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第1話 母と私
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暗くフクロウの鳴く夜。
ハーレン家の持つ屋敷の寝室。
小さかった私はいつものように母と一緒にベッドに入り、母の傍らで眠るのを楽しみにしていた。
母に会えるのはベッドの時間のみ。
朝の時間、昼の時間に寝室に入ると侍女達が邪魔をして中へ入れてもらえなかった。
私はまだ5つの時だった為、最初は大粒の涙を流しながら寝室の扉前で泣きじゃくっていた。
だから私にとって、このベッドの時間は母に会える唯一の手段だった。
何故夜の時間しか会えないのか・・・その頃の私には考えられない事だった。
「かあさま!殊能力とは一体何なのですか?」
私はベッドの上に腰かけ、足をパタパタとしながら母に問うた。
屋敷の侍女の話を聞いたのだろうか、幼かった私はいつも分からないことや不思議なことがあれば、こうして夜、母に聞いていた。
そんな私の言葉に母はベッドの横になりながら言った。
「ふふ、そうね。あなたはまだ子供だから今は知らなくて良いのだけれど」
母はそう言いながら私の髪をかきあげながら優しく微笑む。
私は少しムスッと顔を膨らませた、分からないことをそのままにしたくなかったからだ。
そんな私を見てか母は『クスクス』と口に手を当てながら上品に笑う。
「あなたのその顔はいつ見ても面白いわね」
私の髪をかきあげていた手を頬に添える。
優しくて温かくて気持ちのいい、私の顔はみるみるうちに朗らかになるのを感じた。
「そうね、あなたに分かりやすく言うと、『特別な才能を持った子』かしらね?」
「特別な才能?」
私は顎に手を当てて考える素振りを見せる、執事がいつも悩む時にやっていた動作だ。
やがて答えに辿り着いた私は言った。
「それって!かあさまの持ってる『ふじみ』?っていうのも同じ?」
そう、母の特別な才能、能力は『不死身』。
その身体は老いることも朽ちることも無く、美貌は美しいまま永遠と生き続ける、いわば『呪い』だ。
母は優しく微笑みながら私の目を見つめて言う。
「そうね、私の殊能力は不死身、この能力が目覚めたのは私が19の頃、思えばあれから何年・・・何十年経ったのかしらね・・・」
母の目は、どこか悲しそうな目をしていたがすぐにいつもの母の希望に満ちた目に戻った。
「かあさまは・・・ふぁ、」
私はその続きを言おうとしたが、猛烈な睡魔に襲われてしまった。
「さ、もう寝ましょう。話の続きは明日の夜でも構わないでしょ?」
「うぅ、でも・・・ふぁあ・・・」
目をクシクシと擦りながら私は言った。
本当はもっと母と話したい。
それが強すぎるためか、私は睡魔に襲われる自分に、後ろ髪を引かれる思いだ。
「かあさま・・・は・・・」
私が頭をふらふらとさせていると母は優しく私をベッドの中に入れ、隣に寝かせる。
髪を優しくかきあげながらお腹をさする母。
そんな事をされれば瞬時に寝る事など造作もない。
私は必死にそれを耐えながら最後の一言を振り絞って・・・
「幸せです・・・・か・・・」
その最後を言い切って、達成感に満ち溢れたのか、そのまま『すぅ、すぅ』と可愛い寝息を漏らしながら眠りについてしまった。
「・・・そうね」
母は眠ったままの私に向かって囁く。
この三日後、母が亡くなるのを知る事になるのは・・・まだ誰も知らない。
ハーレン家の持つ屋敷の寝室。
小さかった私はいつものように母と一緒にベッドに入り、母の傍らで眠るのを楽しみにしていた。
母に会えるのはベッドの時間のみ。
朝の時間、昼の時間に寝室に入ると侍女達が邪魔をして中へ入れてもらえなかった。
私はまだ5つの時だった為、最初は大粒の涙を流しながら寝室の扉前で泣きじゃくっていた。
だから私にとって、このベッドの時間は母に会える唯一の手段だった。
何故夜の時間しか会えないのか・・・その頃の私には考えられない事だった。
「かあさま!殊能力とは一体何なのですか?」
私はベッドの上に腰かけ、足をパタパタとしながら母に問うた。
屋敷の侍女の話を聞いたのだろうか、幼かった私はいつも分からないことや不思議なことがあれば、こうして夜、母に聞いていた。
そんな私の言葉に母はベッドの横になりながら言った。
「ふふ、そうね。あなたはまだ子供だから今は知らなくて良いのだけれど」
母はそう言いながら私の髪をかきあげながら優しく微笑む。
私は少しムスッと顔を膨らませた、分からないことをそのままにしたくなかったからだ。
そんな私を見てか母は『クスクス』と口に手を当てながら上品に笑う。
「あなたのその顔はいつ見ても面白いわね」
私の髪をかきあげていた手を頬に添える。
優しくて温かくて気持ちのいい、私の顔はみるみるうちに朗らかになるのを感じた。
「そうね、あなたに分かりやすく言うと、『特別な才能を持った子』かしらね?」
「特別な才能?」
私は顎に手を当てて考える素振りを見せる、執事がいつも悩む時にやっていた動作だ。
やがて答えに辿り着いた私は言った。
「それって!かあさまの持ってる『ふじみ』?っていうのも同じ?」
そう、母の特別な才能、能力は『不死身』。
その身体は老いることも朽ちることも無く、美貌は美しいまま永遠と生き続ける、いわば『呪い』だ。
母は優しく微笑みながら私の目を見つめて言う。
「そうね、私の殊能力は不死身、この能力が目覚めたのは私が19の頃、思えばあれから何年・・・何十年経ったのかしらね・・・」
母の目は、どこか悲しそうな目をしていたがすぐにいつもの母の希望に満ちた目に戻った。
「かあさまは・・・ふぁ、」
私はその続きを言おうとしたが、猛烈な睡魔に襲われてしまった。
「さ、もう寝ましょう。話の続きは明日の夜でも構わないでしょ?」
「うぅ、でも・・・ふぁあ・・・」
目をクシクシと擦りながら私は言った。
本当はもっと母と話したい。
それが強すぎるためか、私は睡魔に襲われる自分に、後ろ髪を引かれる思いだ。
「かあさま・・・は・・・」
私が頭をふらふらとさせていると母は優しく私をベッドの中に入れ、隣に寝かせる。
髪を優しくかきあげながらお腹をさする母。
そんな事をされれば瞬時に寝る事など造作もない。
私は必死にそれを耐えながら最後の一言を振り絞って・・・
「幸せです・・・・か・・・」
その最後を言い切って、達成感に満ち溢れたのか、そのまま『すぅ、すぅ』と可愛い寝息を漏らしながら眠りについてしまった。
「・・・そうね」
母は眠ったままの私に向かって囁く。
この三日後、母が亡くなるのを知る事になるのは・・・まだ誰も知らない。
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