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本編
01. 名誉な男 - リノ
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結婚式である。
めでたい。
実にめでたい。
参列者には酒が振舞われ、みんな、愉快に笑っている。
俺は袖も通したことのないような上等の布で作られた晴れ着を着ている。
右手には祝いの杯を持たされ、空になると酒がつがれる。
俺の前にはひっきりなしに挨拶に人が来て、列を作っていた。
俺は魂が半分、抜けたようになりながらそれを受けていた。
ああ、そうだよ、めでたいんだよ。
もっと喜んでいいはずなんだよ、俺。
俺の横には花嫁が頭からベールをかぶりおとなしく座っている。
俺が着ているのと同じくらい上等な花嫁衣裳は綺麗だ。
うん、綺麗なんだ。
相手が「スラークの赤熊」と異名を取る騎士様だということを除けば、非常にめでたい席なんだ…
ことのおこりは3日前。
俺たちのメリニャ王国が、北の大国スラークを長い戦いの末、滅ぼして2か月。
遠征に出ていたメリニャ王のピニャータ様が多くの兵を引き連れて凱旋した。
王宮からは、皆、沿道に出て王様を出迎えるように命令が出ていた。
王都の城壁の門に一行が到着すると歓声と拍手、そして盛大な紙吹雪が舞った。
王様は白い馬に乗り、それらを受けて大きく手を振り、満足そうにされていた。
そうして、一旦、中央の広場に王様たちが止まった。
そこで、この戦いの勝利と終結を高らかに民に報告された。
歓声と拍手が一段と大きくなった。
それから見せつけるように捕虜が俺たちの前に連れてこられた。
中でも一番目を引いたのは、スラーク国騎士団副団長で、「スラークの赤熊」と称されたジュリアス様だ。
その異名の通り、ごわごわした赤毛は逆立ち、筋肉は盛り上がり、背は恐ろしく高かった。
手枷がつけられ、両足首には重い金属の球が鎖でつないである足輪もつけられている。
なにも隠し持っていないことを示すために、丈の短い貫頭衣のような服を一枚着ているだけだった。
ジュリアス様は無表情でいたが、眼光だけはやたらと鋭かった。
王様は民に捕虜を見せつけた。
そして大声で、
「さて、この捕虜をどうするかのう?
ただ牢につないでおくだけでは面白くないのう」
とニヤニヤしながら言った。
俺は正直、嫌悪した。
が、なにかできるわけでもない。
そのとき、ペリヌさんから声をかけられた。
俺はザクア伯爵のお屋敷で働いている。
下っ端の雑用係で、言われれば街へ食材を買いに行ったり、庭師の手伝いをしたり、なんでもする。
ペリヌさんは俺に指示を出す人だった。
ザクア伯爵が館に帰ったら、冷たく甘い白ワインが飲みたいとご所望されているので、それを館まで伝えてほしい、とお使いを頼まれた。
わいわいと野次が飛ぶ中央広場の隅を通って、俺は館まで行こうとしていた。
しかし、なんといってもこの人混みだ。
なかなか中央広場から抜けることができない。
ぎゅうぎゅう人に押されて、方角がわからなくなる。
「そうだ。嫁にやるのはどうだ。
スラークの赤熊を嫁にもらう男は非常に名誉なことだろう」
こういうとき、背が小柄なのは非常に困る。
あっちに押され、こっちに押され、「あっ」と気づいたときには人垣からはじかれ、王様とジュリアス様の間に放り出されていた。
「おお、名誉な男が現れたぞ!
ジュリアスを娶るのはこの男だ」
え?
王様は俺を指差して、「いや、愉快!愉快!」と大声で笑い始めた。
集まった民もそれに合わせて、
「これはめでたい!」
「赤熊を嫁にするとはなんとも幸運な奴だ!」
「赤熊もこんな男に嫁ぐことができてさぞかし嬉しいであろう!」
と、口々に悪意に満ちた冷やかしの言葉を投げかけ、その声は大きくなり中央広場中に広がった。
めでたい。
実にめでたい。
参列者には酒が振舞われ、みんな、愉快に笑っている。
俺は袖も通したことのないような上等の布で作られた晴れ着を着ている。
右手には祝いの杯を持たされ、空になると酒がつがれる。
俺の前にはひっきりなしに挨拶に人が来て、列を作っていた。
俺は魂が半分、抜けたようになりながらそれを受けていた。
ああ、そうだよ、めでたいんだよ。
もっと喜んでいいはずなんだよ、俺。
俺の横には花嫁が頭からベールをかぶりおとなしく座っている。
俺が着ているのと同じくらい上等な花嫁衣裳は綺麗だ。
うん、綺麗なんだ。
相手が「スラークの赤熊」と異名を取る騎士様だということを除けば、非常にめでたい席なんだ…
ことのおこりは3日前。
俺たちのメリニャ王国が、北の大国スラークを長い戦いの末、滅ぼして2か月。
遠征に出ていたメリニャ王のピニャータ様が多くの兵を引き連れて凱旋した。
王宮からは、皆、沿道に出て王様を出迎えるように命令が出ていた。
王都の城壁の門に一行が到着すると歓声と拍手、そして盛大な紙吹雪が舞った。
王様は白い馬に乗り、それらを受けて大きく手を振り、満足そうにされていた。
そうして、一旦、中央の広場に王様たちが止まった。
そこで、この戦いの勝利と終結を高らかに民に報告された。
歓声と拍手が一段と大きくなった。
それから見せつけるように捕虜が俺たちの前に連れてこられた。
中でも一番目を引いたのは、スラーク国騎士団副団長で、「スラークの赤熊」と称されたジュリアス様だ。
その異名の通り、ごわごわした赤毛は逆立ち、筋肉は盛り上がり、背は恐ろしく高かった。
手枷がつけられ、両足首には重い金属の球が鎖でつないである足輪もつけられている。
なにも隠し持っていないことを示すために、丈の短い貫頭衣のような服を一枚着ているだけだった。
ジュリアス様は無表情でいたが、眼光だけはやたらと鋭かった。
王様は民に捕虜を見せつけた。
そして大声で、
「さて、この捕虜をどうするかのう?
ただ牢につないでおくだけでは面白くないのう」
とニヤニヤしながら言った。
俺は正直、嫌悪した。
が、なにかできるわけでもない。
そのとき、ペリヌさんから声をかけられた。
俺はザクア伯爵のお屋敷で働いている。
下っ端の雑用係で、言われれば街へ食材を買いに行ったり、庭師の手伝いをしたり、なんでもする。
ペリヌさんは俺に指示を出す人だった。
ザクア伯爵が館に帰ったら、冷たく甘い白ワインが飲みたいとご所望されているので、それを館まで伝えてほしい、とお使いを頼まれた。
わいわいと野次が飛ぶ中央広場の隅を通って、俺は館まで行こうとしていた。
しかし、なんといってもこの人混みだ。
なかなか中央広場から抜けることができない。
ぎゅうぎゅう人に押されて、方角がわからなくなる。
「そうだ。嫁にやるのはどうだ。
スラークの赤熊を嫁にもらう男は非常に名誉なことだろう」
こういうとき、背が小柄なのは非常に困る。
あっちに押され、こっちに押され、「あっ」と気づいたときには人垣からはじかれ、王様とジュリアス様の間に放り出されていた。
「おお、名誉な男が現れたぞ!
ジュリアスを娶るのはこの男だ」
え?
王様は俺を指差して、「いや、愉快!愉快!」と大声で笑い始めた。
集まった民もそれに合わせて、
「これはめでたい!」
「赤熊を嫁にするとはなんとも幸運な奴だ!」
「赤熊もこんな男に嫁ぐことができてさぞかし嬉しいであろう!」
と、口々に悪意に満ちた冷やかしの言葉を投げかけ、その声は大きくなり中央広場中に広がった。
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