高校球児は悪役令嬢?!天才野球少年は婚約破棄したいっ!

マキバチャン

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第一部 悪役令嬢ってなんなんですの?!

元天才野球少年はノーコン令嬢?!

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授業を抜け出してカナリアを訪れていたはずの皇太子は、いつの間にかシャーロット姫の元に通うようになっていた。

皇帝が妾を抱えるのは普通のことなので、カナリアという婚約者がいるアイラッド皇太子がシャーロットとの関係を深めることを問題視する者はいない。

婚約破棄をして花蓮さんを探しに行きたいカナリアにとっても都合がいい展開のはずだ。

(…でも、今なら少しだけ、”悪役令嬢”の気持ちがわかりますわ)

もし姫に前世の記憶がなかったら、やらかしていたかもしれない。


「他の男キャラとの接触避けすぎてシナリオが変わってる部分もあったけど、やっとアイラッドとのイベントが発生したぜ」

シャーロット姫が言う”イベント”とは、乙女ゲームのシナリオ通りに進むと発生するものであるらしい。

そのイベントをこなすことによってキャラとの親愛度を上げることができるとのことだ。

シャーロットは順調に皇太子を”攻略”していた。

カナリアはこの世界の元となった(とシャーロットが主張する)”アマヒメ”を知らないので、アイラッドのことをキャラクターとして”攻略”しようとする姫のスタンスには違和感を抱えている。

「あとはカナリア様が僕をいじめたり悪逆の限りを尽くしたりすれば完璧なんだけど」

今日もまた、ロアディン公爵邸でクッキーを貪るシャーロット姫。

「そういえばお前、頭部デッドボールで記憶が戻ったって言ったよな?」

何かひらめいた様子で姫は言う。カナリアは嫌な予感がした。

「え、ええ…体感160km/hの剛速球でしたわ」

「アイラッドにもボールぶつければいいんじゃね?!」

姫の言葉に、カナリアは絶句した。ふ、不敬すぎる…!一国の皇太子に対してわざとデッドボールを当てにいくだなんて。

頭部デッドボールをわざと狙うなんて話、道野龍が聞いても卒倒してしまうだろう。

その相手がまさか、帝国の皇太子とは!

「あ、ありえませんわ…」

「大丈夫だって!カナリア様にボールを当てた犯人に全部なすりつければいいから!」

堂々たる冤罪宣言。気が遠くなる。


絶対にありえないと思っていたはずなのに、わざわざグローブとボールを作り上げてきたシャーロット姫の気迫に負け、カナリアは庭園でボールを握って立っていた。

皇太子殿下にボールをぶつけるかどうかはおいといて、久々に触れる硬球の感触は心地良い。

「よくこんなものを作り上げましたね」

「うちの国は貿易国家だから。商人とのパイプは太い方なんだよな。そこからいい職人につないでもらったってわけ」

前世では幼い頃から毎日ボールやグローブを触ってきたが、いざ作ってみようと思っても詳細な作りを思い出すことは難しい。

シャーロットが持ってきたグローブとボールはかなり精巧で、カナリアにとっては驚きだった。

「さ、投げてみろよ」

パンツスタイルのシャーロットは、立ったままミットを構えて言う。

カナリアも普段より軽やかなドレスを身にまとっている。それでも、動きにくいことに変わりはない。

「16年ぶりの投球だから最初は軽くでいいからな」

ミットを軽く拳でたたいてシャーロットは言う。

カナリアは、まずは肩を慣らすつもりで軽くボールを投げた。

その瞬間、ボールはあらぬ方向へ飛んでいく。

「ひ…久々すぎて感覚が思い出せませんわ」

とっさに出てきたのは言い訳だった。シャーロットは慌ててボールを拾いに行く。

「感覚がどうとかそういう次元じゃないように思えたけど?!」

どうして前方にボールを投げたはずなのに後ろに飛んでいってしまうのだろう。

「た、たまたまですわ。もう一度投げますので、心して捕っていただきますわ」

もう一度投げたボールは、まっすぐ上空に飛んで行った。

ボールが降ってくるのを眺めていたシャーロットは、ぽつりと言った。

「天才は死んだんだな…」

技巧派天才ピッチャー道野龍だったはずのカナリアは、稀代のノーコン令嬢であった。
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