狐と狸の昔語り。

あきすと

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唇に花蜜

甘い。
二人で、過ごす濃密な時間。
誰にも邪魔されない、瞳に映るお互いだけを愛しむ。

たくさん、口付けて
頬を寄せ合い…相手の存在を一番深いところで改めて知る。

「好きだよ、…楓っ。」
無邪気な愛情をぶつけては
溺れていく。
投げ出した脚、

繋ぎあった手と手。

重なる吐息。

意識まで共有できそうなくらいの、心地いい逢瀬。

『また、あの飴を食べたろ?さっきから、杏の口がその味がする…。』

あの飴、というのは
楓が禁止していた
甘みの強い、花の蜜で作られた催淫作用がある飴の
事だった。

「だって、美味しいんだもん。それに、さっき楓も舐めちゃったよね?…どう、効いてる?」

嬉しそうに、ニコニコしながら楓の身体をぺたぺた触る。杏の悪戯には、慣れっこの楓も…この飴の強い作用には抗えないのを知っていた。

『お前のせいでな、臨戦態勢だよ…全く。』

はぁ、と溜息をついて
楓が寝台に杏を横たえる。

「いいよ?だって、楓嫌いじゃないでしょ。だから…俺も嫌じゃないし、調度良いね。」

『…おい、一個だけにしとけよ?じゃないとまた腰抜かしても放置するからな。』

しゅっ、と腰帯を解く音がやけに大きく聞こえた。

「ガクガクするの、怖くなったら…途中で止めてね?」

『無理。急には止まれませんから。』

グッ、と杏の腰を上げさせる。

「…やだぁ…」

心にも無い事を言う杏の唇を塞ぎ、
深く、深いところへ
共に堕ちて行く。



『なんだかんだ、最後まで今回は意識があったか。珍しいな。』
いつもなら、勝手に先に落ちてしまう杏だったが
今日は、ゆったりと
まどろんでいる。

身体が、小さく
ひくっ、ひくっとしている。
『大丈夫か?』

優しく杏の背中を撫でて
楓が微笑む。

「うん。楓…ちゅってして?」
こんな状態でも上手く
甘えてくれる杏を愛しく感じていた。

『………』
「ん…っ…、」

口付けだけでも、杏は
本当にイイ表情をする。

惰性なんか微塵も無い。
耳まで赤くしながら
応えてくれる光景には、
胸が熱くなった。

「…美味しい?」
『あぁ、甘いな。杏の花の蜜のようだ。』

「…!ばっ、ばか、急に何言うかと思ったら。恥ずかしいよ。」

『生娘か、お前は…。』
気恥ずかしそうに、布団を目下まで被る杏を抱き締める。

「楓…、」
『ん?』
「…何でも無いよ。」
『そうか…。』
「うん。」
『杏…。』

「?」
『お前は、可愛いよ。』
「…ばか。」

裸で抱き合って、愛を囁く。杏の足りない何かを埋める為にするのでは無く、
溢れそうな気持ちを互いに重ね合わせるように。

為という言葉さえ、楓と杏には相応しくない。

「でも、だとしたら…楓のおかげかもしれないね?だって、育ててくれたんだから。楓の好みに育ったかな?」

照れながら、窺う杏の頬に手を伸ばす。
『元から、お前を好みにしようとは思わなかったさ。ただ、お前が出来る事を一つでも増やしてやりたかった。だから、何でも習わせたし一緒にしてきた。まだ、結果は分からないが…それで杏が豊かになれたなら、俺は良いと思う。』

「…楓、時々親みたいだね。」

『育ての親では、あるな。けど今は杏を一人の大人として見ている。…都合がいいと笑うか?』

滑らかな杏の頬、まだ
あどけなさが残る輪郭。
確かに杏は、好みなんだろう。
完璧じゃないから
愛しい。

「そんな、都合いいだなんて思ってないよ?…楓。だって、楓が………?あれ、ね、それどうしたの?」

なんだか、楓に尻尾が見える。
俺、疲れてるのかな?

そっと、その尻尾らしきものに触れる。

『⁈』
「ありゃ?ほっ、本当に尻尾だ…」

柔らかくて、フサフサとした楓の尻尾に杏が目を見開く。

『………杏、これは、ごく上層の奴らしか知らないんだが。俺は本来なら人間で…実は稲荷の魂が乗り移って同化した姿なんだ。だから、人より神力も強く三柱としての地位がある。』

「き、キツネさん…?」

『…ほぼ人間だと思って欲しい。帝だった俺が稲荷を身体の中で制したからな。今はその力を操作しながら暮らしている。』

今の今まで知らなかったなんて…。
こんな長い間一緒にいてもいまだに知らない事があるんだ。

「知らなかったよ、本当…びっくりしたぁ。え~、キツネなの?楓すごい。全然気づかなかったよ。じゃあ、おいなりさん好きだったりするの?」

『当たり前だ、杏にバレてしまう位だと力を調整出来てない証拠だろう。何故、今は尻尾が出たか分かるか?』

クスッ、と楓が笑みを浮かべて杏の腰を撫でる。

「えっ…?」

『杏が、貪欲に求めるから…さすがの俺も精が尽きそうなんだ。』

耳許で、楓に告げられ
杏の頬が紅潮した。

「…!」

『冗談だ…。話す気があったから、見せただけだから。そう、赤くなるな。』

人目を引く、長身。
漆黒の、長い髪。
切れ長で、少し冷たい視線。
綺麗についた筋肉。
楓は、
俺の持たないものを
全部持っていた。

「そうなの、…?良かった。ほら、神力は返せないから。もし、しばらく尻尾が出たままだったらどうしようかなって思ったよ。」

ほっ、とした表情で杏が脱力する。
『完全に稲荷の姿は…まだ誰にも見せていない。まぁ、葵あたりなら察しているだろうが。』

「帝が、ショタだったのか稲荷がショタだったのか分からないね。」

『後者では、無いだろう。だが、俺は確実に違う。…筈だ。』

「認めるの?駄目だよ。だって、楓は俺にだけ…なんでしょ?それに、大人になるまで見向きもしなかったよね。それでも、ずっと抱き締めたりとかは…あったけど。それがあったから、寂しくは無かった。楓は、最初から優しかったね。」

『人として、道は外さないように理性がある。まさか、それを手放す訳にはいかない。例えどんなに…想いが募っても。相手を思いやるやら、な。』

根底にある、真面目さが楓の魅力の一つかもしれない。
だから、自分を預けられる。信頼できる。

「いつか、もし…楓さえ嫌じゃなかったら、稲荷の姿も見せてね。俺は、しょっちゅう見せちゃってるけどさ。」

『そうだな、杏になら…いずれ。』

杏の髪を、耳にかけてやりながら、満更でもない表情の楓が笑う。
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