えなどを揃えて
脱衣所に向かう。
明子伯母さんのお店の、少しだけ懐かしいスパイスの匂いを
脱いだ服から微かに感じた。
浴室に入って、精油ベースのバスオイルを湯船に垂らした。
お湯の温度で揮発して広がる、香り。
自分が手を伸ばしそうにも無いものが
海月さんの家には沢山ある。
「ミュ、ゲ…?聞いた事も無い。」
やや甘い香りと、どこかでは嗅いだ事のある匂い。
彼なら、選びそう。と、思わせる深みが程良くある花の匂いに
陶酔感がそれっぽい気がした。
1人で静かに入浴を済ませて、着替えを終える。
伸びてきた髪を丁寧に乾かしていると、ノックの音が
ドアの向こうでする。
一旦手とドライヤーを止めて
「海月さん?」
と声を掛ける。
『ごめん、ちょっと一瞬出て来るね。』
「ぇ、あ…分かった。気を付けてね?」
『すぐ、戻るよ。』
声が、いつもの感じじゃ無かった気がして
心に引っかかる。
でも、彼は嘘をつかない。
待って居よう。
寝る前の部屋着で、リビングに行くと
テーブルの上には彼のスマホが置きっぱなしだった。
「……何か、買いに行ったのかも」
ソファの上に少しだけ体を預けて、クッションを抱えて
天井をぼーっと見ている。
彼は人間離れしてる感覚もある。
だから、「クラゲ」なんだと思う。
水から海の中に引き込んで、知らない間に
プスリと刺胞を刺して毒を注ぎ込む。
恐ろしい程の肉食性。
びりびりと毒に侵されながら息も出来ずに、暗い世界へと
誘われていく。
しばらくすると、玄関先で物音がして
『待っててくれたの?』
と、彼の声が頭上でした。
「なに、買って来たの?」
『色々。ハンドクリームとか。空気の乾燥気になってね。』
部屋にはエアコンが稼働中。
加湿器も置いてはあるけど、事足りてない気はしてた。
「最近、海月さんがさ。俺の膝に…こう頭載せてて、後からスゴイ髪が」
『静電気、すごいんだよ。』
「この前も、キ…、ぁ。いや、何でもない。」
『ごまかさなくても良いよ、そうだった。ただ、僕は起きていなかったんだよ。』
「…(俺が乾燥してるみたいなんですけど)何かしら、塗った方が良いのかな?」
『話の流れで、そう言うだろうと思って買って来た。』
「え、そんな…良いのに。」
体を起こして、テーブルの上に置かれたドラッグストアの袋を
ながめる。
女性が使う様なものだと思って見ていると
『髪を少し上げて、化粧水を浸ませて』
「……ん、まだ間に合うかな?もうお風呂から出て時間経ってるけど。」
『しないより、幾分はよくないかな。』
「今日は、やんない。」
『明日からでも、いつでも。雪緒がしたい時にすればいいよ。』
「海月さん、に…させてあげるよ。」
俺の言葉を意外そうな表情で聞いている。
『なんで、僕がしたいって思うの?』
「ん~…だって、わざわざ買って来たんでしょ。それなりに知ってるって自負を
感じるし。海月さんが、俺に好きにしたいんだと思ったからかな。」
『また、きみは僕の心を勝手に読むんだから…』
「だって、分かりやすすぎるんだよ。海月さん、結構な変態だし。」
『実は、口実なんだけどね。スマホはココに置いて出てしまったし、
いけない事はやっぱりするものじゃない。』
「全部、言わなくても良いよ。」
こんなにどうにかこうにかして、自分に触れようとして来る
彼が微笑ましい。
『あ~、抱き締めたい所だけど…やっぱりお風呂に入ってからにする。』
視えない葛藤があるみたいで、俺は静かに笑っていた。
「大丈夫だから、ゆっくりして来なよ。」
『寝そうじゃない?雪緒』
「起きてるよ、まだ。待ってるね。」
海月さんの心に響く言葉や表現は、正直分かりやすいものが多い。
ただ、これを自分が言うのかと思うと抵抗感が出てしまう。
照れくさいのが8割。まだ自分は100をあげてしまえる自信が無いのだろう。
【続】
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