10 / 12
第一部 悪役令嬢ってなんなんですの?!
皇帝からの呼び出し
しおりを挟む
カナリアはシャーロット姫が捕らえられているという地下牢を訪れるため、皇宮に駆け付けた。
ロアディン公爵家の紋章入りの馬車に乗ってきたため、門番は比較的柔らかに御者に声をかけているようだ。
ほどなくして皇宮の門が開く。そういえば、皇宮を訪れるというのに顔も洗っていないし服も適当だ。
アイラッド皇太子に見られてしまったら少し恥ずかしいな…と考え、それから彼が自分の投げたボールに当たって臥せっていることを思い出す。
どうしてこんなことになってしまったのだろう。
(わたくしがノーコンだから…?)
もちろんそれもある。だが、そもそも自分が婚約破棄を望まなかったら…あの時ボールを投げるのを拒んでいたら。
考えれば考えるほど分からなくなる。一体どうすればよかったのだろう。
馬車を降りたカナリアを出迎えたのは、アイラッドの従者であった。
「カナリア様!目を覚まされたのですね。早速皇太子殿下のお見舞いに来てくださって感謝いたします」
カナリアははっとした。姫が処刑されると聞いて衝撃を受け、正常な思考ができていなかった。
確かに、普通に考えたら意識を失っている皇太子の婚約者が皇宮に来る目的なんて一つだ。
一刻も早く姫の元に行きどうしてこんなことになっているのかを確かめたかったが、ここで皇太子を無視するのもおかしな話だ。
アイラッドの様子も確認したかったし、一度皇太子の元を訪れることに決めた。
アイラッドは思っていたよりもずっと穏やかに眠っていた。
「もうほとんどダメージもありませんし、いつ目を覚ましてもおかしくはないはずなのですが」
医者は不思議そうに言う。
カナリアは自分が倒れたときのことを思い出していた。
彼も前世の記憶を夢でみているのだろうか。
もし彼が観月藍良の記憶を取り戻したら、道野龍であるカナリアとの結婚を嫌がるのだろうか。
全て自分が蒔いた種とはいえ、カナリアは少しだけ悲しくなった。
本来の目的である姫の元へ行こうと席を立つと、皇帝の従者らしい人物がカナリアを訪ねてきて声をかける。
「カナリア様、皇帝陛下がお呼びです。急ではございますが、陛下の執務室までお越しいただけますでしょうか」
「え…陛下が?」
カナリアはどきりとした。多忙な皇帝がカナリアを呼ぶなんて、相当の用事である可能性が高いからだ。
しかもカナリアには、皇帝に呼び出される心当たりがある。
(わたくしがアイラッド殿下にボールをぶつけたとお気づきなのだわ…!)
ある意味ピンチではあるが、シャーロット姫が犯人だという誤解を解くチャンスでもある。
それに、姫の処刑を止められるのは皇帝陛下くらいだ。
カナリアは意を決して従者の後をついていった。
皇帝・ルーナはカナリアの姿を認めると、ペンを置いて優しく微笑んだ。
「いらっしゃい、レディ・カナリア。倒れたと聞いて心配していたけれど、元気そうで何よりだよ」
部屋の中心にある応接用テーブルの前のイスにカナリアを座らせ、皇帝も執務用机の前からカナリアの正面に移動した。
「ありがとうございます。ですが…その、皇太子殿下は…」
「眠ってるようなもんさ。まあ、たまにはゆっくり休ませないとね」
皇帝の呑気な様子に、カナリアは唖然とする。仮にも皇太子が意識不明の重体(?)なのに。
運ばれてきた紅茶を一口飲んだ皇帝は、いつも通りの柔らかな態度で…しかし入念に人払いをして、カナリアに話を切り出した。
「アイラが倒れた原因を作ったのは、レディ・カナリア。君だろう?」
皇帝の言葉に、カナリアの喉がひゅっと音を立てた。
心臓が破裂しそうなほど早鐘をうつ。
答えるべき言葉が見つからずに固まるカナリアに、皇帝は金色の瞳を細めて言う。
「大丈夫だよ、レディ・カナリア。私は最初から知っていた。でも、君を罰する気はない」
知っていた?それではどうして、姫が…。
カナリアが皇帝の顔を見ると、彼はアイラッドによく似た顔で微笑んでいた。
ロアディン公爵家の紋章入りの馬車に乗ってきたため、門番は比較的柔らかに御者に声をかけているようだ。
ほどなくして皇宮の門が開く。そういえば、皇宮を訪れるというのに顔も洗っていないし服も適当だ。
アイラッド皇太子に見られてしまったら少し恥ずかしいな…と考え、それから彼が自分の投げたボールに当たって臥せっていることを思い出す。
どうしてこんなことになってしまったのだろう。
(わたくしがノーコンだから…?)
もちろんそれもある。だが、そもそも自分が婚約破棄を望まなかったら…あの時ボールを投げるのを拒んでいたら。
考えれば考えるほど分からなくなる。一体どうすればよかったのだろう。
馬車を降りたカナリアを出迎えたのは、アイラッドの従者であった。
「カナリア様!目を覚まされたのですね。早速皇太子殿下のお見舞いに来てくださって感謝いたします」
カナリアははっとした。姫が処刑されると聞いて衝撃を受け、正常な思考ができていなかった。
確かに、普通に考えたら意識を失っている皇太子の婚約者が皇宮に来る目的なんて一つだ。
一刻も早く姫の元に行きどうしてこんなことになっているのかを確かめたかったが、ここで皇太子を無視するのもおかしな話だ。
アイラッドの様子も確認したかったし、一度皇太子の元を訪れることに決めた。
アイラッドは思っていたよりもずっと穏やかに眠っていた。
「もうほとんどダメージもありませんし、いつ目を覚ましてもおかしくはないはずなのですが」
医者は不思議そうに言う。
カナリアは自分が倒れたときのことを思い出していた。
彼も前世の記憶を夢でみているのだろうか。
もし彼が観月藍良の記憶を取り戻したら、道野龍であるカナリアとの結婚を嫌がるのだろうか。
全て自分が蒔いた種とはいえ、カナリアは少しだけ悲しくなった。
本来の目的である姫の元へ行こうと席を立つと、皇帝の従者らしい人物がカナリアを訪ねてきて声をかける。
「カナリア様、皇帝陛下がお呼びです。急ではございますが、陛下の執務室までお越しいただけますでしょうか」
「え…陛下が?」
カナリアはどきりとした。多忙な皇帝がカナリアを呼ぶなんて、相当の用事である可能性が高いからだ。
しかもカナリアには、皇帝に呼び出される心当たりがある。
(わたくしがアイラッド殿下にボールをぶつけたとお気づきなのだわ…!)
ある意味ピンチではあるが、シャーロット姫が犯人だという誤解を解くチャンスでもある。
それに、姫の処刑を止められるのは皇帝陛下くらいだ。
カナリアは意を決して従者の後をついていった。
皇帝・ルーナはカナリアの姿を認めると、ペンを置いて優しく微笑んだ。
「いらっしゃい、レディ・カナリア。倒れたと聞いて心配していたけれど、元気そうで何よりだよ」
部屋の中心にある応接用テーブルの前のイスにカナリアを座らせ、皇帝も執務用机の前からカナリアの正面に移動した。
「ありがとうございます。ですが…その、皇太子殿下は…」
「眠ってるようなもんさ。まあ、たまにはゆっくり休ませないとね」
皇帝の呑気な様子に、カナリアは唖然とする。仮にも皇太子が意識不明の重体(?)なのに。
運ばれてきた紅茶を一口飲んだ皇帝は、いつも通りの柔らかな態度で…しかし入念に人払いをして、カナリアに話を切り出した。
「アイラが倒れた原因を作ったのは、レディ・カナリア。君だろう?」
皇帝の言葉に、カナリアの喉がひゅっと音を立てた。
心臓が破裂しそうなほど早鐘をうつ。
答えるべき言葉が見つからずに固まるカナリアに、皇帝は金色の瞳を細めて言う。
「大丈夫だよ、レディ・カナリア。私は最初から知っていた。でも、君を罰する気はない」
知っていた?それではどうして、姫が…。
カナリアが皇帝の顔を見ると、彼はアイラッドによく似た顔で微笑んでいた。
0
あなたにおすすめの小説
一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。
悪役令嬢の父は売られた喧嘩は徹底的に買うことにした
まるまる⭐️
ファンタジー
【第5回ファンタジーカップにおきまして痛快大逆転賞を頂戴いたしました。応援頂き、本当にありがとうございました】「アルテミス! 其方の様な性根の腐った女はこの私に相応しくない!! よって其方との婚約は、今、この場を持って破棄する!!」
王立学園の卒業生達を祝うための祝賀パーティー。娘の晴れ姿を1目見ようと久しぶりに王都に赴いたワシは、公衆の面前で王太子に婚約破棄される愛する娘の姿を見て愕然とした。
大事な娘を守ろうと飛び出したワシは、王太子と対峙するうちに、この婚約破棄の裏に隠れた黒幕の存在に気が付く。
おのれ。ワシの可愛いアルテミスちゃんの今までの血の滲む様な努力を台無しにしおって……。
ワシの怒りに火がついた。
ところが反撃しようとその黒幕を探るうち、その奥には陰謀と更なる黒幕の存在が……。
乗り掛かった船。ここでやめては男が廃る。売られた喧嘩は徹底的に買おうではないか!!
※※ ファンタジーカップ、折角のお祭りです。遅ればせながら参加してみます。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた
下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。
ご都合主義のハッピーエンドのSSです。
でも周りは全くハッピーじゃないです。
小説家になろう様でも投稿しています。
貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ
凜
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます!
貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。
前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!
たぬきち25番
恋愛
気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡
※マルチエンディングです!!
コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m
2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。
楽しんで頂けると幸いです。
※他サイト様にも掲載中です
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる