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第5話 再会
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夜の花街は隠微な光とにぎわいにあふれていた。
都の花街の周りには、花街で遊ぶより安く身を売る者たちがいたり、遊ぶ前に一杯やっていくための小さな店がたくさんあった。
竜騎士ダイスはそんな中をのろのろとたまによろけながらひとり歩いていた。
「おう、ダイスの旦那!」
急に名前を大声で呼ばれ、「こんなところで一体誰だ」と腹立たしく声をしたほうを向くと、なんと解体屋のザムエルが腕に女を絡ませ歩いていた。
「ザムエルさん」
まさかここで会うとは思っていなかったので、ダイスは驚いた。
「お元気でしたか」
「それは私がお聞きしたかったです。
あのあと、けがは?
なかなか機会がなくお礼が言えなくて申し訳ありませんでした」
「いやいや、竜騎士様にわざわざ来ていただいていたみたいで、すみません。
ザジから聞きましたよ。
ありがとうございました。
俺はご覧の通りですぜ」
「ああ、よかった」
血色がよく元気そうなザムエルを見て、ダイスはほっとした。
「ねーえー、ザムエル。早く行きましょうよう」
ザムエルの腕に絡みついている女が言った。
さっきから不機嫌そうな顔をし、ザムエルに大きくあいた胸元を擦り付けるようにしたり、しなだれかかったりしている。
ザムエルがそれに応えないので、待てなくなったらしい。
「ダイスの旦那、お時間ありますか。
あのときの礼をさせてください」
「ちょっとお。私との約束はどうなのよ」
「マニャータ、この旦那は俺の命の恩人さ。
なに一つ礼をしていないんだ。
今日のところはこっちが優先だ」
「でも」
「さ、旦那、行きましょう。
うまい肉を出す店を知ってますんで」
ザムエルは強引にダイスを促し、マニャータはザムエルから離れるものかと一緒についてくる。
ザムエルは自分が肉を卸している店にダイスを連れていき、空いていたカウンター席に着いたところでマニャータは今夜はだめだと諦めたらしい。
「じゃあさあ、私に乾杯のお酒をおごらせてよ。ザムエルの恩人の騎士様なんでしょう」
これを断るのもかわいそうになり、ザムエルは承諾した。
マニャータは注文を取っている娘に声をかけると顔なじみのようで、大きい陶器のジョッキにビールを用意してもらい運んできた。
「じゃあ、次は相手をしてよ、ザムエル」
「マニャータ、ビールありがとな。
じゃ、ダイスの旦那、乾杯!」
「乾杯!」
マニャータはこれから盛り上がりそうな2人を置いて、店から出て行った。
あまり飲み食いしていなかったので、遅い時間にも関わらずダイスは勧められるままにザムエルの注文した料理を食べ、ビールを飲んだ。
ザムエルが言うだけあって、肉料理はどれもうまかった。
鉄板で焼いたの、串を刺して焼いたの、蒸したの、煮込んだの。
中にはあのインペゲの肉もあった。
再会したときには元気のなかったダイスは、うまい飯と酒、そして意外と聞き上手なザムエルとの会話にすっかり気をよくし、いい具合に酔っぱらっていった。
「ダイスの旦那、さっきはどうしてあんなに元気がなかったんですか」
そう聞かれてダイスはジョッキをテーブルの上に置き、うつむいた。
普段なら話すことはなかっただろう。
しかし周りは陽気に酔っぱらい大声で楽し気に話している。
横には頼もしいザムエルが自分の話をしっかり聞いてくれている。
ダイスはつい、話してしまうことになった。
そもそもダイスが花街にいたのは先輩騎士に連れられてきたからだ。
自分から花街へ繰り出したことは、一度もない。
あのインペゲ討伐から戻り、打撲やけがの療養を経て、ダイスは竜騎士として復帰した。
ザムエルと過ごしたあの時間は、自分がいかにふがいないかを痛感するものだった。
特にワイバーンの羽毛に食らいつき吸血するドリンキについてはすでに履修済みだったのにも関わらずそれを忘れ、大切な救援花火の使い方も悪かったので、厳しく指導された。
ダイスも緊急時に対応できるようになりたい、と頑張ってはいた。
ダイスは地方の中流貴族の五男で、素質が目に留まり都で騎士養成所に入ることになった。
養成所の卒業間際に行われるドラゴン適性を確認されたとき、竜騎士に向いていると判断されたためそちらに進むことになった。
ドラゴンは人嫌いなものも多く、いくら優れた騎士でもドラゴンが気に入らなければ竜騎士になることができない。
ここ数年はワイバーンが気に入る騎士がいなかったので、ダイスは久しぶりの新しい竜騎士として迎え入れられた。
普段は訓練のため山にいることが多いが、街に出れば花形であることもあり、ダイスは調子に乗っていた。
戦争もほとんどなく、ワイバーンを使うほどのモンスター討伐があるわけでもなかった。
ダイスは経験が乏しいまま、インペゲ解体の場に参加し、自分の力不足を知った。
すぐにでも「できる男」になりたかった。
次にザムエルと会ったときには「頼れる竜騎士」としていたかった。
だが、それは焦りとなり努力するものの結果には結びつかず、空回りばかりしていた。
それがまた新たな焦りを生み、次の焦りを生んだ。
見かねた先輩がダイスの休暇を取り、山から下りて街に遊びに連れ出した。
「……できなかったんですよ」
「できなかった……って、勃たなかった、ってことで?」
「………ん、まぁ、そうなんです」
「でも相手はあのビキでしょう?」
先輩が手配してくれたのは、最近花街でも噂のビキという女だった。
若くてちょっと強気の美人だった。
やや吊り上がった大きな目をし、口元には蠱惑的なほくろがあった。
花街ですぐにビキの待つ部屋に連れていかれ、ダイスも若い男なのでその気になるとすぐにビキをベッドに押し倒し、そのみずみずしい身体にむしゃぶりついた。
身体も心も興奮していた。
そのはずだったのに。
「いや、その前まではちゃんと」
「勃ってた?」
「……はぃ」
ビキも今を時めく年若い竜騎士を初めて相手にし、浮かれていた。
美男、というわけでもなかったが、人懐っこい笑顔が魅力的だし、粗野な言動はしない優しい男だった。
はちみつ色の長い髪もつやつやしていて、ビキの好みに合った。
なのに、いざ挿れる、というときになり途端に勢いを失った。
焦ったビキは手淫口淫を施してくれたが、それ以上に焦ったダイスとダイスのダイスは復活することはなく。
「あんたって役立たずっ!と言われ……」
「天下の竜騎士様になんてこった。
まぁ、ビキも若いし、そういうときの対処を知らなかったのかもしれませんな」
「………」
「もうちょっと玄人の女なら、そこは優しく包み込んでくれるんですけどねぇ」
「それも…いたたまれないかも……」
「まぁ、そうですけど」
うながされるまま、こんなことまでしゃべってしまうなんて。
と思いながら、ダイスは自分が元気がない理由をザムエルに話していた。
「ほんとに『役立たず』なんですか、ここ?」
隣同士に座っているとはいえ、横を見るとザムエルの顔がすぐそこにあった。
赤くとろんとした顔をしているなんて珍しいな、とダイスがぼんやり思ったときには足のつけ根をさすさすとザムエルにさすられていた。
「え」
と驚いたときには、その手は股間をなでていた。
「そんなことなさそうですぜ」
「あああああ?!」
確かに。
あのときはどうにもならなかったダイスのダイスは、ザムエルのアイスブルーの目を見つめたときぴくりと反応したのだった。
「カッコつけようとしたんじゃないんですか、旦那」
ザムエルの手はまだダイスの足のつけ根に置かれている。
「大丈夫ですって。落ち込むこたぁありませんよ」
ザムエルは勢いよく椅子から立つと、ダイスの手首を取って店の者と二三、言葉を交わすとずんずんと二階に上がっていった。
***
ブログ ちょっと動き出したぞー! / ワイバーンの背中 第5話
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都の花街の周りには、花街で遊ぶより安く身を売る者たちがいたり、遊ぶ前に一杯やっていくための小さな店がたくさんあった。
竜騎士ダイスはそんな中をのろのろとたまによろけながらひとり歩いていた。
「おう、ダイスの旦那!」
急に名前を大声で呼ばれ、「こんなところで一体誰だ」と腹立たしく声をしたほうを向くと、なんと解体屋のザムエルが腕に女を絡ませ歩いていた。
「ザムエルさん」
まさかここで会うとは思っていなかったので、ダイスは驚いた。
「お元気でしたか」
「それは私がお聞きしたかったです。
あのあと、けがは?
なかなか機会がなくお礼が言えなくて申し訳ありませんでした」
「いやいや、竜騎士様にわざわざ来ていただいていたみたいで、すみません。
ザジから聞きましたよ。
ありがとうございました。
俺はご覧の通りですぜ」
「ああ、よかった」
血色がよく元気そうなザムエルを見て、ダイスはほっとした。
「ねーえー、ザムエル。早く行きましょうよう」
ザムエルの腕に絡みついている女が言った。
さっきから不機嫌そうな顔をし、ザムエルに大きくあいた胸元を擦り付けるようにしたり、しなだれかかったりしている。
ザムエルがそれに応えないので、待てなくなったらしい。
「ダイスの旦那、お時間ありますか。
あのときの礼をさせてください」
「ちょっとお。私との約束はどうなのよ」
「マニャータ、この旦那は俺の命の恩人さ。
なに一つ礼をしていないんだ。
今日のところはこっちが優先だ」
「でも」
「さ、旦那、行きましょう。
うまい肉を出す店を知ってますんで」
ザムエルは強引にダイスを促し、マニャータはザムエルから離れるものかと一緒についてくる。
ザムエルは自分が肉を卸している店にダイスを連れていき、空いていたカウンター席に着いたところでマニャータは今夜はだめだと諦めたらしい。
「じゃあさあ、私に乾杯のお酒をおごらせてよ。ザムエルの恩人の騎士様なんでしょう」
これを断るのもかわいそうになり、ザムエルは承諾した。
マニャータは注文を取っている娘に声をかけると顔なじみのようで、大きい陶器のジョッキにビールを用意してもらい運んできた。
「じゃあ、次は相手をしてよ、ザムエル」
「マニャータ、ビールありがとな。
じゃ、ダイスの旦那、乾杯!」
「乾杯!」
マニャータはこれから盛り上がりそうな2人を置いて、店から出て行った。
あまり飲み食いしていなかったので、遅い時間にも関わらずダイスは勧められるままにザムエルの注文した料理を食べ、ビールを飲んだ。
ザムエルが言うだけあって、肉料理はどれもうまかった。
鉄板で焼いたの、串を刺して焼いたの、蒸したの、煮込んだの。
中にはあのインペゲの肉もあった。
再会したときには元気のなかったダイスは、うまい飯と酒、そして意外と聞き上手なザムエルとの会話にすっかり気をよくし、いい具合に酔っぱらっていった。
「ダイスの旦那、さっきはどうしてあんなに元気がなかったんですか」
そう聞かれてダイスはジョッキをテーブルの上に置き、うつむいた。
普段なら話すことはなかっただろう。
しかし周りは陽気に酔っぱらい大声で楽し気に話している。
横には頼もしいザムエルが自分の話をしっかり聞いてくれている。
ダイスはつい、話してしまうことになった。
そもそもダイスが花街にいたのは先輩騎士に連れられてきたからだ。
自分から花街へ繰り出したことは、一度もない。
あのインペゲ討伐から戻り、打撲やけがの療養を経て、ダイスは竜騎士として復帰した。
ザムエルと過ごしたあの時間は、自分がいかにふがいないかを痛感するものだった。
特にワイバーンの羽毛に食らいつき吸血するドリンキについてはすでに履修済みだったのにも関わらずそれを忘れ、大切な救援花火の使い方も悪かったので、厳しく指導された。
ダイスも緊急時に対応できるようになりたい、と頑張ってはいた。
ダイスは地方の中流貴族の五男で、素質が目に留まり都で騎士養成所に入ることになった。
養成所の卒業間際に行われるドラゴン適性を確認されたとき、竜騎士に向いていると判断されたためそちらに進むことになった。
ドラゴンは人嫌いなものも多く、いくら優れた騎士でもドラゴンが気に入らなければ竜騎士になることができない。
ここ数年はワイバーンが気に入る騎士がいなかったので、ダイスは久しぶりの新しい竜騎士として迎え入れられた。
普段は訓練のため山にいることが多いが、街に出れば花形であることもあり、ダイスは調子に乗っていた。
戦争もほとんどなく、ワイバーンを使うほどのモンスター討伐があるわけでもなかった。
ダイスは経験が乏しいまま、インペゲ解体の場に参加し、自分の力不足を知った。
すぐにでも「できる男」になりたかった。
次にザムエルと会ったときには「頼れる竜騎士」としていたかった。
だが、それは焦りとなり努力するものの結果には結びつかず、空回りばかりしていた。
それがまた新たな焦りを生み、次の焦りを生んだ。
見かねた先輩がダイスの休暇を取り、山から下りて街に遊びに連れ出した。
「……できなかったんですよ」
「できなかった……って、勃たなかった、ってことで?」
「………ん、まぁ、そうなんです」
「でも相手はあのビキでしょう?」
先輩が手配してくれたのは、最近花街でも噂のビキという女だった。
若くてちょっと強気の美人だった。
やや吊り上がった大きな目をし、口元には蠱惑的なほくろがあった。
花街ですぐにビキの待つ部屋に連れていかれ、ダイスも若い男なのでその気になるとすぐにビキをベッドに押し倒し、そのみずみずしい身体にむしゃぶりついた。
身体も心も興奮していた。
そのはずだったのに。
「いや、その前まではちゃんと」
「勃ってた?」
「……はぃ」
ビキも今を時めく年若い竜騎士を初めて相手にし、浮かれていた。
美男、というわけでもなかったが、人懐っこい笑顔が魅力的だし、粗野な言動はしない優しい男だった。
はちみつ色の長い髪もつやつやしていて、ビキの好みに合った。
なのに、いざ挿れる、というときになり途端に勢いを失った。
焦ったビキは手淫口淫を施してくれたが、それ以上に焦ったダイスとダイスのダイスは復活することはなく。
「あんたって役立たずっ!と言われ……」
「天下の竜騎士様になんてこった。
まぁ、ビキも若いし、そういうときの対処を知らなかったのかもしれませんな」
「………」
「もうちょっと玄人の女なら、そこは優しく包み込んでくれるんですけどねぇ」
「それも…いたたまれないかも……」
「まぁ、そうですけど」
うながされるまま、こんなことまでしゃべってしまうなんて。
と思いながら、ダイスは自分が元気がない理由をザムエルに話していた。
「ほんとに『役立たず』なんですか、ここ?」
隣同士に座っているとはいえ、横を見るとザムエルの顔がすぐそこにあった。
赤くとろんとした顔をしているなんて珍しいな、とダイスがぼんやり思ったときには足のつけ根をさすさすとザムエルにさすられていた。
「え」
と驚いたときには、その手は股間をなでていた。
「そんなことなさそうですぜ」
「あああああ?!」
確かに。
あのときはどうにもならなかったダイスのダイスは、ザムエルのアイスブルーの目を見つめたときぴくりと反応したのだった。
「カッコつけようとしたんじゃないんですか、旦那」
ザムエルの手はまだダイスの足のつけ根に置かれている。
「大丈夫ですって。落ち込むこたぁありませんよ」
ザムエルは勢いよく椅子から立つと、ダイスの手首を取って店の者と二三、言葉を交わすとずんずんと二階に上がっていった。
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