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第一部 悪役令嬢ってなんなんですの?!
焦っていたのは、わたくしだけでした
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「姫は客間にいるよ」
カナリアから満足のいく回答を引き出せたらしい皇帝は一言、そう言った。
「客間…?捕らえられているのでは?処刑は…」
「いやだなあ、他国の姫だよ。そんなことするわけないじゃない」
さっきはそんなこと気にしないって言ってましたよね?!
「そ、そ、そうですか…」
「滅多に動じないレディ・カナリアがオロオロする姿もなかなか可愛いね。アイラにも見せてあげたいよ」
完全に遊ばれている。この人は一体どういうつもりなのだろう?
この皇帝からどうしたらあの純朴なアイラッド皇太子が生まれるのだろうか。
実は皇太子にも裏があるのかもしれない。考えたくはないけれど。
「まあでも…レディ・カナリアが妙な真似をするようなら邪魔者である姫を消すのも一つの手かなと思ってたのは事実だけどね」
他国の姫の命を軽視しすぎである。この国の皇帝陛下は思っていた以上に恐ろしい人間なのかもしれない。
カナリアの父であるロアディン公爵があまりにものほほんとしているため、皇帝陛下も同じようなタイプの人間だと勝手に思い込んでいた。
「会いに行ってあげなよ。事件以来、この城の外に出してあげてないからそろそろ退屈してるだろうし。積もる話もあるだろうしね」
皇帝は侍従を呼び寄せ、カナリアを客間まで案内させた。
「おー、目覚めたか」
姫はのんきにクッキーを食べていた。とても処刑されると聞かされていたようには見えない。
「先ほどまで姫が処刑されると思って焦っていたのが馬鹿らしくなりますわ…」
「僕も焦ったわ~」
いや、知ってたのかよ。知っててクッキーを貪るとは、随分と肝が据わっている。
「シナリオにない話だったからまじで焦ったわ。ゲームと展開が違いすぎるんだよなあ」
そりゃそうだろう。乙女ゲーム?の公爵令嬢が硬球を投げるシーンなんてあるはずがない。
「焦ったという割には呑気に見えますね」
「この世界で死んだとしてもまた転生できそうじゃん。シャーロットとしての生にそれほど未練があるわけでもないし」
姫の言葉は、カナリアにとっては驚くべきものだった。
前世の記憶を持たず、カナリアとして生きてきた時間が長い彼女にとってこの世界での死はとても恐ろしい。
一方のシャーロット姫は生まれたときから前世の記憶を持ち、「二回目」の人生であるという自覚を強く抱いて生きてきたので、カナリアとは考え方が全く違うようだ。
「わたくしは姫に死んでもらいたくないですわ」
カナリアの言葉に、シャーロット姫はぱちくりと瞼を瞬いた。
「お前、意外と優しいんだな。インタビュー記事とか見て自分以外に興味のない傲慢な奴だと思ってたよ」
インタビュー記事、と言うからには前世の道野龍のことを指しているのだろう。
道野龍だったころから、自分なりに精一杯周りのことを考えてきたつもりだ。それが十分であったかどうかは別として。
現に今回も、自分が皇太子と結婚することで戦争が起こるかもしれないと心を痛めて…
「…はっ」
「どうした?」
「早く婚約破棄をしないと、戦争が起こって花蓮さんが戦火の中に消えてしまう…!」
カナリアの言葉に、シャーロット姫は明らかに怪訝な顔をした。
「何言ってるんだ、お前」
「皇帝陛下は戦争をするつもりなのですわ。冗談だったかもしれませんが…」
姫は顔をしかめて、それからもう一度「何言ってるんだ、お前」と繰り返す。
カナリアが先ほどの皇帝の話を伝えようとしたところで、部屋のドアがノックされた。
ドアの向こうにいたのは皇太子の侍従であった。
「皇太子殿下が目を覚まされました」
「ほんとう?!」
カナリアは、すぐに会いに行こう!と立ち上がったが、直後に適当な恰好で城を訪れていたことを思い出す。
自慢の縦ロールもいつもよりゆる巻きだ。こんな姿で皇太子に会うなんて…。
でも、目が覚めたのならやはり会いたい。
まずはボールをぶつけたことを謝ろう。
カナリアはそう決めて、皇太子の部屋へと向かった。
カナリアから満足のいく回答を引き出せたらしい皇帝は一言、そう言った。
「客間…?捕らえられているのでは?処刑は…」
「いやだなあ、他国の姫だよ。そんなことするわけないじゃない」
さっきはそんなこと気にしないって言ってましたよね?!
「そ、そ、そうですか…」
「滅多に動じないレディ・カナリアがオロオロする姿もなかなか可愛いね。アイラにも見せてあげたいよ」
完全に遊ばれている。この人は一体どういうつもりなのだろう?
この皇帝からどうしたらあの純朴なアイラッド皇太子が生まれるのだろうか。
実は皇太子にも裏があるのかもしれない。考えたくはないけれど。
「まあでも…レディ・カナリアが妙な真似をするようなら邪魔者である姫を消すのも一つの手かなと思ってたのは事実だけどね」
他国の姫の命を軽視しすぎである。この国の皇帝陛下は思っていた以上に恐ろしい人間なのかもしれない。
カナリアの父であるロアディン公爵があまりにものほほんとしているため、皇帝陛下も同じようなタイプの人間だと勝手に思い込んでいた。
「会いに行ってあげなよ。事件以来、この城の外に出してあげてないからそろそろ退屈してるだろうし。積もる話もあるだろうしね」
皇帝は侍従を呼び寄せ、カナリアを客間まで案内させた。
「おー、目覚めたか」
姫はのんきにクッキーを食べていた。とても処刑されると聞かされていたようには見えない。
「先ほどまで姫が処刑されると思って焦っていたのが馬鹿らしくなりますわ…」
「僕も焦ったわ~」
いや、知ってたのかよ。知っててクッキーを貪るとは、随分と肝が据わっている。
「シナリオにない話だったからまじで焦ったわ。ゲームと展開が違いすぎるんだよなあ」
そりゃそうだろう。乙女ゲーム?の公爵令嬢が硬球を投げるシーンなんてあるはずがない。
「焦ったという割には呑気に見えますね」
「この世界で死んだとしてもまた転生できそうじゃん。シャーロットとしての生にそれほど未練があるわけでもないし」
姫の言葉は、カナリアにとっては驚くべきものだった。
前世の記憶を持たず、カナリアとして生きてきた時間が長い彼女にとってこの世界での死はとても恐ろしい。
一方のシャーロット姫は生まれたときから前世の記憶を持ち、「二回目」の人生であるという自覚を強く抱いて生きてきたので、カナリアとは考え方が全く違うようだ。
「わたくしは姫に死んでもらいたくないですわ」
カナリアの言葉に、シャーロット姫はぱちくりと瞼を瞬いた。
「お前、意外と優しいんだな。インタビュー記事とか見て自分以外に興味のない傲慢な奴だと思ってたよ」
インタビュー記事、と言うからには前世の道野龍のことを指しているのだろう。
道野龍だったころから、自分なりに精一杯周りのことを考えてきたつもりだ。それが十分であったかどうかは別として。
現に今回も、自分が皇太子と結婚することで戦争が起こるかもしれないと心を痛めて…
「…はっ」
「どうした?」
「早く婚約破棄をしないと、戦争が起こって花蓮さんが戦火の中に消えてしまう…!」
カナリアの言葉に、シャーロット姫は明らかに怪訝な顔をした。
「何言ってるんだ、お前」
「皇帝陛下は戦争をするつもりなのですわ。冗談だったかもしれませんが…」
姫は顔をしかめて、それからもう一度「何言ってるんだ、お前」と繰り返す。
カナリアが先ほどの皇帝の話を伝えようとしたところで、部屋のドアがノックされた。
ドアの向こうにいたのは皇太子の侍従であった。
「皇太子殿下が目を覚まされました」
「ほんとう?!」
カナリアは、すぐに会いに行こう!と立ち上がったが、直後に適当な恰好で城を訪れていたことを思い出す。
自慢の縦ロールもいつもよりゆる巻きだ。こんな姿で皇太子に会うなんて…。
でも、目が覚めたのならやはり会いたい。
まずはボールをぶつけたことを謝ろう。
カナリアはそう決めて、皇太子の部屋へと向かった。
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