狐と狸の昔語り。

あきすと

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幾千万の星空の下で。

楓を知りたい。
そう思い始めた時期は
いつだったかな?

随分と昔だった気がする。

まるで全知全能を体現したようなショタ神は、悔しいけどいつまでたっても太刀打ちできない。

今はそれが
自分の事みたいに嬉しくて誇らしい。

恥ずかしくて言えないけど、楓を知りたいよ。

ねぇ、今までどれだけの時間を生きて来たの?

聞けない…。


煌龍殿で、最近は頻繁に
逢瀬を重ねていた。
こうしないと、神力が
安定しなくてタヌキに戻ってしまう俺は、楓から
交心してもらわないといけない。

建前は、そうなんだけど…
最近なんかは今更
楓を見て胸が締め付けられたりと。
千年一緒だった相手に再燃している。

「やだ、帰らない。」
事後に、二人でまどろんでいた所。
急に名残惜しさが募る。

『…珍しい。いつもは、さっさと帰ってっただろ?』

たしかに、今までは
そうだった。
けど、今はこうして向かい合って抱きしめられて眠るのが幸せ。

「今日は…特別。」
『フッ、好きにしろ。お前は元々俺の物だ。』

そっと頬に触れられて、
目の前には
優しく微笑む楓がいる。 

「…楓は、黙ってても、話してる時もカッコいいよね。」
『お前が、認めるなら…そうなんだろうな。タロー、もう一回』

すっかり上機嫌の楓が
腰に手をまわして来た。
何にも着けていない身体が
無防備だった事を自覚する頃には、もう
ほだされていた。



『だ…大丈夫か?』
「楓の一回は、長いんだよ!ってぇかしつこいわ。俺、腰疲れた。もう無理無理。」

反論する事も無く、だらしなく放り出した身体を清めてくれる楓。
相変わらずマメだと
感心しながら、だんだん睡魔に襲われる。
内腿を綺麗にされた頃には、まぶたがくっつきかけていた。

「っん…。」
『寝るな、また腹壊すぞ?』
「して、いいから…出しといて…。」

簡単に意識を手放して
心地よく眠りについた。

『…全く。』
楓は、言われるままに
事後処理をしてから
湯浴みに行った。

「けほ…っ、けほ…」
咳で目が覚めた。

喉の奥が乾いた気がして
そばに置いてある盆の上の水差しで喉を潤す。

「っはぁ…。」
呼吸を整えてから、寝台に
楓が、いない事を確認すると寝台を下りて
寝所から出る。

深夜、静かに足音を消して
おそらくは楓がいるであろう、浴室に向かう。
一人にされるなんて、とは思わないけれど…
もしかしたら、楓を
怒らせたのでは?と不安になったから。

あ、やっぱり浴室の灯りがついてる。
露天風呂になっている浴室に、寝着のままで浴室から露天風呂への扉を開ける。

『⁉︎タロー、起きたのか?』
楓は、長い髪を綺麗に結い上げて、露天風呂で一杯やっていた。

ヒタヒタ、ざばっざばっ…
濡れてしまう事なんか
もう、どうでも良かった。

楓は、呆気に取られているみたいで目の前の俺を
ただ見ていた。

「起きたら、居なくてビックリした。」
『そうか。いや…少し浸りたかったんだ。』
「俺のワガママに、楓が怒ったかと思った。」

思いもしなかったらしい俺の言葉に、楓が笑う。
『あんなのは、ワガママにもならない。さ、良い子は寝る時間だぞ?』

大きな手のひらで、頭を撫でられる。
「イヤだ。酌くらいは…出来る。」
徳利を手にして、空いたばかりの猪口に酒をつぐ。

『…。少しな、考えてたんだ。タローの事を。思い出していた、と言うのが正しいか。』
「そんな、昔の事?もしかして…名前の話かな?」

寝起きでも、なんとなく
楓が考えそうな事は分かってしまう。
それは、やっぱり悔やまれていたのかもしれない。
『分かるか、流石だな。』

だてに千年一緒に居たわけじゃない。

お盆に徳利を戻して肩まで湯船に浸かる。
『杏…。』
「懐かしい、俺の本当の名前じゃん。あんずみたいな髪の色だから、って。でも、男だからね、きょう。って読むんだって教えられたんだよね。」

『あぁ。しかし何故か、おそらく茜が呼び出したのだろうな。昔は、杏と言う名より太郎の方が多くに覚えて貰える、と言われたな。』

「俺、杏って言う名前…好きだよ?だって、初めて楓が俺にくれた名前なんだから。」
無邪気に笑うと、楓の表情も柔らかになる。

『そうか、しかし今更変えて呼ぶのも…おかしな話だな。』
「じゃあさ、二人の時は本当の名前で。ってのは?」
『お前って、時々可愛い事言うよなぁ…。』

もう既に、二人なんだ。

「楓。無理しなくていいからね?」

『無理は、しない。』
お湯で身体の芯まで温まる。
気持ち良くて、開放感で
満たされていく。

「俺ね、時々後悔しちゃう。一人立ちするのを選んだけど…離れてる中で楓に逢いに来るようになってから、なんだろう…無性に逢いたくなってさ。よくよく考えてみたら今まではずーっと一緒だから寂しくなかったけど…一人で食べるご飯は喉を通りにくいし、お風呂も広くてガランとしてる。寝る時だってスカスカして寒いし。」

タローの正直すぎる自分を
さらけ出して、
それでも…楓の眼は
優しかった。

『俺も…同じだ。タローが言いたい事は、何と無く察しがつく。でもそれは…』

傷つけない様に、
傷つけない様に…
そんな想いが、たくさん伝わってくる。

「一緒に…いたいよ。でも、無理なのは分かってる。だから、いたい。楓…っ、俺ね?離れて初めて恋しくなった。まさか、楓を想って泣いたりする日がくるなんて思ってなかった。」

ぽちょっ、と湯船に涙が沈む。

どれだけ泣いてるのかは
楓の困った顔を見ればわかる。

『杏…ずっと一緒にいられた事がどれだけ幸せだったか実感したんだな。』

堪らなくなって、タローが楓に抱きつく。

「楓…っ、ゴメン。起きたら楓が居なくて、寂しかった。」

『すまなかった。少し、考える事があってな。よく寝てたから朝まで起きないかと思って、つい。』

子どもみたいに泣きつくタローが可愛い。
できるなら、全てを叶えてやりたい。

けど…そうもいかない。

「毎日、楓に逢いたいなぁ。」
鼻がかった声が
愛しくて、頭を自然と
撫でてしまう。


『そうか…』
「昔は、良かったけど今は俺も守護職だからね。難しいよね?」
初めてなんだろう、
こんな気持ちは。

四六時中そばに居たくて
落ち着かないのは。

物理的な距離ができたせいで、タローには今までは
薄かった焦がれるという、
より深い想いが目覚めた。

『杏…何も変わらない。だから、少し冷静になれ。気持ちは分からんでも無いが…もしかして最近の逢瀬が原因か?なんだか、すっかりトゲが無くなって素直になったな。』

「多分…。絆を深めるって言われても昔は分からなかったけど、今なら分かる気がするよ。」

タローの潤んだ瞳が細められる。
丁度、いい関係になれている気がした。
タローも、成長している証拠だろう。

『杏…、そうか。一度葵に相談してみるか。もし、今のままの気持ちが続くようなら俺は煌龍殿に帰って来たらいいと思う。守護は場所を問わないからな。』

思いもよらなかった
タローの告白に、楓も
改めて考えさせられた。

「うまく、伝えられたらいいけど…。」

落ち着いてきたタローの頬に手を添える。
やっと…想いが花開いたような、いつもより晴れ晴れとした表情でタローは
笑っている。

『嬉しいか?そんなに。』
「ん。なんでかな、楓といると顔がにやけるようになって来た。」

『…お前は、相変わらず理性崩壊させるのが上手いな。』
「それは、お互い様だろ?俺だって…楓には結構そういう風に思うよ。悔しいくらいにカッコイイんだから。」

『豆だぬきが…目、つむれ。』
「…?」

そっと目を閉じるタローに
深く口付けた。

「…んっ、…」
簡単に、日頃聞けないような声が鼻から抜ける。
徐々に自らの理性を
ゆっくりゆっくりと手放していく様が、なんとも愛らしくてたまらない。

堕ちて行くタローは、
確かに艶かしい。
普段は子供っぽいだけに
楓の手によってそれは
密かに、楓にだけ晒される。

その、妖艶さには息をのむ。

唇を離すと、二人を繋いでいた透明な糸が絶たれる。

「俺ね、嫉妬してたよ。昔、茜にね。」
『?茜に…、なんでまた。』
「分からないけど、確かに二人には俺が入り込む余地ない位の何かが、あったから。それが…昔の俺にもわかる位のものだったから。」

『まさか、茜に…?』
「うん。羨ましかった。確かに結婚もして無い二人が、夫婦みたいに仲睦まじく暮らしてて。俺は明らかに邪魔だったから。」

『邪魔なわけ無いだろう?俺はお前を育てると決めたんだ。だが、その為には母親のように温かく見守ってくれる存在が必要だった。杏が泣けば、慰めてくれるような、な。茜には申し訳ないが結婚は一度も考えた事は無かった。永きを生きて行かねばならない自分には…そんな事出来なかった。』

「うん。」
『そうか…嫉妬までしていたなんて、気がつかなかった。案外、杏も可愛げがあると言うかのか。意地らしいじゃないか。』

楓のような人に
何も思わない女性の方が
少ないんじゃない?
と言いたい所を我慢して
タローは、岩場に上がる。

「あっつ…楓、呑みながらよく浸かってられるね?熱くない?」

頬が赤くなったタローを見て楓は首を振る。
『いや、特には。杏は堪え性が無いからな。』

「余計なお世話…。」


『ここにいると、現実を忘れてしまうな。』

何かを想っている様子の
楓が、外を見つめる。
隔絶されたこの世界の景色は、現実の景色とは違う。

昔の景色のままだった。
なんと、星が多い事…。
目の前一杯の星空に、圧倒される。
手を伸ばせば、もっと星空を近くに感じる。

楓が、大切に
この煌龍殿に残したかった景色は、目を見張るような美しさに満ちている。

「朝には朝の美しさがある。夜には夜の美しさがある。それは、同じ物では無い。毎日違う、決して同じ日など二度とは来ない。」

『…懐かしいな。誰が言ってたか?』

「忘れちゃった。けど…なんか今となっては分かるんだよね。長命になってから時間の流れを忘れないために。時々思い出すんだ。」

『身を清めたら、もう寝るか。杏…。』
「うん…。少し、疲れちゃったかな。」






露天風呂から戻り、寝所の寝台に上がる。
『目を閉じると…杏は見えなくなるが、温もりからお前を感じる事は出来る。さ、おやすみ。杏…』

当たり前の様に
一緒の布団で眠りにつく。
絡めた手を離さずに
遠い夢の世界の扉を開ける。
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