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銀狐の章
第032話「晩御飯はカレー也」
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みんなで取りかかったこともあるだろうが、思いの外早い時間でカレーは完成した。
ちょっと多めに作ったのでしばらくはカレーが続くだろう。
食卓にご飯を盛りつけた皿を広げる。
「お主様、そういえばさっき【にゅーす】で言っておったのじゃが……」
配膳をしながらシェンが語りかけてきた。
「この近所で男を持った包丁が家に押しかけて金品を奪っておると言っておったぞ」
「へえ……」
スゲエ。新手の妖怪だろうか。
まあいい。男を持った包丁だろうが包丁を持った男だろうがどちらもあまり大差ない。
「そうか、戸締りとか気を付けないとな」
ニュースになっているくらいだ。警察も動いているだろう。
「大丈夫なのじゃ、我様がいれば問題ないのじゃ」
シェンが自信満々で胸を張った。
「………………」
あーちゃん先輩は何か言いたげな顔をしていたが、あきらめたように「ふっ」と笑うと何事もなかったかのようにコップに水を注いでいる。
オレが座ると当然とばかりにシェンが右隣に座った。
あーちゃん先輩は負けじと左隣に座る。
「ほほう」
「ふふん」
シェンとあーちゃん先輩が互いににらみ合う。
「先程は調理を教えてもらった手前、今回だけは譲ってやるが、次はこうはいかんぞ小娘」
「あらあらシェンちゃん。嫉妬はよくないわ」
あーちゃん先輩がオレの左腕に抱きついてきた。
ふんわりとした感触がオレの腕に伝わってくる。
これは――大きめの肉まんのような柔らかさと質量を持った何か――だ。
無心だ。無心になるんだオレ。
「嫉妬ではないぞ」
右腕には慎ましく柔らかい感触が伝わってきた。
これも――何もないようでしかし今は発展途上なのでこれからが楽しみになって――いやいかん。邪念がオレを侵食し始めている。
脳裏に今朝方に見たピンクの蕾がちらついた。
――これは……精神汚染だ。じわじわと始まっているに違いない。
二人共ワザとやっているだろうか。
きっとそうだ。オレの反応を楽しんでいるに違いない。
「我様とお主様は【そーしそーあい】なのじゃ」
オレに顔を近づけてシェンが叫ぶ。
顔が近い。息がほほをなでる。
「えっ?」
オレの知らない単語だ。きっと漢字では【相死相殺】と書くのだ。相手の思いを無視して下手をすれば殺してくるような相手の事だろう。
「そういうことなら、私も負けてないわ」
あーちゃん先輩の顔が真横に迫る。
「モー君とはこれから二人で愛を育んでいくのよ♡」
耳元でオレの知らない人生設計を勝手に語りだすあーちゃん先輩。
「え……っと……」
二人の顔に挟まれオレは動けなくなった。
下手に動くとどちらかの唇に触れてしまいそうだ。
「お主様……こんな小娘なんぞより我様の方が良い思いができるぞ」
すまん。せっかくのお誘いなのだが全く良いビジョンが思い浮かばない。
「そんな未熟な果実より、私の方が魅力的だと思わない?」
負けじとあーちゃん先輩。
こんな押しかけ神様と勝負しないでくれ。
いや、押しかけという意味ではあーちゃん先輩も同罪か。
「あの……この勝負は引き分けってことで……」
「引き分けとは……不服なり!」
シェンが不服申し立てた。
「ここは白黒はっきりさせないと……」
あーちゃん先輩も言い始めた。
「ええい、晩御飯は神聖な場、ごちゃごちゃうるさ――い!」
叫んだ。久しぶりに叫んだ。
二人共驚いたようにオレを見ている。
「いいか、これ以上騒いだら二人とも晩御飯抜きだからな!」
「「……はい」」
◆ ◆ ◆ ◆
「それでは……」
三人が手を合わせる。
あの後、三人で話し合いをしてシェンとあーちゃん先輩はオレの前に座るということで合意した。
みんなで仲良く食べる。それが大事だ。
「「「いただきます!」」」
こうしてみんなで晩御飯を食べるのなんて久しぶりだ。
「旨い!旨いのじゃ!」
シェンは嬉しそうに瞳を輝かせる。
「味噌のような見た目のくせしてちょっぴり辛目なのじゃ!」
神様大興奮。
あーちゃん先輩も美味しそうにカレーを食べている。
「ふふ、我が家の隠し味が効いているわね」
嬉しそうに食べるシェンを見てあーちゃん先輩も嬉しそうだった。なんだかんだ言ってあーちゃん先輩はシェンの事を気に入っている。
――これで張り合わなければもっといいんだけど
オレは小さくため息をついた。
□■□■□■□■用語解説□■□■□■□■
【男を持った包丁】
現実にいたら、新手の妖怪と認定されるだろう。
【相死相殺】
そうしそうさい……としか読めん。く、苦しいぞ!
ちょっと多めに作ったのでしばらくはカレーが続くだろう。
食卓にご飯を盛りつけた皿を広げる。
「お主様、そういえばさっき【にゅーす】で言っておったのじゃが……」
配膳をしながらシェンが語りかけてきた。
「この近所で男を持った包丁が家に押しかけて金品を奪っておると言っておったぞ」
「へえ……」
スゲエ。新手の妖怪だろうか。
まあいい。男を持った包丁だろうが包丁を持った男だろうがどちらもあまり大差ない。
「そうか、戸締りとか気を付けないとな」
ニュースになっているくらいだ。警察も動いているだろう。
「大丈夫なのじゃ、我様がいれば問題ないのじゃ」
シェンが自信満々で胸を張った。
「………………」
あーちゃん先輩は何か言いたげな顔をしていたが、あきらめたように「ふっ」と笑うと何事もなかったかのようにコップに水を注いでいる。
オレが座ると当然とばかりにシェンが右隣に座った。
あーちゃん先輩は負けじと左隣に座る。
「ほほう」
「ふふん」
シェンとあーちゃん先輩が互いににらみ合う。
「先程は調理を教えてもらった手前、今回だけは譲ってやるが、次はこうはいかんぞ小娘」
「あらあらシェンちゃん。嫉妬はよくないわ」
あーちゃん先輩がオレの左腕に抱きついてきた。
ふんわりとした感触がオレの腕に伝わってくる。
これは――大きめの肉まんのような柔らかさと質量を持った何か――だ。
無心だ。無心になるんだオレ。
「嫉妬ではないぞ」
右腕には慎ましく柔らかい感触が伝わってきた。
これも――何もないようでしかし今は発展途上なのでこれからが楽しみになって――いやいかん。邪念がオレを侵食し始めている。
脳裏に今朝方に見たピンクの蕾がちらついた。
――これは……精神汚染だ。じわじわと始まっているに違いない。
二人共ワザとやっているだろうか。
きっとそうだ。オレの反応を楽しんでいるに違いない。
「我様とお主様は【そーしそーあい】なのじゃ」
オレに顔を近づけてシェンが叫ぶ。
顔が近い。息がほほをなでる。
「えっ?」
オレの知らない単語だ。きっと漢字では【相死相殺】と書くのだ。相手の思いを無視して下手をすれば殺してくるような相手の事だろう。
「そういうことなら、私も負けてないわ」
あーちゃん先輩の顔が真横に迫る。
「モー君とはこれから二人で愛を育んでいくのよ♡」
耳元でオレの知らない人生設計を勝手に語りだすあーちゃん先輩。
「え……っと……」
二人の顔に挟まれオレは動けなくなった。
下手に動くとどちらかの唇に触れてしまいそうだ。
「お主様……こんな小娘なんぞより我様の方が良い思いができるぞ」
すまん。せっかくのお誘いなのだが全く良いビジョンが思い浮かばない。
「そんな未熟な果実より、私の方が魅力的だと思わない?」
負けじとあーちゃん先輩。
こんな押しかけ神様と勝負しないでくれ。
いや、押しかけという意味ではあーちゃん先輩も同罪か。
「あの……この勝負は引き分けってことで……」
「引き分けとは……不服なり!」
シェンが不服申し立てた。
「ここは白黒はっきりさせないと……」
あーちゃん先輩も言い始めた。
「ええい、晩御飯は神聖な場、ごちゃごちゃうるさ――い!」
叫んだ。久しぶりに叫んだ。
二人共驚いたようにオレを見ている。
「いいか、これ以上騒いだら二人とも晩御飯抜きだからな!」
「「……はい」」
◆ ◆ ◆ ◆
「それでは……」
三人が手を合わせる。
あの後、三人で話し合いをしてシェンとあーちゃん先輩はオレの前に座るということで合意した。
みんなで仲良く食べる。それが大事だ。
「「「いただきます!」」」
こうしてみんなで晩御飯を食べるのなんて久しぶりだ。
「旨い!旨いのじゃ!」
シェンは嬉しそうに瞳を輝かせる。
「味噌のような見た目のくせしてちょっぴり辛目なのじゃ!」
神様大興奮。
あーちゃん先輩も美味しそうにカレーを食べている。
「ふふ、我が家の隠し味が効いているわね」
嬉しそうに食べるシェンを見てあーちゃん先輩も嬉しそうだった。なんだかんだ言ってあーちゃん先輩はシェンの事を気に入っている。
――これで張り合わなければもっといいんだけど
オレは小さくため息をついた。
□■□■□■□■用語解説□■□■□■□■
【男を持った包丁】
現実にいたら、新手の妖怪と認定されるだろう。
【相死相殺】
そうしそうさい……としか読めん。く、苦しいぞ!
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