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第一部 悪役令嬢ってなんなんですの?!
皇帝の思惑
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「さすがに驚いたみたいだね」
カナリアの罪を何食わぬ顔で指摘した皇帝はそう言いながら、自ら彼女の紅茶に角砂糖を入れる。
「レディ・カナリアは甘い紅茶が好きだったよね。これ飲んで落ち着きなよ」
皇帝の言葉が全く耳に入ってこないながらも、彼の勧めは断れず、震える手で一口紅茶を飲んだ。
「陛下、どうして…」
「どうして気付いたのかって?」
「いえ…どうして、シャーロット姫が」
カナリアの言葉に、皇帝は無邪気な顔で「そっちかあ」とつぶやいた。
「私はね、未来の皇后は君しかいないと思っているんだ」
光栄なことを言われているはずなのに、恐怖を感じるのはどうしてだろう。
花蓮さんのために婚約破棄しなければならないという思いがあるのを抜きにしても、何故か怖い。
「龍の加護持ちと言われている君が皇后になれば、この国はいくらでも強くなれる。神の力ではなく、私たちの力でね」
龍の加護…?そうだ、最近いろいろなことがありすぎて忘れていた。
そもそもカナリアが皇太子の婚約者に選ばれたのは、蒙古斑…もとい、腰にある双翼に似たアザのおかげだった。
そのアザがあるからこそ、龍の加護を持つ令嬢として未来の皇后となることが決められたのだ。
龍の加護を持つ者が皇后になれば、この国はさらなる繁栄を得ることができる…そしてそれは領土を広げること。
その伝説があったから、タブーであったはずの帝国最大の公爵家と皇族の結婚が認められた。
「私はアイラの代でこの国をもっと大きくしたい。だからイオラニ…公爵家の娘に特徴的なアザがあることを聞いた時、絶対に君を次期皇后にしようと思ったんだ。龍の加護がどういう形で現れるのかなんて知らなかったけれど」
幼い頃から不思議に思っていた。背中のアザが龍の加護の証明だなんてどこにも書いていなかったから。
「わたくしは…加護持ちではないのですか?」
「さあ。本当に加護を持ってるかもしれないよね。君たちの一族はそれがあってもおかしくない」
悪びれもせずに皇帝は言う。線が細く、顔立ちも幼いせいか父・イオラニと同年代とは思えない。
彼は無邪気な子供のように言葉を続けた。
「アイラは本当に分かりやすい子だよね。おかげで対処がしやすいよ」
シャーロット姫を見つめる皇太子の横顔を思い出す。
本当に彼は分かりやすい。恋に落ちた瞬間がはっきりとわかった。
「対処…つまり、姫を処刑するというのは陛下の思し召しなのですか」
カナリアの言葉に、皇帝はにこりと笑う。
「やっと分かってくれたんだね。私は真犯人を罰したいわけじゃない。レディ・カナリアがどうしてこんなものを持っていたのかは分からないけれど」
皇帝はいつの間にか、シャーロット姫が作った硬球を握っていた。
「アイラが寝ている間に決着をつけなくてはね」
なんてこと。ずっと優しい人だと思っていた皇帝陛下にこんな一面があったなんて。
なんとかして処刑を阻止しなければならない。
「ですが陛下…彼女は海底王国の姫です。処刑などしたら、国際問題に…」
「どうせ潰すつもりの国だ」
カナリアはぞっとした。領土を広げるということは、戦争をするということ。
(わたくしが皇后になったら、この国は多くの国と戦争をするということ…?)
大変な事実を知ってしまった。これはもう、花蓮さんがどうとか以前に婚約破棄をしなければならない。
この世界の平和のために…。
カナリアは、道野龍だったころに見た戦争もののアニメ映画のことを思い出していた。
妹が死ぬシーンで嗚咽して泣いていたら母が心配して部屋に入ってきてすごく恥ずかしかったのを覚えている。
しかし今は、婚約破棄とか戦争阻止とかよりも、とにかく処刑をやめさせなければならない。
「姫を処刑するというのなら、皇太子殿下に今の話を洗いざらいぶちまけますわ」
「じゃあ、処刑をやめたら龍の聖女として皇后になってくれる?」
「もちろんですわ」
即答してみせたカナリアに、皇帝は晴れやかな笑みを見せる。
「じゃあ、処刑やめるね!最近レディ・カナリアったら妙なこと考えてるみたいだったし、姫みたいなライバルキャラが出てきても黙ってるし…結婚したくないのかなって不安になっちゃったんだよね」
「へ、陛下…?」
まさかはめられた?というか、婚約破棄しようとしていたことがばれていた?
皇帝と皇太子の見た目はよく似ている。
だが、彼らの性格は全く違うようだ。
カナリアの罪を何食わぬ顔で指摘した皇帝はそう言いながら、自ら彼女の紅茶に角砂糖を入れる。
「レディ・カナリアは甘い紅茶が好きだったよね。これ飲んで落ち着きなよ」
皇帝の言葉が全く耳に入ってこないながらも、彼の勧めは断れず、震える手で一口紅茶を飲んだ。
「陛下、どうして…」
「どうして気付いたのかって?」
「いえ…どうして、シャーロット姫が」
カナリアの言葉に、皇帝は無邪気な顔で「そっちかあ」とつぶやいた。
「私はね、未来の皇后は君しかいないと思っているんだ」
光栄なことを言われているはずなのに、恐怖を感じるのはどうしてだろう。
花蓮さんのために婚約破棄しなければならないという思いがあるのを抜きにしても、何故か怖い。
「龍の加護持ちと言われている君が皇后になれば、この国はいくらでも強くなれる。神の力ではなく、私たちの力でね」
龍の加護…?そうだ、最近いろいろなことがありすぎて忘れていた。
そもそもカナリアが皇太子の婚約者に選ばれたのは、蒙古斑…もとい、腰にある双翼に似たアザのおかげだった。
そのアザがあるからこそ、龍の加護を持つ令嬢として未来の皇后となることが決められたのだ。
龍の加護を持つ者が皇后になれば、この国はさらなる繁栄を得ることができる…そしてそれは領土を広げること。
その伝説があったから、タブーであったはずの帝国最大の公爵家と皇族の結婚が認められた。
「私はアイラの代でこの国をもっと大きくしたい。だからイオラニ…公爵家の娘に特徴的なアザがあることを聞いた時、絶対に君を次期皇后にしようと思ったんだ。龍の加護がどういう形で現れるのかなんて知らなかったけれど」
幼い頃から不思議に思っていた。背中のアザが龍の加護の証明だなんてどこにも書いていなかったから。
「わたくしは…加護持ちではないのですか?」
「さあ。本当に加護を持ってるかもしれないよね。君たちの一族はそれがあってもおかしくない」
悪びれもせずに皇帝は言う。線が細く、顔立ちも幼いせいか父・イオラニと同年代とは思えない。
彼は無邪気な子供のように言葉を続けた。
「アイラは本当に分かりやすい子だよね。おかげで対処がしやすいよ」
シャーロット姫を見つめる皇太子の横顔を思い出す。
本当に彼は分かりやすい。恋に落ちた瞬間がはっきりとわかった。
「対処…つまり、姫を処刑するというのは陛下の思し召しなのですか」
カナリアの言葉に、皇帝はにこりと笑う。
「やっと分かってくれたんだね。私は真犯人を罰したいわけじゃない。レディ・カナリアがどうしてこんなものを持っていたのかは分からないけれど」
皇帝はいつの間にか、シャーロット姫が作った硬球を握っていた。
「アイラが寝ている間に決着をつけなくてはね」
なんてこと。ずっと優しい人だと思っていた皇帝陛下にこんな一面があったなんて。
なんとかして処刑を阻止しなければならない。
「ですが陛下…彼女は海底王国の姫です。処刑などしたら、国際問題に…」
「どうせ潰すつもりの国だ」
カナリアはぞっとした。領土を広げるということは、戦争をするということ。
(わたくしが皇后になったら、この国は多くの国と戦争をするということ…?)
大変な事実を知ってしまった。これはもう、花蓮さんがどうとか以前に婚約破棄をしなければならない。
この世界の平和のために…。
カナリアは、道野龍だったころに見た戦争もののアニメ映画のことを思い出していた。
妹が死ぬシーンで嗚咽して泣いていたら母が心配して部屋に入ってきてすごく恥ずかしかったのを覚えている。
しかし今は、婚約破棄とか戦争阻止とかよりも、とにかく処刑をやめさせなければならない。
「姫を処刑するというのなら、皇太子殿下に今の話を洗いざらいぶちまけますわ」
「じゃあ、処刑をやめたら龍の聖女として皇后になってくれる?」
「もちろんですわ」
即答してみせたカナリアに、皇帝は晴れやかな笑みを見せる。
「じゃあ、処刑やめるね!最近レディ・カナリアったら妙なこと考えてるみたいだったし、姫みたいなライバルキャラが出てきても黙ってるし…結婚したくないのかなって不安になっちゃったんだよね」
「へ、陛下…?」
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