高校球児は悪役令嬢?!天才野球少年は婚約破棄したいっ!

マキバチャン

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第一部 悪役令嬢ってなんなんですの?!

海底王国の姫、襲来

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カナリアは「婚約破棄のために皇子に嫌われよう」と決意をしたものの、具体的に行動を起こせずに過ごしている。

カナリアが目を覚ましてから既に数日が経ち、妃教育も再開されいつも通りの日々を送っていた。誕生日の祭典は延期になることが決まったものの、具体的な日取りは決まらないままだ。

そんな時、帝国に一つの知らせが舞い込んだ。

「海底王国アトラントのシャーロット姫がお見えになるそうだ」

アイラッド皇太子の父…つまりこの国の皇帝であるルーナはカナリアと皇太子を呼び出してそう告げた。

海底王国アトラントは帝国に比べれば取るに足らない小国である。しかし、貴重な海底資源の唯一の輸出国であるため、貿易相手としては丁重に扱わなければならない。

「姫のお迎えについてはレディ・カナリアに任せたい。できるよね?」

皇帝からの直々の言葉に、カナリアはごくりと唾をのむ。アトラントは原始的な生活を送る野蛮な国であるとも言われており、その国の姫をどう迎えていいのか分からなかった。

しかしこれは勅命である。答えは一つしかない。

「お任せくださいませ、皇帝陛下」

「カナリアはいつまで経っても僕をお父様と呼んでくれないんだね」

皇帝は少し寂しそうに微笑んでそう言った。

これまでカナリアは、いつかは彼をお父様と呼ぶ日が来るのだろうと漠然と想像していた。しかし、皇太子との婚約破棄を決意した今は違う。

きっとこの先も、皇帝陛下をお父様と呼ぶ日は来ない。


海底王国の姫が地上の国を訪問することは珍しい。

彼らは普段海産物を主食としているようなので、魚介をメインとした食事を用意した。帝国ではあまり海産物を食べる習慣はない。

カナリアが選んだ食材を見て、アイラッド皇太子は不思議そうな顔をしていた。

道野龍としての記憶がよみがえったカナリアにとっては、慣れ親しんだ食材である海産物。前世ではエビフライが好きだったが、久しぶりにエビを見ると何やら不思議な生物に見えてくる。

本日のメインはイセエビのようなロブスターのような生物のソテーだ。

(シャーロット姫が、気に入ってくれるといいけど。)

婚約破棄を目指しているとはいえ、婚約が続いている間は帝国のために最善を尽くす必要がある。姫を迎えるための祝宴の準備は完璧だ。

今回姫を迎えるのは皇帝ではなく、皇太子とカナリアの二人だ。

「シャーロット姫って、どんな子なんだろね」

「わかりませんわ。友好的にお話しできることを願っております」

「カナリアなら大丈夫だよ」

皇太子と会話を交わしているうちに、姫を迎える時間となった。


姫は顔の下半分を布で隠した状態で二人の前に現れた。真っ黒な長い髪と深紅のドレスの裾が揺れている。その裾は、魚の尾ひれのようにも見えた。

その姿を見て、カナリアの中に浮かんだものは「人魚姫」。前世の記憶の中にあるものだ。

「帝国の太陽となる皇太子と、ロアディン公爵令嬢にご挨拶申し上げます」

姫は二人の前に跪く。伏せた瞼の隙間から見える瞳は燃えるような赤色だった。

「顔を上げて、楽にしていいよ」

アイラッド皇太子は威厳も何もない口調でそう言った。

姫は静かに顔を上げ、カナリアの方を見ようともせず、真っすぐに皇太子を見つめた。

姫と皇太子の目が合った瞬間、皇太子が息をのむのが分かる。

皇太子の目は、異国の姫・シャーロットにくぎ付けであった。


14年間彼をそばで見てきたカナリアははっきりと感じ取った。これがアイラッドの初恋であることを。

そして同時に、シャーロット姫の目元は、東北の強豪ライバル校・野田商業高校のキャッチャー、鮫島鮫太さめじまこうたにそっくりであることにも気が付いた。

鮫島の唯一の弱点が甲殻類アレルギーであることは有名な話だ。

今この瞬間、重大なことが起こっているような気もするが、カナリアにとってはメイン料理のイセエビをどうにかしなければならないことの方が気がかりであった。
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