高校球児は悪役令嬢?!天才野球少年は婚約破棄したいっ!

マキバチャン

文字の大きさ
9 / 12
第一部 悪役令嬢ってなんなんですの?!

危険球退場、すなわち処刑

しおりを挟む
ノーコンになってしまったカナリアは、本来の目的も忘れて投球練習に明け暮れていた。

妃教育をサボることはできないので、空き時間に部屋を抜け出しては一人でこそこそとボールを投げる。

道野龍だった時の感覚を思い出し、心を落ち着けて投げても思い通りにいかなかった。

シャーロット姫も呆れながら練習に付き合ってくれた。姫は転生後も幼い頃から練習を重ねていたようで、ボールの扱いには慣れている。

「なんのために投球練習してるのか、もう分かんねーな…」

やれやれとため息をつくシャーロット姫。

「天才としての矜持がありますのっ!」

カナリアの前世である道野龍は、何でも人並み以上にこなすことができた。

幼少期から真剣に取り組んできた野球はもちろん、ほとんど授業を聞いていなかったにも関わらず、勉強だってそれなりにできた。

カナリアとして生まれ変わってからもそれは変わらず、求められることならなんでもできたのだ。

優雅なふるまいも、妃に必要な知識を身に着けることも、美しくあることも…。

カナリアにとってはこれが初めての挫折であった。

それどころか、前世から考えてもまさに生まれて初めての挫折だったのだ。

「絶対に諦められませんわ…」

カナリアがそう言って投げたボールは、またしてもあらぬ方向に飛んでいく。

シャーロット姫はため息をついてボールを探しに行こうとするが、そこで誰かの悲鳴が聞こえた。

「皇子!」

「大変だ!皇子が何者かに襲われた!」

「何かが皇子の頭に…」

「刺客か?!姿を現せ…!」

カナリアとシャーロットは顔を見合わせてごくりと唾をのんだ。

「皇子!目を覚ましてください!」

「早く医者を呼んでくれ!」

皇太子はどうやらカナリアのボールに当たって気を失ったらしい。

「ああ、皇子…」

カナリアは気が遠くなって、そのまま倒れこんでしまった。

その場に残されたのは、シャーロット姫ただ一人。

「あー…なんか、実にやばい状況な気がする」

姫の予想は的中することとなる。

「そこにいるのは誰だ!」

姫は、降参とばかりに首を振り、ミットを外して両手を上げた。


―――――――――――

カナリアが目を覚ましたのは、次の日の夕方だった。

「皇子…!」

がばっと身体を起こしたカナリアは、目覚めと同時に皇子のことを思い浮かべる。

「なんてこと…わたくし、なんてことを…」

「お嬢様!目を覚まされましたか」

侍女が慌てて駆け寄ってきた。そういえば、つい最近にもこんな光景を見た気がする。

ここ最近、気を失いすぎだ。

「アイラッド皇太子は?!ご無事?!」

鬼気迫る様子のカナリアに、侍女は恐怖を浮かべる。

「皇太子殿下は…まだ目を覚まされていません」

「そんな…!」

わたくしが投げたボールが皇太子殿下を死なせてしまうかもしれない。

そう思うと、カナリアの胸は張り裂けそうになる。

「皇太子殿下を襲ったのは、シャーロット姫ではないかと言われています」

「え…?そんな、そんなわけはないわ」

カナリアは状況が分からず、混乱した。

「何者かに襲われた皇太子殿下のそばで、カナリア様は倒れておられました。そしてその近くにいらっしゃったのがシャーロット姫です」

おずおずと侍女は言う。

「違う…違うのよ…皇子にボールを当てたのは…」

「明日の夕方には処刑が行われる予定です」

「えー?!」

カナリアは、この世界に生まれてから初めて大声を出した。

「行かなきゃ!わたくしを姫のところまで案内してちょうだい!」

「お嬢様、その前に身支度を…」

「そんなことどうでもいいわ!何か適当に外に出られる服を出してちょうだい。今すぐ会いに行かなくちゃ…!」

大変なことになってしまった。なぜシャーロット姫が処刑されることになっているのだろう。

処刑の日程もいくらなんでも早すぎる。彼女は何も言っていないの?

とにかく状況を確認しなくては。

カナリアは着替えを済ませ、顔も洗わずに慌てて部屋を飛び出した。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

悪役令嬢の父は売られた喧嘩は徹底的に買うことにした

まるまる⭐️
ファンタジー
【第5回ファンタジーカップにおきまして痛快大逆転賞を頂戴いたしました。応援頂き、本当にありがとうございました】「アルテミス! 其方の様な性根の腐った女はこの私に相応しくない!! よって其方との婚約は、今、この場を持って破棄する!!」 王立学園の卒業生達を祝うための祝賀パーティー。娘の晴れ姿を1目見ようと久しぶりに王都に赴いたワシは、公衆の面前で王太子に婚約破棄される愛する娘の姿を見て愕然とした。 大事な娘を守ろうと飛び出したワシは、王太子と対峙するうちに、この婚約破棄の裏に隠れた黒幕の存在に気が付く。 おのれ。ワシの可愛いアルテミスちゃんの今までの血の滲む様な努力を台無しにしおって……。 ワシの怒りに火がついた。 ところが反撃しようとその黒幕を探るうち、その奥には陰謀と更なる黒幕の存在が……。 乗り掛かった船。ここでやめては男が廃る。売られた喧嘩は徹底的に買おうではないか!! ※※ ファンタジーカップ、折角のお祭りです。遅ればせながら参加してみます。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。 ご都合主義のハッピーエンドのSSです。 でも周りは全くハッピーじゃないです。 小説家になろう様でも投稿しています。

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!

たぬきち25番
恋愛
 気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡ ※マルチエンディングです!! コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m 2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。 楽しんで頂けると幸いです。 ※他サイト様にも掲載中です

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

処理中です...