不死身令嬢の楽しみは婚約破棄した弱気男爵を見守る事です

小烏 暁

文字の大きさ
5 / 8

第5話 初めての料理 No.1

しおりを挟む
「料理・・・でございますか?」
「そう!」
   私は真剣な眼差しでセバスに問うた。
   今日は勉強も作法もないフリーな1日、何もする事がない私は考えに考えた挙句思いついたのが料理。
「かあさまと一緒に料理を作りたいの!何とかできないセバス?」
「ハーレン嬢、いくら私でも簡単に頷く事は出来かねます」
    困った様子で私に言ったセバス。
    それもそうだ。母と会えるのは夜の時間のみ、料理をするための調理場は朝から昼までしか開いていない。
「お願いセバス!私のたった一つのお願い!」
「いや、しかし・・・」
   セバスは頑なに首を縦に振ってくれない、だが私は諦めずにセバスに言う。
    そうすると根負けしたセバスは深いため息をついて言った。
「分かりました・・・それでは夜に調理場の方で待っていますので・・・・絶対に見つからないでくださいね!」
    ハーレン家の屋敷は夜になると必ず見回りをする。私は昔こっそり抜け出したら直ぐに見つかり、説教と勉強を一日中やらされたのを思い出してしまって身震いを起こし、冷や汗をかく。
「ですが本当にご注意下さい、ハーレン嬢お1人ならまだしも、今回はリセラ様もご一緒です。もう一度言いますが見つからないようにお願いします」
「分かった・・・!絶対に見つからないように行く!」
    コクコクと頷く私。それを見てセバスは心配そうな顔をしながら私を見つめていた。
    そして待ちに待った夜、私は母の手を引っ張りながら目的の場所へ盗賊のように隠れながら向かう。
「・・・よし、いない」
   周囲を警戒しつつ、私は母の手を強く握る。
「こっち!かあさま!」
   私は母を引っ張りながら言った。
「待ってティア、今動くのはいい判断じゃないわ」
    何故か母は目をキラキラと輝かせている。
    この頃は知らなかったが、母は小さい頃いつも屋敷を抜け出して外へ出ていたとセバスが言っていたのを思い出した。
    母がそう言ったあと見回りの侍女が突然現れた。
    もし私が母の言うことを聞かなければ見つかっていただろう。
    私は手で口を押え、気配を消す。
    侍女の足音が遠ざかると同時に、母は私の手を引っ張る。
    立場が逆転した私は少し驚きを隠せなかったが、それ以前に楽しそうに笑った母を見る事に1番驚いた。
    私はこんなに瞳を輝かせる母を見るのが初めてだったからだ。
「いきましょティア」
   その母の姿がとても頼もしく感じた。
「うん・・・!」
   小さく囁くように返事をした私は母の手を握りしめながら調理場へと向かう。
    そして私と母は難なく調理場へと着いた。
   調理場は明かりが付いており、鍵も開いていた。
「ふふ、久し振りに昔を思い出しちゃったわ・・・やっぱり楽しいわね」
    クスクスと笑いながら母は言った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

地味な私では退屈だったのでしょう? 最強聖騎士団長の溺愛妃になったので、元婚約者はどうぞお好きに

reva
恋愛
「君と一緒にいると退屈だ」――そう言って、婚約者の伯爵令息カイル様は、私を捨てた。 選んだのは、華やかで社交的な公爵令嬢。 地味で無口な私には、誰も見向きもしない……そう思っていたのに。 失意のまま辺境へ向かった私が出会ったのは、偶然にも国中の騎士の頂点に立つ、最強の聖騎士団長でした。 「君は、僕にとってかけがえのない存在だ」 彼の優しさに触れ、私の世界は色づき始める。 そして、私は彼の正妃として王都へ……

【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。

猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。 復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。 やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、 勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。 過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。 魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、 四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。 輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。 けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、 やがて――“本当の自分”を見つけていく――。 そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。 ※本作の章構成:  第一章:アカデミー&聖女覚醒編  第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編  第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編 ※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位) ※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

【完結】「別れようって言っただけなのに。」そう言われましてももう遅いですよ。

まりぃべる
恋愛
「俺たちもう終わりだ。別れよう。」 そう言われたので、その通りにしたまでですが何か? 自分の言葉には、責任を持たなければいけませんわよ。 ☆★ 感想を下さった方ありがとうございますm(__)m とても、嬉しいです。

完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました

らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。 そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。 しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような… 完結決定済み

[完]本好き元地味令嬢〜婚約破棄に浮かれていたら王太子妃になりました〜

桐生桜月姫
恋愛
 シャーロット侯爵令嬢は地味で大人しいが、勉強・魔法がパーフェクトでいつも1番、それが婚約破棄されるまでの彼女の周りからの評価だった。  だが、婚約破棄されて現れた本来の彼女は輝かんばかりの銀髪にアメジストの瞳を持つ超絶美人な行動過激派だった⁉︎  本が大好きな彼女は婚約破棄後に国立図書館の司書になるがそこで待っていたのは幼馴染である王太子からの溺愛⁉︎ 〜これはシャーロットの婚約破棄から始まる波瀾万丈の人生を綴った物語である〜 夕方6時に毎日予約更新です。 1話あたり超短いです。 毎日ちょこちょこ読みたい人向けです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

お兄様の指輪が壊れたら、溺愛が始まりまして

みこと。
恋愛
お兄様は女王陛下からいただいた指輪を、ずっと大切にしている。 きっと苦しい片恋をなさっているお兄様。 私はただ、お兄様の家に引き取られただけの存在。血の繋がってない妹。 だから、早々に屋敷を出なくては。私がお兄様の恋路を邪魔するわけにはいかないの。私の想いは、ずっと秘めて生きていく──。 なのに、ある日、お兄様の指輪が壊れて? 全7話、ご都合主義のハピエンです! 楽しんでいただけると嬉しいです! ※「小説家になろう」様にも掲載しています。

処理中です...