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第6話 初めての料理 No.2
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「はぁ、本当に心配しましたよ・・・気付かれないように来ましたよね?」
「安心して。全く気付かれずにここへ来れたから」
「どうしてそんなに楽しそうなんですか・・・生きた心地しませんでしたよ・・・」
私と母は無事に調理場へ辿り着くと、セバスが懐中時計を見ながらソワソワと身体を動かしていた。彼なりの落ち着き方なのだろう。
「それで?今日は何を作るのかしら?」
母は私に言った。
「今日は!・・・えっと・・・あれ?」
どうやら先程まで考えていた料理を忘れてしまったらしい、私は頭を抱えながら必死に思い出そうとするが、全く思い出せなかった。
「・・・もしかして忘れました?」
セバスはキョトンとした顔を私に向け言った。
その通り・・・私は完璧に作る料理を忘れてしまったのだ。
「・・・・」
私が黙って俯くと母は笑いながら言った。
「それじゃあティアの大好きなサンドイッチなんてどうかしら?」
私のフォローをするように母は言った。
「サンドイッチ!うん!それがいい!」
ちなみに私が作りたかった料理は、なんとかパッツァという名前の魚料理だった。
「それじゃあ一緒に作りましょうか、セルベアは見回りが来ないか監視していてちょうだい」
「分かりました」
そして私は遂に二つ目の夢『母と一緒に料理をする』を達成したのだ。
◇◇◇
「かあさま!私お野菜を切るね!」
私はパンを切っていた母に言いながら包丁の並ばれた棚を開いて取ろうとする。
しかし包丁は私の背よりも少し高くにあったため背伸びしながら取ろうとした。
「ティア、私が取ってあげるからあなたは・・・!」
私は包丁を取る事が出来た、しかし包丁が手から滑らせてしまい、刃先が私の顔目掛けて落下する。
「ティア!!」
母が私を呼ぶ声が聞こえたが、目の前に落ちてくる包丁の刃先を見ながら呆然としていた。
その光景が怖くなった私は逃げることよりもまず、目を閉じることを優先させた。
『グサリ』と肉が避けるような音と共に赤く流れる血が滴り落ちる。「・・・・?」
何やら顔から雫のようなものが滴り落ちる感覚が伝わる。私は恐る恐る目を開く。
「ティア・・・怪我は無い?」
母が痛みに耐えながら私に言った。見れば母は、私を庇う為に包丁を手で受けていたのだ。
「かあさま・・・・」
「大丈夫・・・大丈夫だから・・・」
「どうしました!・・・!!リセラ様!」
鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしながら母に近付くセバス。
「心配しないでセルベア、あなたも知ってるはずでしょ?私の能力」
「そ、それはそうですが・・・」
困惑の色が隠せないセバス。対して私は驚きと悲しみが混じったような気持ちが混濁する。
「私のせいで・・・かあさまを・・!」
私が涙目になりそうな時、母は私の顔に付いていた血を拭き取って怪我のしていない方の手で頭を撫でる。
「大丈夫よ。それに私の能力を知ってるでしょ?こんな傷すぐ治るわよ」
そう言って母は優しく微笑んでいる。
「・・・・でもこのままだとあれだから・・・セルベア、申し訳ないのだけれどあなたのハンカチを下さらない?」
「?え、えぇ。もちろんです」
何故かセバスは不思議そうな顔を見せて、ポケットからハンカチを取り出して母に渡した。母は血の流れた手を水で洗う、幸い傷は深くなかった為少しだけ血が止まっている。
セバスのハンカチを広げ、それを手に巻き付けて処置する。
「ほら、もう大丈夫だから。そんな顔しないで?」
私は泣かぬように下唇を歯で噛んでいた。私が泣けば見回りに気づかれる恐れがあるからだ。
「安心して。全く気付かれずにここへ来れたから」
「どうしてそんなに楽しそうなんですか・・・生きた心地しませんでしたよ・・・」
私と母は無事に調理場へ辿り着くと、セバスが懐中時計を見ながらソワソワと身体を動かしていた。彼なりの落ち着き方なのだろう。
「それで?今日は何を作るのかしら?」
母は私に言った。
「今日は!・・・えっと・・・あれ?」
どうやら先程まで考えていた料理を忘れてしまったらしい、私は頭を抱えながら必死に思い出そうとするが、全く思い出せなかった。
「・・・もしかして忘れました?」
セバスはキョトンとした顔を私に向け言った。
その通り・・・私は完璧に作る料理を忘れてしまったのだ。
「・・・・」
私が黙って俯くと母は笑いながら言った。
「それじゃあティアの大好きなサンドイッチなんてどうかしら?」
私のフォローをするように母は言った。
「サンドイッチ!うん!それがいい!」
ちなみに私が作りたかった料理は、なんとかパッツァという名前の魚料理だった。
「それじゃあ一緒に作りましょうか、セルベアは見回りが来ないか監視していてちょうだい」
「分かりました」
そして私は遂に二つ目の夢『母と一緒に料理をする』を達成したのだ。
◇◇◇
「かあさま!私お野菜を切るね!」
私はパンを切っていた母に言いながら包丁の並ばれた棚を開いて取ろうとする。
しかし包丁は私の背よりも少し高くにあったため背伸びしながら取ろうとした。
「ティア、私が取ってあげるからあなたは・・・!」
私は包丁を取る事が出来た、しかし包丁が手から滑らせてしまい、刃先が私の顔目掛けて落下する。
「ティア!!」
母が私を呼ぶ声が聞こえたが、目の前に落ちてくる包丁の刃先を見ながら呆然としていた。
その光景が怖くなった私は逃げることよりもまず、目を閉じることを優先させた。
『グサリ』と肉が避けるような音と共に赤く流れる血が滴り落ちる。「・・・・?」
何やら顔から雫のようなものが滴り落ちる感覚が伝わる。私は恐る恐る目を開く。
「ティア・・・怪我は無い?」
母が痛みに耐えながら私に言った。見れば母は、私を庇う為に包丁を手で受けていたのだ。
「かあさま・・・・」
「大丈夫・・・大丈夫だから・・・」
「どうしました!・・・!!リセラ様!」
鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしながら母に近付くセバス。
「心配しないでセルベア、あなたも知ってるはずでしょ?私の能力」
「そ、それはそうですが・・・」
困惑の色が隠せないセバス。対して私は驚きと悲しみが混じったような気持ちが混濁する。
「私のせいで・・・かあさまを・・!」
私が涙目になりそうな時、母は私の顔に付いていた血を拭き取って怪我のしていない方の手で頭を撫でる。
「大丈夫よ。それに私の能力を知ってるでしょ?こんな傷すぐ治るわよ」
そう言って母は優しく微笑んでいる。
「・・・・でもこのままだとあれだから・・・セルベア、申し訳ないのだけれどあなたのハンカチを下さらない?」
「?え、えぇ。もちろんです」
何故かセバスは不思議そうな顔を見せて、ポケットからハンカチを取り出して母に渡した。母は血の流れた手を水で洗う、幸い傷は深くなかった為少しだけ血が止まっている。
セバスのハンカチを広げ、それを手に巻き付けて処置する。
「ほら、もう大丈夫だから。そんな顔しないで?」
私は泣かぬように下唇を歯で噛んでいた。私が泣けば見回りに気づかれる恐れがあるからだ。
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