騎士が花嫁

Kyrie

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番外編 騎士が花嫁こぼれ話

57. ずっと - リノ

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インティアの身請けをしなくてよくなり、ジュリさんと俺はラバグルトさんの助けを借りながら街に家を探している。
なんだかやっと落ち着いた気分だ。
動乱が治まり、ジュリさんも戻ってきて第三騎士団に正式に所属されたし。
俺も落ち着いた気分でユエ先生から借りた本を少しずつ読み進めていった。

今日、俺は休みでのんびりしている。
ジュリさんは出がけに「少し遅くなる」と言っていたから晩メシも焦って作らなくてもいいし。
普段はなかなか集中して本が読めないから、いい機会だ。




よーし!
男のオレ様料理と言えば野菜炒めだよな!
肉も入ってる!
香辛料も利かせて、お腹を刺激する匂いだ。
あー、早くジュリさん帰ってこないかなぁ。
俺はテーブルの上に皿やカトラリーをセットして、窓から外を見た。
空はオレンジ色から紺色になっている。
そろそろ明かりもつけようかな。
ザクア伯爵様のところで働いていたときには、こんな贅沢は考えられなかった。
ろうそくも、そしてオイルランプも灯せるだなんて!
ジュリさんが俺を待っていてくれるときはいつも、明かりをつけてくれている。
俺が帰ってきたとき、ほっとできるように、だって。

早く帰ってきてよ、ジュリさん。
明るくして待ってる。





ドアが開く音がして、ジュリさんが帰ってきた!
俺はジュリさんに飛びつき「おかえり」のキスをする。

「お疲れ様、ジュリさん。
野菜炒めあっためるから、待ってて!」

俺が台所に行こうとすると、ジュリさんが止めた。

「なに?」

俺が振り向くと、ジュリさんはそっと布の袋を手渡してくれた。
これはジュリさんが買い物したときに荷物を入れる袋だ。

「なにか買ってきたの?」

俺は受け取り、袋から中身を取り出した。

うわ……………

ジュリさんを見ると、ちょっと照れたようなジュリさんが緑の目で俺を見てた。

「ジュリさん、これ……」

「さ、着てみてください」

俺の手の中にあるのは、シャツが二枚。
広げてみると、初めてジュリさんに買ってもらったシャツより大きい気がした。

「リノはぐんと背が伸びたからな。
前のはもう着られないだろう」





ジュリさんが俺にシャツを初めて買ってくれたのは、まだザクア伯爵様のところにいて庭師の小屋にジュリさんと住んでいた頃だ。
ジュリさんのことを知ろうとしてあれこれ話しかけていたら、「外に行きたい」とおっしゃった。
足枷をはめたままだったけど、ジュリさんと街に出かけたらシャツを二枚買ってくれた。
俺は施設で育ったので、この時が「おさがりではない自分の服」を買ってもらった初めての時になった。

しかし、一枚は暴漢に襲われてナイフでずたずたにされ、そのあと受けた暴行で怪我をした俺から脱がすためにはさみで切られてしまった。
もう一枚は大事に着ていたけれど、クラディウス様とジュリさんが王都警護のために出ていっている間、俺の背が伸びて入らなくなってしまった。
そのあとはインティアが適当に見繕ってくれたシャツを着ていて、今もそのままだ。



俺は緊張しながら、今着ているシャツを脱いで新しいシャツを着てみた。
ぴしっとのびた生地のせいで、俺も心なしかぴんと背筋を伸ばす。

「ね、ジュリさん、どう?」

俺が最後のボタンを留め終わるとジュリさんのほうを向いた。
ジュリさんは視線を上下させ、俺を後ろに向かせてまた眺めているみたいだった。

「あ、あの……
っ!」

背中からジュリさんが抱きしめてきた。

「似合ってるぞ、リノ」

「ありがとう、ジュリさん」

俺はすっぽりとジュリさんに包まれている。
そしてやっとお礼が言えた。
ジュリさんは耳元で囁く。

「今日、第三に正式所属になって初めての給料日だったんだ。
リノにシャツを買ってやりたくて。
気に入ったか?」

「もちろん!
嬉しいです、ジュリさん!
今度こそ大切に着ますね」

「リノ」

「はい」

「また次もリノのシャツを俺が買っていいか?」

俺はジュリさんの腕の中でくるりと回り、ジュリさんに抱きついて言った。

「本当?
また買ってくれるの?」

「ああ。
買わせてください」

どうしよ……
嬉しすぎて、俺、涙が出る。

「ありがとう、ジュリさん。
ありがとうございます。
でもジュリさんがほしいものを先に買ってくださいね。
俺のシャツ、後回しでいいから」

ジュリさんの大きな手で涙が拭われる。

「俺のほしいものがリノのシャツだ」

ジュリさんもぎゅっと俺を抱きしめ返してくれる。
ああ、ジュリさん……

「ずっとずっと俺のシャツ買ってください。
って言ったら、ダメかな」

「ずっと買わせてくださいますか、旦那様?」

「お願いします、ジュリアス様」


俺たちは泣いたり笑ったりしてずっと抱き合っていた。

野菜炒めは水っぽくなってしまったけど、ジュリさんはおいしいと食べてくれた。







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