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第2話 手紙
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「んゅ・・・」
目が覚めた私はベッドから身を起こし、重たい瞼を必死に開ける。
隣には眠った母がいるはずだったのだが、毎回母の部屋から私の寝室へ運ばれている為、いつも目が覚めると一人だった。
「・・・大丈夫。また今日の夜会えるもの・・・それまで我慢よティア・・・」
自分に暗示をかけるように言い聞かせる私、そうでもしないとまた泣き出してしまいそうになるから。
私はベッドを綺麗にし、顔を洗う為洗面所へと向かう。
「おはようございます、ハーレン嬢」
道中侍女たちが私に向かって深く頭を下げて朝の挨拶をする。
「・・・」
私は何も言わずに洗面所へと向かう、いちいち挨拶をしてもキリがないことぐらい当時5つの私でも分かったからだ。
「これはこれは、ハーレン嬢。今日もご機嫌麗しゅう存じます」
洗面所から出てきたのは、上品な立ち振る舞いをし、齢70を超えてもなお衰えを感じさせない体つき。綺麗に揃えた髭を触り、メガネをかけた男。
この屋敷、ハーレン家に長年仕える執事のセルベア・バイルド・スラス、名前が長く、覚えにくかった為、私は略してセバスチャンと呼んでいた。
「今はあなたとわたし以外誰もいないから『普通に』話しても構わないですよ?」
「・・・・」
辺りをキョロキョロと目だけを動かして確認するセバス、その姿を見ると明らかに不審者のようだ。
「お顔を洗いに来たのですよね?ティア」
先程とは打って変わって、砕けたような口調で話し出すセバス、これが本来のセバスなのだろう。
それに先程まで『ハーレン嬢』と呼んでいたが、今は『ティア』と呼んでいる。
セバスは私の母『リセラ・ハーレン』に長年仕えてきた執事であり、私の名前を付けてくれた名付け親で、いわばもう1人の父親みたいなものだ。
もう1人の父親と言っても、私は生まれてこの方私の父親には1度もあったことがない、母や侍女、セバスに聞いたがそれだけは教えてくれなかった。
「今日はいつもより増して眠たいの。だから顔を洗うの」
「ティアはあまり顔を洗わないので今日は一体どうしたんだろうと思いましたが、なるほど。そういうことですね」
そういえば私はこの頃までは顔を洗う事を面倒くさがっていた、今では考えられない。
「だって、顔洗うの面倒臭いんだもん」
嫌々な顔をしながらセバスに言った。
「ははは。そうですねぇ、ティアの足で寝室からここまで来るのに結構な距離がありますからね。」
そんな何気ない会話をしていると、セバスはポケットに入れた懐中時計を取り出して時間を見る。
「ティア、私はもう行かなくてはなりません」
「ん・・・そう・・・」
話し足りなかった私は少し残念そうな顔を見せる。
「ではこれで・・・」
セバスは踵を返してその場を去ろうとする。
「あぁ、そうでした」
数歩歩いたところで足を止め、私の元へ戻ってきたセバス、胸ポケットから2つに折り畳まれた白い紙を取り出して渡した。
「これを・・・では」
今度こそセバスは踵を返してその場から去る。
セバスの後ろ姿が消えるまで私は彼の背中を見つめていた。
「・・・これは?」
セバスからもらった紙を開けようとするが、先に顔を洗ってから見ることにする。
目が覚めた私はベッドから身を起こし、重たい瞼を必死に開ける。
隣には眠った母がいるはずだったのだが、毎回母の部屋から私の寝室へ運ばれている為、いつも目が覚めると一人だった。
「・・・大丈夫。また今日の夜会えるもの・・・それまで我慢よティア・・・」
自分に暗示をかけるように言い聞かせる私、そうでもしないとまた泣き出してしまいそうになるから。
私はベッドを綺麗にし、顔を洗う為洗面所へと向かう。
「おはようございます、ハーレン嬢」
道中侍女たちが私に向かって深く頭を下げて朝の挨拶をする。
「・・・」
私は何も言わずに洗面所へと向かう、いちいち挨拶をしてもキリがないことぐらい当時5つの私でも分かったからだ。
「これはこれは、ハーレン嬢。今日もご機嫌麗しゅう存じます」
洗面所から出てきたのは、上品な立ち振る舞いをし、齢70を超えてもなお衰えを感じさせない体つき。綺麗に揃えた髭を触り、メガネをかけた男。
この屋敷、ハーレン家に長年仕える執事のセルベア・バイルド・スラス、名前が長く、覚えにくかった為、私は略してセバスチャンと呼んでいた。
「今はあなたとわたし以外誰もいないから『普通に』話しても構わないですよ?」
「・・・・」
辺りをキョロキョロと目だけを動かして確認するセバス、その姿を見ると明らかに不審者のようだ。
「お顔を洗いに来たのですよね?ティア」
先程とは打って変わって、砕けたような口調で話し出すセバス、これが本来のセバスなのだろう。
それに先程まで『ハーレン嬢』と呼んでいたが、今は『ティア』と呼んでいる。
セバスは私の母『リセラ・ハーレン』に長年仕えてきた執事であり、私の名前を付けてくれた名付け親で、いわばもう1人の父親みたいなものだ。
もう1人の父親と言っても、私は生まれてこの方私の父親には1度もあったことがない、母や侍女、セバスに聞いたがそれだけは教えてくれなかった。
「今日はいつもより増して眠たいの。だから顔を洗うの」
「ティアはあまり顔を洗わないので今日は一体どうしたんだろうと思いましたが、なるほど。そういうことですね」
そういえば私はこの頃までは顔を洗う事を面倒くさがっていた、今では考えられない。
「だって、顔洗うの面倒臭いんだもん」
嫌々な顔をしながらセバスに言った。
「ははは。そうですねぇ、ティアの足で寝室からここまで来るのに結構な距離がありますからね。」
そんな何気ない会話をしていると、セバスはポケットに入れた懐中時計を取り出して時間を見る。
「ティア、私はもう行かなくてはなりません」
「ん・・・そう・・・」
話し足りなかった私は少し残念そうな顔を見せる。
「ではこれで・・・」
セバスは踵を返してその場を去ろうとする。
「あぁ、そうでした」
数歩歩いたところで足を止め、私の元へ戻ってきたセバス、胸ポケットから2つに折り畳まれた白い紙を取り出して渡した。
「これを・・・では」
今度こそセバスは踵を返してその場から去る。
セバスの後ろ姿が消えるまで私は彼の背中を見つめていた。
「・・・これは?」
セバスからもらった紙を開けようとするが、先に顔を洗ってから見ることにする。
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