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第17話 旧知
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「ギ……ギターは亜樹乃が弾いてるんだよな? あいつ元気?」
「あんた妹でしょーが。何他人事みたいに聞いてんだか」
「そうなんだけど」
実家に戻っても、亜樹乃のいる時間帯ではなかったので一度も顔を合わせていなかった。
そもそも亜樹乃が竜司を振ったりしなければ、放浪の旅なんてものに出ることもなく、記憶をなくすことも、更には妙な関係になることもなかった。二人になったのは後悔していないが、それを思うと妹に対し理不尽だとは知りつつも、もやもやとしたものが湧いて来る。
責任転嫁だと、わかってはいる。
「まあ普通に元気だけど。イッチーは? こっち帰ってきてんならさあ、連絡一本寄越してもいんじゃねえの」
別に怒っているわけではない、静かな表情で懐が軽く言った。
「……色々あってさ。余裕、なくて」
「深い事情ってなによ。竜ちゃんのあの妙なマ?」
不自然だった竜司の態度についてツッコミが入り、壱流はまた沈黙する。言ってよいものか、迷う。しかし招かれざる客だと思わせたままにしておくのも良くないし、とか考えていたら、懐が煙草を揉み消して、壱流をじっと見た。
「……イッチー。なんか色っぽくなってねえ?」
「はっ?」
「前からイロオトコだよなあとは思ってたけどさ、なんかちょっと見ないうちに艶が出たっつーか。ワックスでもかけたか」
「変わんないよ別に」
変わったつもりは、ない。
しかし、もしそう見えているのだとしたら、思い当たる節はある。欲求不満なのだ。出かけ間際に中途半端なところで止められて、最後まではしてくれなかった。ちょっとだけ、と言った竜司は、意地悪にも途中で壱流を放置プレイへと追い込み、燻ったままの体で早めの夕食を摂りに出かける羽目になった。
さすがにもう落ち着いたけど、と考えて、こんなにも竜司のやることに踊らされている自分にふと気づく。
(最後までしてほしかった……みたいじゃん)
無意識に、目が潤む。
「やっぱ駆け落ちだった?」
「──違うって。大体竜司は、亜樹乃に振られたからって、凹んでやめたんだよ? 聞いてないか?」
「それは初耳。……でも、ふうん、そうなの。そりゃまた無謀な」
「無謀ってなんだよ。竜司じゃ力不足ってわけでもないだろ? あいつ、いい男だと思うよ俺は?」
ついむきになった壱流に、懐は困ったように笑って、また煙草に火を点けた。
「駄目だよ。あいつ女の子にしか興味ないもん」
「……え」
「知らなかった? じゃあ、今のなし」
なし、とか言われてもなしには出来ない。
実の妹だが、そんなことは知らなかった。そういうことを話すほど、仲良し兄妹というわけではない。それで無謀なのか。壱流は虚しくなって首を項垂れた。
(えー……でも、じゃあ、俺長男だしなあ……)
自分が竜司とこんなふうになってしまったので、家のことは亜樹乃に婿でも取って貰ってお任せしよう、とかうっすら考えていた壱流は、それがどうも難しい問題だという考えに至る。けれど竜司を放っておくわけにもいかず、どうしたものかと悩んだ。
(この若さで一応家のこと考えちゃうあたり、俺って結構無責任でもないのかも)
そんなことを思ったが、今そのことについて考えるのはやめた。
先なんて見えない。
明日のこともわからない。
「あんた妹でしょーが。何他人事みたいに聞いてんだか」
「そうなんだけど」
実家に戻っても、亜樹乃のいる時間帯ではなかったので一度も顔を合わせていなかった。
そもそも亜樹乃が竜司を振ったりしなければ、放浪の旅なんてものに出ることもなく、記憶をなくすことも、更には妙な関係になることもなかった。二人になったのは後悔していないが、それを思うと妹に対し理不尽だとは知りつつも、もやもやとしたものが湧いて来る。
責任転嫁だと、わかってはいる。
「まあ普通に元気だけど。イッチーは? こっち帰ってきてんならさあ、連絡一本寄越してもいんじゃねえの」
別に怒っているわけではない、静かな表情で懐が軽く言った。
「……色々あってさ。余裕、なくて」
「深い事情ってなによ。竜ちゃんのあの妙なマ?」
不自然だった竜司の態度についてツッコミが入り、壱流はまた沈黙する。言ってよいものか、迷う。しかし招かれざる客だと思わせたままにしておくのも良くないし、とか考えていたら、懐が煙草を揉み消して、壱流をじっと見た。
「……イッチー。なんか色っぽくなってねえ?」
「はっ?」
「前からイロオトコだよなあとは思ってたけどさ、なんかちょっと見ないうちに艶が出たっつーか。ワックスでもかけたか」
「変わんないよ別に」
変わったつもりは、ない。
しかし、もしそう見えているのだとしたら、思い当たる節はある。欲求不満なのだ。出かけ間際に中途半端なところで止められて、最後まではしてくれなかった。ちょっとだけ、と言った竜司は、意地悪にも途中で壱流を放置プレイへと追い込み、燻ったままの体で早めの夕食を摂りに出かける羽目になった。
さすがにもう落ち着いたけど、と考えて、こんなにも竜司のやることに踊らされている自分にふと気づく。
(最後までしてほしかった……みたいじゃん)
無意識に、目が潤む。
「やっぱ駆け落ちだった?」
「──違うって。大体竜司は、亜樹乃に振られたからって、凹んでやめたんだよ? 聞いてないか?」
「それは初耳。……でも、ふうん、そうなの。そりゃまた無謀な」
「無謀ってなんだよ。竜司じゃ力不足ってわけでもないだろ? あいつ、いい男だと思うよ俺は?」
ついむきになった壱流に、懐は困ったように笑って、また煙草に火を点けた。
「駄目だよ。あいつ女の子にしか興味ないもん」
「……え」
「知らなかった? じゃあ、今のなし」
なし、とか言われてもなしには出来ない。
実の妹だが、そんなことは知らなかった。そういうことを話すほど、仲良し兄妹というわけではない。それで無謀なのか。壱流は虚しくなって首を項垂れた。
(えー……でも、じゃあ、俺長男だしなあ……)
自分が竜司とこんなふうになってしまったので、家のことは亜樹乃に婿でも取って貰ってお任せしよう、とかうっすら考えていた壱流は、それがどうも難しい問題だという考えに至る。けれど竜司を放っておくわけにもいかず、どうしたものかと悩んだ。
(この若さで一応家のこと考えちゃうあたり、俺って結構無責任でもないのかも)
そんなことを思ったが、今そのことについて考えるのはやめた。
先なんて見えない。
明日のこともわからない。
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