2 / 2
瞳の向こうに移る姿。
しおりを挟む
違うんだ、奏真。
誤解だから。
だから、そんなに俺を避けないで…
話、聞いてよ。
『七光りで、役貰っても無意味だよ。』
そんな、俺の言葉で、奏真を傷付けた。
そして、俺が奏真を七光りだという風に見てるんじゃないかっていう、誤解まで。
そんな訳無いのに。
奏真を近くで見てきて、
確かに憧れた。
比較には、ならないし。
素直に、胸が熱くなった。
いくつもの顔を持つ、奏真の本当の素顔を知ってるのは俺だけなはず。
そう、思ってたよ。
「結城、台本読み合わせするぞ。」
部室で、衣装の直しをしていたら、奏真に声をかけられて手を止める。
「あっ、ちょっと…待って。…ッ!」
「?どうした、結城。」
親指に針を刺してしまって、プクッと小さな血の玉ができる。
「大丈夫。」
「…ドジ。ミシン使え。」
フッ、と笑う表情が今日は柔らかい。
奏真、
俺と奏真の間に、わだかまりなんか無い筈なんだよ?
だから、早く…いつもみたいに話したい。
「ミシンかぁ、家庭科室から今度借りてみる。」
「で、大丈夫か?絆創膏…」
ロッカーを、開けて奏真が救急箱を机の上に置いて常備してあった絆創膏を一枚俺の指に巻き付けた。
「ありがとう。…やっぱり奏真は、優しい。」
誤解が、解けたらどんなに嬉しいか。
「俺は、お前を信じてる。つもりだった。でも、全然…まだ足りなかった。こんな風に結城、いや、尋夢を…お前は、いつだって俺の味方でいてくれた。」
奏真の、心にあった優しい気持ちが、ジワジワ俺にも伝わってくる。
知ってる?奏真。
俺がなかなか役を落とせないのは…
理由があるんだよ。
それは、いつか奏真にも
解るだろうけど。
俺が演じる役は、だいたい奏真の相手役だよね。
最初は、まぁ役だからあまり気にしないようにはしてた。
でも、いつも間近で奏真の演技を見ていたりする内に複雑な気持ちが芽生え始めた。
「落とし込んだ、役の人格がずっと消えない。間違えても、恋人役なんかしたら…俺は…。」
急に、俺は演じるのが怖くなった。
俺は、俺という、人格を消さないと演じることが出来ない。
「そういえば、前に喧嘩した時も読み合わせの時だったよな。」
パイプ椅子に奏真が座って台本を開く。
「うん、奏真…いきなり怒り出すから怖すぎ。」
忘れもしない。
真面目にやれ!と叱責されて。
その役は女性の役だったし、なんだか気恥ずかしくて軽くやり過ごせないかと思ったら…案の定無理だった。
「奏真はね、いつも真剣で…カッコイイ。」
けど、こと演技の話や舞台の事になると本当に思い入れの違いに驚かされる。
厳しく、ストイックな奏真からすれば俺みたいなタイプは扱いにくいはず。
ある日いきなり、完璧に役を掴むなんて事。
確かに簡単なんかじゃない。
だからかな、いつからか俺は自分って言うモノが無意味に思えてきた。
全てを吸収して俺が俺じゃなくなるためのただの器みたいに自分で、感じる。
奏真みたいに、自分を保ちながらも演じ分けができれば、こんなに苦しまないのかな?
俺は、スポンジに染み込んだ洗剤みたい。
変な話だ、
一旦洗剤が染み込むと洗って洗剤を流し切らないとスポンジに戻れない。
何度も、役を落とすために亜海夏を利用して…。
「当たり前だろう、真面目にやっても伝わらない事がある。それで、手なんか抜いたらお前も俺も…何が良くて演じてるのか、分からない。だから、真剣にやる。例えお前が男なのに、女役だろうとも。」
どこから、そんな熱い気持ちが沸くのかは分からない。奏真に流れる血のせいかな?
まぁ、なんでもいい。
俺は、俺の精一杯で奏真の熱意に応えたい。
「俺、詰め込みだから役が終わっても引きずるし…マジで女役したりすると厄介だろうし。そうじゃなくとも、俺は奏真に憧れながらコンプレックス抱いてるよ?」
デキる奏真に、敵わないのに。分かってる、
「そんなに全力で取り組んでの結果、お前が面倒くさそうな事になったら…抜け切るまで付き合ってやるよ、役に。」
ト書きのたくさん入った台本に目を落としていた奏真と視線がぶつかる。
「…ありがとう。あのさ、俺、奏真に大事な話しようしようと思っててなかなかできなかったんだけど、今話していい?」
逃げるなら
今しかない。
奏真を苦しめるくらいなら
「なんだ?」
「俺、文化祭最後に部活辞める。」
言った。
ゴメン、奏真。
俺は、卑怯で臆病なんだ。だから、来年の夏まで待てなかった。
「取り消せ、いや…まず意味が分からない。俺のせいなのか?だったら尋夢が辞める必要無い!」
初めて見る、奏真のこんな辛そうな顔。
どんな演技なんかより1番心を揺さぶる。
「俺は、奏真の事がずっと眩しかった。届きたくて…認めて貰いたかった。誤解されたりもしたけど、最後にも、やっぱり俺は奏真の相手役になりたくて。気持ち悪いかもしれないけど…役の最中って本当に奏真しか見えないんだよ?後、そう思わないと上手くやれないし。」
顔が笑ってる。
心は、多分引きつってんのに。
そんな俺を、奏真が見ている。
見てる…。
「はっきり言ってくるんだな…俺はそこまで心の準備はできてなかったんだけど。」
いつも冷静な奏真の目が泳いでいる。
つい、勢いで色んな話をしてしまった。
「ゴメン…俺も最近考え過ぎてて意味不明な事言ったかも、でもウソは無いんだ。」
はぁ…。
肩が脱力する。
嫌われる道を突き進むばっかりで。
本当は、もっと良く思われたい。でも、俺にはどうしたらいいかわかんない。
「たった、3文字で尋夢に答えれる。」
「3文字…?」
すくっ、と立ち上がる奏真に手を取られて俺も立ち上がる。縮まる奏真との距離。
向かい合う瞳と瞳。
誤解だから。
だから、そんなに俺を避けないで…
話、聞いてよ。
『七光りで、役貰っても無意味だよ。』
そんな、俺の言葉で、奏真を傷付けた。
そして、俺が奏真を七光りだという風に見てるんじゃないかっていう、誤解まで。
そんな訳無いのに。
奏真を近くで見てきて、
確かに憧れた。
比較には、ならないし。
素直に、胸が熱くなった。
いくつもの顔を持つ、奏真の本当の素顔を知ってるのは俺だけなはず。
そう、思ってたよ。
「結城、台本読み合わせするぞ。」
部室で、衣装の直しをしていたら、奏真に声をかけられて手を止める。
「あっ、ちょっと…待って。…ッ!」
「?どうした、結城。」
親指に針を刺してしまって、プクッと小さな血の玉ができる。
「大丈夫。」
「…ドジ。ミシン使え。」
フッ、と笑う表情が今日は柔らかい。
奏真、
俺と奏真の間に、わだかまりなんか無い筈なんだよ?
だから、早く…いつもみたいに話したい。
「ミシンかぁ、家庭科室から今度借りてみる。」
「で、大丈夫か?絆創膏…」
ロッカーを、開けて奏真が救急箱を机の上に置いて常備してあった絆創膏を一枚俺の指に巻き付けた。
「ありがとう。…やっぱり奏真は、優しい。」
誤解が、解けたらどんなに嬉しいか。
「俺は、お前を信じてる。つもりだった。でも、全然…まだ足りなかった。こんな風に結城、いや、尋夢を…お前は、いつだって俺の味方でいてくれた。」
奏真の、心にあった優しい気持ちが、ジワジワ俺にも伝わってくる。
知ってる?奏真。
俺がなかなか役を落とせないのは…
理由があるんだよ。
それは、いつか奏真にも
解るだろうけど。
俺が演じる役は、だいたい奏真の相手役だよね。
最初は、まぁ役だからあまり気にしないようにはしてた。
でも、いつも間近で奏真の演技を見ていたりする内に複雑な気持ちが芽生え始めた。
「落とし込んだ、役の人格がずっと消えない。間違えても、恋人役なんかしたら…俺は…。」
急に、俺は演じるのが怖くなった。
俺は、俺という、人格を消さないと演じることが出来ない。
「そういえば、前に喧嘩した時も読み合わせの時だったよな。」
パイプ椅子に奏真が座って台本を開く。
「うん、奏真…いきなり怒り出すから怖すぎ。」
忘れもしない。
真面目にやれ!と叱責されて。
その役は女性の役だったし、なんだか気恥ずかしくて軽くやり過ごせないかと思ったら…案の定無理だった。
「奏真はね、いつも真剣で…カッコイイ。」
けど、こと演技の話や舞台の事になると本当に思い入れの違いに驚かされる。
厳しく、ストイックな奏真からすれば俺みたいなタイプは扱いにくいはず。
ある日いきなり、完璧に役を掴むなんて事。
確かに簡単なんかじゃない。
だからかな、いつからか俺は自分って言うモノが無意味に思えてきた。
全てを吸収して俺が俺じゃなくなるためのただの器みたいに自分で、感じる。
奏真みたいに、自分を保ちながらも演じ分けができれば、こんなに苦しまないのかな?
俺は、スポンジに染み込んだ洗剤みたい。
変な話だ、
一旦洗剤が染み込むと洗って洗剤を流し切らないとスポンジに戻れない。
何度も、役を落とすために亜海夏を利用して…。
「当たり前だろう、真面目にやっても伝わらない事がある。それで、手なんか抜いたらお前も俺も…何が良くて演じてるのか、分からない。だから、真剣にやる。例えお前が男なのに、女役だろうとも。」
どこから、そんな熱い気持ちが沸くのかは分からない。奏真に流れる血のせいかな?
まぁ、なんでもいい。
俺は、俺の精一杯で奏真の熱意に応えたい。
「俺、詰め込みだから役が終わっても引きずるし…マジで女役したりすると厄介だろうし。そうじゃなくとも、俺は奏真に憧れながらコンプレックス抱いてるよ?」
デキる奏真に、敵わないのに。分かってる、
「そんなに全力で取り組んでの結果、お前が面倒くさそうな事になったら…抜け切るまで付き合ってやるよ、役に。」
ト書きのたくさん入った台本に目を落としていた奏真と視線がぶつかる。
「…ありがとう。あのさ、俺、奏真に大事な話しようしようと思っててなかなかできなかったんだけど、今話していい?」
逃げるなら
今しかない。
奏真を苦しめるくらいなら
「なんだ?」
「俺、文化祭最後に部活辞める。」
言った。
ゴメン、奏真。
俺は、卑怯で臆病なんだ。だから、来年の夏まで待てなかった。
「取り消せ、いや…まず意味が分からない。俺のせいなのか?だったら尋夢が辞める必要無い!」
初めて見る、奏真のこんな辛そうな顔。
どんな演技なんかより1番心を揺さぶる。
「俺は、奏真の事がずっと眩しかった。届きたくて…認めて貰いたかった。誤解されたりもしたけど、最後にも、やっぱり俺は奏真の相手役になりたくて。気持ち悪いかもしれないけど…役の最中って本当に奏真しか見えないんだよ?後、そう思わないと上手くやれないし。」
顔が笑ってる。
心は、多分引きつってんのに。
そんな俺を、奏真が見ている。
見てる…。
「はっきり言ってくるんだな…俺はそこまで心の準備はできてなかったんだけど。」
いつも冷静な奏真の目が泳いでいる。
つい、勢いで色んな話をしてしまった。
「ゴメン…俺も最近考え過ぎてて意味不明な事言ったかも、でもウソは無いんだ。」
はぁ…。
肩が脱力する。
嫌われる道を突き進むばっかりで。
本当は、もっと良く思われたい。でも、俺にはどうしたらいいかわかんない。
「たった、3文字で尋夢に答えれる。」
「3文字…?」
すくっ、と立ち上がる奏真に手を取られて俺も立ち上がる。縮まる奏真との距離。
向かい合う瞳と瞳。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
壊れていく音を聞きながら
夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。
妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪
何気ない日常のひと幕が、
思いもよらない“ひび”を生んでいく。
母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。
誰も気づきがないまま、
家族のかたちが静かに崩れていく――。
壊れていく音を聞きながら、
それでも誰かを思うことはできるのか。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない
文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。
使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。
優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。
婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。
「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。
優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。
父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。
嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの?
優月は父親をも信頼できなくなる。
婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。
大丈夫のその先は…
水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。
新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。
バレないように、バレないように。
「大丈夫だよ」
すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる