不死身令嬢の楽しみは婚約破棄した弱気男爵を見守る事です

小烏 暁

文字の大きさ
1 / 8

第1話 母と私

しおりを挟む
   暗くフクロウの鳴く夜。
   ハーレン家の持つ屋敷の寝室。
   小さかった私はいつものように母と一緒にベッドに入り、母の傍らで眠るのを楽しみにしていた。
    母に会えるのはベッドの時間のみ。
    朝の時間、昼の時間に寝室に入ると侍女達が邪魔をして中へ入れてもらえなかった。
     私はまだ5つの時だった為、最初は大粒の涙を流しながら寝室の扉前で泣きじゃくっていた。
    だから私にとって、このベッドの時間は母に会える唯一の手段だった。
何故夜の時間しか会えないのか・・・その頃の私には考えられない事だった。
「かあさま!殊能力とは一体何なのですか?」
   私はベッドの上に腰かけ、足をパタパタとしながら母に問うた。
    屋敷の侍女の話を聞いたのだろうか、幼かった私はいつも分からないことや不思議なことがあれば、こうして夜、母に聞いていた。
    そんな私の言葉に母はベッドの横になりながら言った。
「ふふ、そうね。あなたはまだ子供だから今は知らなくて良いのだけれど」
    母はそう言いながら私の髪をかきあげながら優しく微笑む。
    私は少しムスッと顔を膨らませた、分からないことをそのままにしたくなかったからだ。
    そんな私を見てか母は『クスクス』と口に手を当てながら上品に笑う。
「あなたのその顔はいつ見ても面白いわね」
    私の髪をかきあげていた手を頬に添える。
    優しくて温かくて気持ちのいい、私の顔はみるみるうちに朗らかになるのを感じた。
「そうね、あなたに分かりやすく言うと、『特別な才能を持った子』かしらね?」
「特別な才能?」
   私は顎に手を当てて考える素振りを見せる、執事がいつも悩む時にやっていた動作だ。
    やがて答えに辿り着いた私は言った。
「それって!かあさまの持ってる『ふじみ』?っていうのも同じ?」
    そう、母の特別な才能、能力は『不死身』。
    その身体は老いることも朽ちることも無く、美貌は美しいまま永遠と生き続ける、いわば『呪い』だ。
    母は優しく微笑みながら私の目を見つめて言う。
「そうね、私の殊能力は不死身、この能力が目覚めたのは私が19の頃、思えばあれから何年・・・何十年経ったのかしらね・・・」
   母の目は、どこか悲しそうな目をしていたがすぐにいつもの母の希望に満ちた目に戻った。
「かあさまは・・・ふぁ、」
   私はその続きを言おうとしたが、猛烈な睡魔に襲われてしまった。
「さ、もう寝ましょう。話の続きは明日の夜でも構わないでしょ?」
「うぅ、でも・・・ふぁあ・・・」
   目をクシクシと擦りながら私は言った。
    本当はもっと母と話したい。
    それが強すぎるためか、私は睡魔に襲われる自分に、後ろ髪を引かれる思いだ。
「かあさま・・・は・・・」
    私が頭をふらふらとさせていると母は優しく私をベッドの中に入れ、隣に寝かせる。
    髪を優しくかきあげながらお腹をさする母。
    そんな事をされれば瞬時に寝る事など造作もない。
    私は必死にそれを耐えながら最後の一言を振り絞って・・・
「幸せです・・・・か・・・」
   その最後を言い切って、達成感に満ち溢れたのか、そのまま『すぅ、すぅ』と可愛い寝息を漏らしながら眠りについてしまった。
「・・・そうね」
   母は眠ったままの私に向かって囁く。
   この三日後、母が亡くなるのを知る事になるのは・・・まだ誰も知らない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

地味な私では退屈だったのでしょう? 最強聖騎士団長の溺愛妃になったので、元婚約者はどうぞお好きに

reva
恋愛
「君と一緒にいると退屈だ」――そう言って、婚約者の伯爵令息カイル様は、私を捨てた。 選んだのは、華やかで社交的な公爵令嬢。 地味で無口な私には、誰も見向きもしない……そう思っていたのに。 失意のまま辺境へ向かった私が出会ったのは、偶然にも国中の騎士の頂点に立つ、最強の聖騎士団長でした。 「君は、僕にとってかけがえのない存在だ」 彼の優しさに触れ、私の世界は色づき始める。 そして、私は彼の正妃として王都へ……

【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。

猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。 復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。 やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、 勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。 過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。 魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、 四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。 輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。 けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、 やがて――“本当の自分”を見つけていく――。 そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。 ※本作の章構成:  第一章:アカデミー&聖女覚醒編  第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編  第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編 ※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位) ※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

【完結】「別れようって言っただけなのに。」そう言われましてももう遅いですよ。

まりぃべる
恋愛
「俺たちもう終わりだ。別れよう。」 そう言われたので、その通りにしたまでですが何か? 自分の言葉には、責任を持たなければいけませんわよ。 ☆★ 感想を下さった方ありがとうございますm(__)m とても、嬉しいです。

完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました

らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。 そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。 しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような… 完結決定済み

[完]本好き元地味令嬢〜婚約破棄に浮かれていたら王太子妃になりました〜

桐生桜月姫
恋愛
 シャーロット侯爵令嬢は地味で大人しいが、勉強・魔法がパーフェクトでいつも1番、それが婚約破棄されるまでの彼女の周りからの評価だった。  だが、婚約破棄されて現れた本来の彼女は輝かんばかりの銀髪にアメジストの瞳を持つ超絶美人な行動過激派だった⁉︎  本が大好きな彼女は婚約破棄後に国立図書館の司書になるがそこで待っていたのは幼馴染である王太子からの溺愛⁉︎ 〜これはシャーロットの婚約破棄から始まる波瀾万丈の人生を綴った物語である〜 夕方6時に毎日予約更新です。 1話あたり超短いです。 毎日ちょこちょこ読みたい人向けです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

お兄様の指輪が壊れたら、溺愛が始まりまして

みこと。
恋愛
お兄様は女王陛下からいただいた指輪を、ずっと大切にしている。 きっと苦しい片恋をなさっているお兄様。 私はただ、お兄様の家に引き取られただけの存在。血の繋がってない妹。 だから、早々に屋敷を出なくては。私がお兄様の恋路を邪魔するわけにはいかないの。私の想いは、ずっと秘めて生きていく──。 なのに、ある日、お兄様の指輪が壊れて? 全7話、ご都合主義のハピエンです! 楽しんでいただけると嬉しいです! ※「小説家になろう」様にも掲載しています。

処理中です...