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⑨悠寅視点

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無防備な寝顔が部屋に戻るとあった。

一瞬、昔の事を思い返して
嫌な汗が出て来そうだ。

目の前で息絶えてゆく辰。

違う、あの頃とは違うはずなんだと
分かっているのに冷静さを忘れていく。

ベッドに横たわる愛らしい寝顔の
辰海の胸に触れた。
「……良かった。」
小さな拍動が、俺の手のひらを
伝わって来た。
首にも静かに指を這わせて、脈動を
感じてみる。

生きているって事の尊さが
改めて身に沁みる。

くるんと上向きのまつ毛の縁どりが微かに
震えている。
「辰海、泊まっていけ。」
予定では無かったかもしれないが、
とても眠そうだ。

なんなら、おぶさって家にまで
送って行っても良い程だけど
きっと、辰海が恥ずかしがるだろう。

『~んぅ…っ、ねむたぁ~い』
寝こじれている辰海が可愛くて、
頭を優しく撫でてみる。
「シャワーも貸すから。ゆっくりしていくと良いよ。親にも言ってあるから。」

辰海は、寝ぼけまなこで
少し考えてから
『俺、家に連絡してない。』
「スマホは?」
『ん、ちょっと着替え…やっぱりこのままじゃ寝れないよ。しわくちゃじゃん。浴衣。』

上体を起こして、その場で辰海が浴衣の
帯を解き始めた。
するすると帯はシーツの上に、
浴衣もあっという間に脱がれてしまった。

「ぉま…っ、ちょっと着替え持ってくるから待ってろ。」
さらされた胸元や、腰に太腿なんかが
バッチリ目に飛び込んで来た。

下着だけで、辰海はチラッと俺を見て
小さく笑う。
ワザとやってんなぁ。
何にせよ一旦家に連絡をさせてから、
辰海はさっきまで着ていた服を前にして
『外暑かったし、シャワーしたいなぁ。悠寅まだなんだろ?一緒に入る?』

「大の男2人がシャワー出来るほど、2階のシャワー室は広く無いんだよな。」
『その言い方だと下にもあるんだ?』
「こっちの2階のはバスタブが無い。」
『へぇ、それでも充分だと思うよ。』

「シャワーから上がったら…下着どうすんだ?」
『…履かないかな?さっきまで履いてたの履くのは無理だもん。』

それってつまり、ノーパンじゃん。

今世のレベルが高すぎて最早
ついていけない。

「俺は何も言わない。腹冷やすなよ?くらいしか。」
『大丈夫だよ。あのさ、Tシャツとかは貸して欲しいかな。』
「あ、あぁ…分かった。じゃあタオルとか用意してくる。あ、ちなみに俺は下で風呂には入って来たんだわ。」

辰海が俺へと手を伸ばして来て、その手を掴み起こし上げる。
『シャワーから上がったら、何するのか考えといて。』

意味深な言葉に動揺したが、とりあえず
部屋から出て2階にあるシャワー室を
案内した。
「お前寝起き大丈夫なのか?タイルで滑って転ばない様にな。」

『大丈夫大丈夫、っとじゃあお借りします。』
辰海は脱衣所にタオルや着替えを持って
入って行く。

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