異形頭のデルフィニウム

硯羽未

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第9話 生首の本体

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 ぎしぎしと揺れるベッドの上で、冷蔵庫から出てきた首だけのDが僕を見つめる。相変わらず何も言わなかったが、その視線は僕に何かを訴えかけているように思えてならなかった。
 アサトが時折、生首の頭を持ち上げ愛でるように唇で美しい顔をなぞった。無個性で静謐な美をたたえたDは何かに似ている。しばらく考えて、ああこれはまるで美術館で見た彫刻のようだと気づく。作り物じみていて、生々しさが薄い。そう考えたら首だけでもあまり違和感がなくなってくる。

「ほら、こいつを可愛がってやってくれ」
 このセリフが僕に向けたものではなく、生首に対してだったのには正直ドン引きした。首だけとは言え相手はDだ。何が起こるかわからないのに、アサトは僕の股間に生首をそっとあてがった。身が縮こまる思いだった。

「ちょ……アサト正気か」
「変わった3Pだろ。俺はミチルにご奉仕されて、生首はミチルにご奉仕する。なかなか出来る経験じゃない。生きとくもんだなあ」
 生首は急に目の前に現れた僕をどう思ったか、アサトに言われるがままにその薄い唇で飲み込むように咥え込んだ。冷蔵庫から出され解凍された首はまだ芯がひんやりとしていたが、蠢く舌が僕を包み込み、すんなりと快楽へと押しやる。

「なあに、気にするな……これはいわば自慰のようなものさ。ほら、Dを優しく持っててやれ。優しく、丁寧にな」
「……このDにも、名前はあるのかな」
「まあ、あるんだろうな」
「名前、聞かなかったのか……っ?」
「さぁ……どうだったか」
 アサトは暗いコンテナの部屋で薄く笑い、生首を抱えさせると体勢を変えて僕を後ろから覆い隠すように抱き込んだ。

 アサトの逞しい体が僕を抱く。Dのこともこうやって抱いたのかと思ったらもやもやした。けれど気持ちとは裏腹に、僕自身がこれまでになく熱を持っているのに気づく。
 まるで恋人を寝取られるのが趣味の、特殊属性を持つ人間の思考回路にも似ていた。

「頑張ったミチルに、たっぷりご褒美をやるからなぁ」
「……ご褒美……ねえ……」
「好きだろ」
「──好きだけど」

 アサトが言わんとしている意味合いと、僕の「好き」は多分食い違っている。僕のそれは、アサト本人に向けた感情だった。多分正確には伝わっていないのだろうと知っていたが、それで良かった。
 本当の意味で、好きなどとは言わない。アサトに惹かれているなんて知られたところで、無意味だ。どこかに引け目を感じている自分に気づいていた。
 ふと目を瞑りたくなったが、このモノアイは瞼がないので閉じることが出来ない。

 後ろから突き上げるアサトの体温は、まるで何かと戦っているかのような荒々しさで、僕は翻弄されるしかなかった。
 言葉にならない、ざらざらとした声が漏れる。変わった見た目の僕を、よくも抱く気になれるのが不思議だ。相手の容姿はあまり気にしない男なのかもしれない。抱き心地が良ければそれで充分。

 昼間話していた科白がうっすら浮かんだ。
 Dはアサトの無茶な要求にも耐え得ると言ったが、僕だってかなり耐えているのだ。抱き壊されてしまうかと不安を覚えたことは一度や二度ではない。アサトは僕をなんだと思っているのか。
 ……ただ、実際に壊されてしまうなんてことはなかった。
 僕はこれまでも普通に、アサトの要求に応じてきた。その中で一度たりとも困った事態に陥ったことはない。初めてこの身を開いた夜も、僕はアサトをあっさり受け入れた。慣れていたわけもないのに。
 どろどろの蜜が詰まったこの体が、温かい内臓がアサトを飲み込む。僕を抱いたアサトはもう他の誰にも満足は出来ない。それほどの快楽。

「気持ちいいか、ミチル」
 アサトの声が遠く響く。頭がぼんやりとしてくる。

 僕は、
 僕は、
 僕は、
 
 思考がバグってきて、何も考えられなくなる。
 この生首の本体はどこにある?
 この生首の心はどこにある?
 アサトが抱いたのはどのDだ?

「──ミチル?」
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