過負荷

硯羽未

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第11話 初めてのキス

11-2

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 家具付きのこの部屋は、ベッドが一つしかない。
 壱流の名義で借りている部屋だが、病み上がりの人間にベッドの使用権は譲って、自分はラグを敷いたフローリングの上に寝ている。
 竜司が退院してから半月ほど経過していたが、それからの習慣で床に枕を置いて転がろうとしたら、止められた。

「床じゃ、体休まらないんじゃねえの」
 一応厚手のラグは敷いてあるが、マットレスなどではない。
 結構点々と移動していたので大荷物は極力作らないようにしているのだ。確かにちょっと痛いが、布団にくるまればそうでもなかった。
 竜司が唇の端で笑って、ぽんぽんとベッドを軽く叩いた。

「一緒に寝ればいいんじゃね」
「ええ? それはちょっと……」
 昼間よくわからない流れでキスをされたばかりだったし、それでなくてもこのベッドは男二人で寝るには狭い。ぴったりくっついて寝ないと、多分寝ている間に床に落ちる。

「いいから」
「や、でも。……って、うわ」
 腕を掴まれて、半ば強引にベッドに引っ張り込まれる。そのあとすぐに床に落ちていた壱流愛用の枕を拾い上げ、竜司は自分の隣に設置した。
(わあ、何この展開)
 困った。
 ベッドの上というだけで、雑魚寝だと思えば良い。そうも考えたが、やはり対応に困る。困惑している壱流の目をじっと見つめ、
「黒飴」
 意味不明のことを竜司が呟いた。

「えっ?」
「黒飴みてえ。壱流の目。真っ黒で綺麗だな。……だけどなんでそんな困った顔で俺を見るんだ? ずっと一緒だったんだろ? こうゆうの、なかったのか」
「こ……ゆうのって?」
 ちょっと口元をひきつらせた壱流は、自分の身に今まで出たことのない警戒警報が発令しているのに気づいた。
「ま、待て待てっ。竜司っストップ! こういうのは、なかった! 皆無でしたっ」

 ぎゅう、と抱き締められていた。
 大きな体の下に抱き込まれ、ギタリストの器用な指先が、壱流の黒髪を梳いた。
「じゃあ、欲情した時ってどうしたら?」
「……いやそんなこと聞かれても」
「壱流がずっと傍にいるのに、何もなかったなんて俺には信じられない。俺ってそんなにストイックだったのか?」
 混乱している壱流の唇に、昼間されたのと同じように、軽くキスが落とされた。

(よ……欲情された……なんで)
 仮定として考えていた問題をいきなり目の前に突きつけられてしまった壱流は、ここで無理だと突っぱねるべきか、それとも観念して受け入れるべきか、迷っていた。
 迷うなんて、どうかしてた。
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